見出し画像

猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード6:選ぶべきはハウスメーカー?それとも建築家?

ここを読まれている方の多くが、個人で猫専用賃貸を作りたいと画策されている方かと思います。今回は個人で賃貸経営をお考えの方に向けて、建築はハウスメーカーに頼むべきか、建築家に頼むべきなのかをお伝えしたいと思います。
建築家を選び、フルオーダーメイドでの家作りに挑戦したGatos Aptを皮切りに、これまで6棟の猫専用賃貸を小規模アパートから中型マンションまでプロデュースして来ました。その内、3棟がハウスメーカーを利用して建築を行っています。結論から言いますと、どちらを利用しても大丈夫です。ただし、それぞれにメリット/デメリットがあり、それを充分に理解した上で、という条件付きです。それでは、建築家のメリット/デメリットから見て行きましょう。

建築家を選んだ場合のメリット/デメリット

メリット
 ① 自分の思い描く通りの家を作る事ができる
 ② センスの良い、個性的な家を作り易い
 ③ ハウスメーカーより総工費が安くなる可能性がある
 ④ 融通が利く

①が建築家を選択する最大の理由ではないかと思います。特に私が作る「猫専用の賃貸物件」のような特殊物件を満足行くよう仕上げるには、センスが良く、根気強く施主の要望を汲み取ってくれる優秀な建築家が不可欠です。
②に関しては個性を強調したハウスメーカーも台頭して来ている事に加え、センスの良し悪しは個人の主観に左右されるので、ハウスメーカーだから没個性か?と言われると一概にそうとは言い切れません。住宅展示場のモデルハウスが良い例です。住宅展示場に行くと素敵なお家ばかりが並んでいますが、展示場に建っているモデルハウスはそのメーカーの最上級グレードで建てられています。採算度外視で建てれば建築家であろうがハウスメーカーであろうが素敵なお家になるのは当たり前の話しです。多くの施主が限られた予算の中で建てて行くと自ずとダウングレードが当たり前となり、世の中に似たような建物が量産されて行くので、シロウトでもパッと見ただけでハウスメーカー・クオリティーであることを見抜けてしまうようになるのだと思います。多くの建築家はこれを理解しており、尚且つ自身の建築家としてのアイデンティティーを最大限に発揮しようとするので「デザイナーズ物件」と言われる個性的な建物になり易いのです。
③は、その建築家の経験と付き合いのある工務店の数などにより大きく差が出る部分なので一概にメリットとは言い難いですが、ハウスメーカーと違い部材等に関して制約を受けない為、安い部材を使ったり、普通は使わない部材を使ったりと、カッコ良さを担保しつつ、いかに安く仕上げるかと言った事に長けている建築家が多いです。また、夫婦など2、3人で小規模経営している建築家が多いので、ハウスメーカーに比べて人件費が掛からず、同レベルの家を建てた場合、上手くやればハウスメーカーより安い値段で建てられます。
④も建築家の性格に左右されますが、例えば床材をフローリングからタイルに変えたくなった、当初予定のなかったロフトを作りたくなった、天窓を付けたくなったなど、特に家を建てることが初めての施主の場合、建築を進めていると途中で変更したくなることが出て来るものです。ハウスメーカーの場合、スケジュールに影響するような大きな変更は中々受け入れてもらえず、後から「こうすれば良かった」と後悔したという話しを良く聞きます。建築家であっても事の大小によって出来る事と出来ない事がもちろんありますが、ハウスメーカーよりは柔軟に施主のわがままを許容してくれますし、最適な解決策を一緒に考えてくれます。

デメリット
 ①初回打合せから着工まで時間がかかる
 ②バジェットコントロールが難しい
 ③スケジュール管理が難しい
 ④良い建築家/事務所を見つけるのが難しい

①〜③まで、要因として言える事は、大企業(ハウスメーカー)と中小企業・個人事業主の違いにより発生する、という事です。多くの建築家事務所は少人数で運営されており、建築家自身が設計、予算管理、工程管理、行政との折衝など数多くの仕事を兼任しているケースも少なくありません。どんなに優秀な人物でも1人で行っていれば当然時間もかかってしまいます。
①は、建築家は施主が何を望んでいるのか、そこに建築家自身が表現したいアイデンティティーとどう折り合いを付けらるかを探りながら建築計画を立てて行きます。建築家によりそのスタイルはマチマチですが、親身になってくれるほど図面完成まで時間が時間が掛かりがちです。
図面が完成した後は、実際に建ててくれる工務店の選定になります。多くの場合、建築家が懇意にしている工務店が担当することになりますが、建築家を選ぶ際に、何軒くらい懇意の公務店があり、何棟建てているのか、評判はどうかといったポイントを抑えておく必要があります。若く経験の浅い建築家を選んだは良いものの知り合いの工務店がなく、工務店選びに苦労したという話しを良く耳にしますし、実際、私も苦労したことがあります。
無事に工務店も決まり、工事開始となった段でほぼノータッチになる建築家も少なくありません。つまり工期管理と予算管理を工務店に丸投げする建築家がいると言うことです。何度も場数を踏んでいて、建築家と棟梁の人間関係が良好で、これまでも問題なくその方法で行って来ているような状況では比較的安心ですが、たまに現場に顔を出して状況はメールや電話ベースのみで確認し、竣工日近くになり現場に行ってみたら予定が大幅に遅延していた、ということを実際に経験したことがあります。
「建築家の仕事は良い図面を描くこと」と思っている建築家が多いように思います。もちろんその通りですが、建築計画を円滑に遂行するには、予算管理、工程管理が不可欠です。事務所の大小に関わらずこうしたことは業務として行ってくれますが、疎かになってしまう事務所が多いのも事実なのです。また建物は竣工したら終わりではありません。年を追う毎にメンテナンスが必要となります。ここも「竣工後は何かあったら工務店によろしく」と、責任放棄に近い態度を取る所もあるのです。これは極端な例だとしても、アフターサービスの充実を喧伝している大手ハウスメーカーに較べれば、個人事務所レベルでアフターサービスを謳い文句にしている所はほとんどありません。
結局は④の「良い建築家と出会う」ことが出来るかどうかが唯一の成功の鍵と言えます。多くの施主が、建築家を起用した注文住宅建築に漠然とした不安を抱く最大の要因がコレだと思います。

ハウスメーカーを選んだ場合のメリット/デメリット

メリット
 ① 初回打合せから着工/竣工が早い
 ② バジェットコントロールが容易
 ③ スケジュール管理が容易
 ④ クオリティーコントロールが容易
 ⑤ アフターサービスがしっかりしている

実際にハウスメーカー数社と仕事をして最も驚いたことが、①のスピード感です。打合せ回数だけで言えば、ハウスメーカーの打合せは建築家と較べて1/3以下です。ハウスメーカーの場合、風呂、トイレ、洗面器、キッチン、ドア、サッシ、床材、壁紙といった建築資材・設備がグレードによって決められています。決められた中から選んで行く事で大幅にタイムロスを防ぐ事ができます。顧客と社内との調整は担当営業マンの仕事ですが、場数を踏んだベテランほどルーティン化し、顧客ニーズを先読みする事ができるようになるので、更にスムーズに事が運ぶのです。また建築士、インテリアコーディネーター、外構などの専門家が社内にいるため情報共有が早く、分業化により各専門家が同時進行で動くので1回の打合せで多くのことを決めることができ、圧倒的に早く着工まで進めることが出来ます。
②、③がシッカリしていることも大きなメリットと言えるでしょう。「予算管理がシッカリしているってどう言うこと?建築家だって最初に予算を決めたらそれ以上は掛からないでしょ?」と思う方もいらっしゃることでしょう。私も最初はそう思っていました。ほとんどのハウスメーカーの場合、建築部材を自社購入しているため外部要因による値上げや供給不足と言った事態に陥ることがありません。一方で建築家利用に場合、工務店の力量に左右されてしまいます。例えば、概算見積の金額より高い値段で部材を仕入れた場合、差額はそのまま施主に請求されます。2021年5月現在、コロナ禍の影響により建築用木材の値段が高騰しており、多くの建築現場がストップするという事態が発生しています。鉄材も世界の経済情勢に影響され易い部材です。需要が増えればストックは少なくなり、値段も上がります。都度発注する工務店を利用した場合(ほとんどがそうだと思いますが)、この影響をモロに受けてしまうのです。もし銀行にその分の余剰資金がなければ、工事停止になるかもしれないのです。ハウスメーカーであればその心配が少なくなります。
③スケジュール管理も分業化により担当者が密に現場とコンタクトをすることが出来るのが大きいです。最近では独自にスケジュール管理をIT化し、漏れがないようにチェックするメーカーもあります。メーカーからすると工期の遅れは施主に対する責任はもちろんですが、自社の損失に繋がります。遅れるほど自社のリソースを取られることになり、次のクライアントに移ることができなくなります。ハウスメーカーと言えども、自社で工事するところはなく、ほとんどが工務店へ外注します。下請けの公務店側も大口顧客であるハウスメーカーの言う事は優先順位を上げて対応するのが実情です。
④「クオリティーコントロール」とは、建物の精度を意味しています。多くのハウスメーカーが2x4(ツーバイフォー)などの工法に則って建築を行っています。これにより現場で大工さんが木材を切ったりといった工程が必要なくなります。大工さんは運ばれてきた部材を現場で組み立てることが主な作業になります。これによりスキルの低い人が作業にあたっても一定のクオリティーを担保することが出来ると共に、大幅に工期を短縮することが出来ます。
⑤も重要な項目です。大手になるほどコンプライアンスを重視するので、建てた後の定期的な家屋点検を最初から謳い文句にするメーカーも多数あります。建築家/工務店で建てた場合も勿論、瑕疵保証がありますし、お願いすれば対応してくれます。が、培って来た対人関係によって対応が変化するウエットな付き合いが必要なのに対して、ハウスメーカーはもっと事務的でドライです。またハウスメーカーであれば担当者に連絡すればそれでOKですが、建築家、工務店、電装工、外構工などとステークホルダーが多数いる場合、力関係によりどこに連絡すれば良いか案件毎に考える必要があり、煩雑になりがちです。もし建築事務所や工務店が破産や廃業した場合、ハウスメーカーであればハウスメーカーが責任を持って後任を探してくれますが、建築家利用の場合そうは行きません。

デメリット
 ① 遊び心に乏しく没個性
 ② 全てを用意された物の中から選ばなければならない
 ③ 融通が利かない

考えようによっては没個性であることはメリットになるケースもありますが、やはりハウスメーカーで建てたアパートは一目でそれと分かる外観(エクステリア)をしています。「このアパートに住みたい!」と思ってもらう重要要素の一つがエクステリアです。ここに住んでいることを人に自慢したくなるような建物にするには、同予算内でという条件で考えると建築家の建物の方が実現しやすいでしょう。
猫専用で考えた場合、②が大きな足枷になります。猫が脱出しないよう隙間をなくしたバルコニーフェンス、ロフトの設置、猫用の窓など、建築家との場合ですんなり出来たことが、簡単にできなくなります。ハウスメーカーの場合、全てが決められた中から選んで行くため、ちょっとでも特殊な要望は全て特注になります。そしてこの特注にかかる費用が莫大になりがちです。私がプロデュースを請け負った物件での話しです。ロフトへの動線を「梯子を設置して欲しい」とハウスメーカーへ打診した所、打合せに出席していたハウスメーカー社員全員が困った顔をしました。「次回の打合せで梯子にした場合の見積もりを用意します。」と回答を貰いました。そして出て来た見積もりにビックリしたのです。何と梯子1つ取り付けるのに1部屋100万円必要だと言うのです。ハウスメーカー担当者は「梯子の取付けは今回のプランに含まれていないので特注になります。梯子は弊社で作成出来ないため外注することになるのでこの値段になります。」と説明を受けました。「ロフトまでの動線を普通の階段にすればプラン内ですので、差額なしで出来ます。」とシレッと言うのです。施主も私も呆れ果て、結局は階段を付けることで落ち着きましたが、どう考えても梯子を付ける方が安上がりな筈なのです。ハウスメーカーではこうしたことが頻繁に起こります。
上述のエピソードが③「融通が利かない」の一例です。会社組織であるハウスメーカーは、業務が細分化されています。営業、管理、設計、発注などそれぞれ自身の仕事を自身の部署で発揮することが自身の業績となります。彼らは「サラリーマン」ですので、目の前にある自分のタスクをいかに効率良く消化するかを重点的に考えます。特注ばかり増え、建築プロジェクトが滞ることは評価の低下に繫がりますので、自ずと融通が効かなくなるのです。

自分の状況に応じた選択を

2021年5月、八王子にある賃貸アパートの階段が崩落し、入居者が死亡するという事故が起こりました。この痛ましい事故は起こるべくして起こったと言えることが捜査の進行に伴い判明して来ました。施工を行っていた則武地所が無理な工期で工事を行い、本来使う筈の部材も安い物にすり替わっていたりと、杜撰な経営体質が招いた人災と言えるようなものでした。この会社は地場で20年近く活動しており、この事故物件以外の賃貸も同様に欠陥工事であった可能性が非常に高いと言われています。
大和ハウス工業が建築基準に違反した賃貸住宅を施工して摘発されたり、レオパレス21の賃貸物件が大量不良工事だったことが発覚したり、大手だからと言って安心できる時代ではありません。
大事なのは、全てを直感に頼ったり、面倒くさいから大手から選ぼうと言った思考停止の安易な選択をしないことです。これまでの人生において使ったこともない大金を払う一大事業であることを肝に銘じ、充分に比較検討を行い、両者のメリット/デメリットを理解した上で決定することが結果的に一番の早道です。


いいなと思ったら応援しよう!