猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード7:「完全室内飼い」とは?
猫専用賃貸の大前提「猫を完全室内飼いにする」こと
多くの賃貸では、賃貸契約を結ぶ際の入居規約があります。ペットの飼育禁止、転貸借の禁止、楽器使用の禁止などが代表的な事項です。2010年にGatos Aptを竣工した際、熟考を重ね、入居条件として下記を設定しました。
・猫は完全室内飼いにすること
・入居できる猫は3匹まで(それ以上の場合は応相談)
・避妊去勢手術を施すこと
・爪研ぎを用意するなど猫のケアを定期的に行うこと
・完全禁煙(バルコニー含む)
この規約が一般的なペット可賃貸よりも口うるさいものであろう自覚はありますが、これまでこの規約が原因で入居を断念された方はごく少数です。それも項目としては「禁煙」に引っ掛かった方がほとんどなのです。(それも最近では限りなく0%に近付きつつあります。)今回は、猫専用賃貸の大前提として最も重要な「完全室内飼いにする」意味について、お伝えしようと思います。
猫にとって外は危険が一杯
危険その1:猫同士の接触による怪我や病気
外猫の行動半径はどのくらいだと思いますか?National Geographicに面白い記事が出ていました。(『外へ出たネコはどこへ行く? 大規模調査の結果がついに判明』)6カ国900匹の猫にGPSを付け、行動範囲を調査したという記事です。6年間の調査結果が2020年3月発行の学術誌「Animal Conversation」に掲載されました。それによると「大半の飼い猫は自宅庭から半径100m以内で過ごしている。」ことが分かったそうです。
猫の行動半径は、その猫の性格、性別や置かれた環境によって大きく変化しますが、大半の猫が自分が根城にしている拠点からあまり動きたがりません。他の猫の縄張りに入って不要なイザコザを極力避けたいからです。猫は季節によって発情期を迎える季節繁殖動物で、年2〜3回ほど繁殖期を迎えます。オス猫はメスの発情期に自分の縄張りを越え、メス猫を探す旅に出ます。春先、野良猫が唸り声をあげて喧嘩していることを耳にしたことがある方も多いと思いますが、この越境行為が原因である場合がほとんどだと思います。猫の喧嘩は時に壮絶です。ボス級の猫が鉢合わせてしまった場合、生死を賭けた戦いになることがあります。猫の武器は鋭い歯と爪です。へなちょこなパンチを「猫パンチ」と揶揄することがありますが、猫の場合、しなやかに腕を振って鋭い「爪」という名のナイフを振り回しているのです。実際に喧嘩の結果、失明した野良猫は沢山います。また野良猫は多くの病原菌を持っていることがあります。猫エイズ(FIV)や猫伝染性腹膜炎(FIP)と言った不治の病は、こうした喧嘩をした際に多く感染します。病気に限らず、野良猫に付き物のノミやダニも猫同士の接触でうつります。
危険その2:人間による怪我・事故・誘拐
意図しているか否かに関わらず、人間も猫を危険に晒しています。代表的な所ですと交通事故が挙げられます。
猫は完全肉食動物なので植物などをたべる必要がありませんが、猫草に代表されるように先の尖った草を食べる習性があります。初夏、自身の庭の雑草が気になるので除草剤を撒くということは一般的に良くある事ですが、猫が除草剤の付着した草を食べてしまい食中毒死することもあります。
「猫捕り」と言う野良猫を捕獲し卸す人たちがいます。野良猫を買う人がいるの?と思われるかもしれませんが、往々にして三毛猫のオスや脱走した純血種の猫など希少性の高い個体を狙うのです。また日本には古来より「三味線」という楽器がありますが、三味線の胴部分に猫の腹の皮が使われています。流石に現在では人工革や海外から輸入した犬の皮が代用で使われているとのことですが、やはり猫の皮が一番良い音がするらしく、秘密裏に取引されているとかいないとか…。2021年現代、流石にこうした猫捕りの暗躍はあまり聞かなくなりましたが、一方で野良猫を捕まえて虐めたり、殺したり、その様子を動画サイトにアップしたり、猫を虐待することに喜びを覚える人たちが存在することも忘れてはいけません。
「猫が嫌い!」という人たちがいるという事実
往々にして我々のような猫好きは、「こんなに可愛いのだから、猫が嫌いな人なんている筈がない」と思いがちです。猫嫌いな人がいるのは勿論ですが、悲しいのは実害を被って猫が嫌いになってしまったケースです。皆さんは水を入れたペットボトルを所狭しと壁沿いに並べているお宅をご覧になったことがありませんか?あれ、猫避けのつもりで設置していることが大半なのです。どうやら猫はキラキラするものが嫌いというデマが元になり日本全国でペットボトルを設置するようになったとか。結論から言うとペットボトルを置いても猫避けにはなりません。塀に沿って一面におびただしい数の水を入れた5ℓ焼酎ペットボトルを並べているお宅の前を通った時、家主が外に出ていたのでなぜ並べるのか聞いたことがあります。すると家主のオジサンは、「猫や犬がそこら中にオシッコをして行くんだよ。それで最初はペットボトルに水を入れて、気が付いた時にオシッコに水をかけて掃除してたの。それがいつの間にか増えちゃってさ!」と言ったのです。問題の本質はココなのです。オジサンは「臭くってさあ!」と何度もおっしゃていました。そう、自分の敷地に糞尿をして行くことが嫌で結果的に猫嫌いになっている人たちがいるのです。住宅が密集した都市部ではこの傾向が顕著です。猫は習性として、土や砂がある、ある程度開けた場所を選んで糞尿をします。都市部に住む野良猫にとって、一般家庭のお庭は最適なトイレ候補なのです。一方、人間側からすると丹精込めて作ったバラ園や家庭菜園を楽しんでいる自宅の庭を、猫のトイレに認定されたらたまったものじゃありません。猫は完全肉食の動物で、一般的に糞尿はとても臭いのです。野良猫が毎日やって来て、ささやかな家庭菜園に穴を掘り、ウンチやオシッコをして行くことを想像すれば猫嫌いになる理由も分かると言うものです。「外飼い」が原因で「お前のところの猫がウチの畑に糞尿をしている!」と、近隣トラブルになる事例は枚挙にいとまがありません。
この様に、外で生活する猫には様々リスクが猫自身にあり、近隣コミュニティーに迷惑をかける可能性があるのです。外飼いをしている猫は完全室内飼いの猫と比べて平均寿命が短いことがその証左です。こうした理由から、Gatos Aptが監修する猫専用賃貸は全て「完全室内飼い」を前提とした作りを施しています。次回は、その上で猫と人が快適に暮らすための工夫について私の考え方をお伝えしようと思います。