猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード1:猫専用賃貸誕生のキッカケ
なぜ「猫専用賃貸」を作ろうと思ったのか?
こんにちは、Gatos Apartmentの木津イチロウと申します。
冒頭の写真は一緒に暮らすウーです。ウーの母猫チーと妻、娘の3人と2匹で、東京都杉並区のGatos Apartmentに暮らしています。Gatos Apartmentは「猫と人が快適に暮らすための賃貸」というコンセプトの元、土地探しから始まり、約2年の歳月をかけて完成した世界初の猫専用デザイナーズ・アパートメントです。今回は、一番最初の投稿として、なぜGatos Apartmentを造ることになったのか、そのきっかけをお話したいと思います。
2008年当時、私は妻と一緒に暮らすため、杉並に賃貸に引越しました。60㎡ほどの2階建て2LDKで、専用庭が付いている物件でした。
引越し初日、リビングで荷解きをしていると、庭に気配を感じました。猫が窓越しに室内の様子を伺っていたのです。どうやら前の住人が餌付けをしていたらしく、人の気配を察知して「帰って来た!」と思ったのでしょう。あまり怖がらず人馴れしている様子でした。もともと猫好きだった私たちはその猫に餌を与え、たまに部屋の中へ入れてあげると言った、いわゆる「外飼い」状態での付き合いが始まりました。痩せて小さな猫だったので「チビ」を縮めて「チー」と名付けました。数ヶ月経ったある日、チーがいつものように家に来ました。窓を開けると、サッシの棧の下に見慣れない物がいることに気付きました。ブルブルと震えるその小さい姿は鳥のようでした。咄嗟に「チーがウズラを捕まえて来た!」と叫びました。が、良く見ると小さい仔猫でした。仔猫は両眼が目ヤニで塞がってしまい、眼が見えない状態でした。きっと親猫チーが「この子を助けて!」と必死になって連れてきたのでしょう。慌ててその仔猫を家に抱き入れ、動物病院へ連れて行くことにしました。
動物病院の先生から入院手術になることを告げられました。ウズラに見間違えたことから「ウー」と名付けたこの猫を病院へ預け、一旦帰宅しました。家に帰ると心配そうにチーが窓のところでこちらを伺っています。可哀想になり、チーを家に入れてあげることにしました。数日後、ウーは手術を終え、無事退院することが出来ました。迎えに行くと手術したばかりで両目には包帯が巻かれており、獣医さんから「様子を見たいので来週また連れて来てください。」と言われました。包帯でグルグル巻きになっている仔猫を外に放り出すわけにも行かず、親猫共々、家で一時的に保護してあげることにしました。と言うのも私たちの心積もりとして「猫を飼う。」ということは全く考えていませでしたし、何より住んでいる賃貸はペット不可だったのです。
通院も終わり、包帯の取れたウーは眼が見えるようになり、みるみる元気になって行きました。仔猫の可愛らしい仕草や親猫チーの賢さにすっかり情が移っていた私たちは、「犬のように鳴いたりしないし、猫2匹くらいペット不可だけど飼っても大丈夫だよね。」と勝手な理論で正当化し、ズルズルと2匹と一緒の生活を楽しんでいました。
2ヶ月ほど経ったある日の夜のことです。この時も半野良状態で生活していたチーは、ものすごく慎重な性格でちょっとでも不安に思うと行動に移さないサバイバル能力に長けた猫で、普段は2階に足を踏み入れません。そのチーがなぜか2階に登ったまま戻って来ないのです。夕飯の晩酌を夫婦でしたいた時、妻が「チー、2階から戻って来ないね。ちょっと様子を見てくる。」と階段を登って行きました。すると2階から妻の素っ頓狂な声が1階に響いたのです。
「大変!チーが出産してる!」
妻の声に驚き、酔いも一瞬で冷めた私は2階へ駆け上ります。ベッドの下に隠れるようにしてチーの姿が見えました。お尻から小さな頭が出ているじゃありませんか!二人ともどうすれば良いか分からず「チー!頑張れ!」と応援することしか出来ませんでした。程なくして3匹の仔猫が産まれました。
産まれた仔猫たちのへその緒を取り、温かく濡らしたタオルで体を拭いてやり、そっとチーの元へ戻すと3匹は元気にお乳を吸いました。かくしてペット不可の賃貸に5匹の猫を匿ってやらなければならない事態に陥ってしまったのです。
人間や犬は「自然排卵」と言い、メスが排卵する前後数日に受精すれば妊娠する仕組みです。対して猫は「交尾排卵」と言い、交尾した刺激で妊娠する仕組みになっています。精子を迎えるように排卵が起こるため、交尾すればほぼ確実に妊娠します。猫は1回のお産で平均6匹産み、年間で平均3回妊娠/出産をすると言われています。
そんな知識、当時の私たちには全くありませんでした。数ヶ月前に幼いチーを連れて来た猫がそんなにすぐ妊娠するとは思ってもいなかったのです。この仔猫3匹が産まれる前も、病院に連れて行く時は妻にアパートの廊下を見張ってもらって誰もいない時にボストンバッグ型のゲージに猫を入れて車まで走ったり、猫缶詰のラベルを全部剥がしてゴミ出ししたりと、それなりに苦労を強いられていました。「ペット不可の賃貸に、5匹も猫を黙って匿っている。」という状態に良心の呵責を感じました。賃貸契約上、規約違反の際は退去や損害金を支払わなければならない可能性もあります。そこで決心したのです。「ペット可賃貸へ引越しをしよう!」と。
エピソード2へ続く