猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード4:ハウスメーカーの思惑
エピソード3でお分かりの様に、手探りかつ慎重に事を進めていたため、実に土地探しから1年近くが経過していました。そんなある日、不動産屋の営業さんから1本の電話が。
「高井戸に良さそうな旗竿地がありますよ。」と、仰います。
高井戸?何丁目ですか3丁目?ウチ近いですね、と携帯電話を片手に2階の窓を開けてみると2軒先位に雑草の生い茂った空き地が見えました。アパートから徒歩2分ほどのその土地を早速、見に行きます。接道も3m以上、竿部分の大きさと長さもちょうど良く、旗部分の面積もちょうど良さそうです。後日、紹介してくれた不動産屋さんと一緒に売主さんの元へ出向き、購入の意向を伝えました。猫専用の賃貸をやろうとしていること、すぐ近くに住んでいることなどをお伝えすると、「私もね、猫飼ってたんですよ!あなた方のような方にぜひ買っていただきたいのでオマケしますよ!」と、売値をオマケしてくれました。(この売主さんのご職業、くだもの屋さんでした。)こうして、ようやく念願の土地を手に入れることが出来たのです。なんというチルチルミチル感、幸せの青い鳥はものすごく近くにいた、という結末でした。
ハウスメーカーのゴールデンプラン?世の中に20㎡前後の狭小ワンルームが増え続ける理由
次は買った土地に建物を建てなければなりません。我々が真っ先に向かった先、それは近くの住宅展示場です。各ハウスメーカーのモデルハウスに片っ端から入り、営業の方に土地の図面を渡し、こうお願いしました。
「猫専用の賃貸併用住宅を建てようと思っています。図面と概算見積もりを作っていただけますか?」と。
ハウスメーカーさんの対応は迅速なところがほとんどでした。驚いたことに、見学当日に見積もりと図面を持参したハウスメーカーもあったほどです。複数社から図面と見積もりが提出され、気付いたことがいくつかありました。
気が付いた事
その1:建築費用の見積もり金額
木造・鉄骨造・コンクリート造、構法により金額に差が出ますが、木造が一番安く、左から順に高くなります。購入した土地は準防火地区のため防火木造か鉄骨造、コンクリート造で作る必要がありました。ハウスメーカーには木造のみの会社も多く、施工可能なメーカーが自ずと限られましたが防火木造、鉄骨造も金額に大きな違いは見られず、当初思い描いていた予算内で建てられることが分かりました。
その2:全社、賃貸部分が20㎡ワンルーム3部屋プランを提出
各社の力量を計りたかったので、各社へのオーダーは以下のように最小限に留めました。
・賃貸は1階部分でバルコニー必須
・2階は我々の居住スペース
・賃貸部屋、オーナー居住スペースともに猫を飼う事が前提
・延べ床面積が150㎡までなので、建築面積は1階70㎡、2階80㎡
提出いただいた図面は、全社見事に1階賃貸が「20㎡ワンルーム3部屋」のプランを提出して来たのです。
ハウスメーカーが狭小ワンルームを推す理由
部屋の広さは、猫専用賃貸を作るに際してこだわりの一つでした。人間と猫が同居するにあたって快適な広さを考えた時、これまでの経験則から最低30㎡は必要だと考えていたので、我々の賃貸は35㎡の部屋を2部屋と想定していました。図案の提出後、その旨を営業マンに伝えると「皆さんこの位の広さで作りますよ。2部屋より3部屋の方が利回り良いですしリスク回避できますからね。」と返され、納得したのです。「世の中に20㎡前後の狭小ワンルームばかりが作られる理由はコレか!」と。
ハウスメーカーの営業マンが推す理由はいくつかあると考えます。一つ目は、部屋数が多い方が必要装備が増えるからです。ハウスメーカーの強みの一つは大量発注による原価を抑え、顧客の支払い費用を抑えることが出来る事ですが、部屋数が多いほど会社の抱える在庫を捌けます。また工数も増えるため総工費も自ずと上がります。つまり営業マンの社内での成績になるのです。二つ目は、それが定番のゴールデンプランだからです。営業マンの言う「部屋数が多い方が利回りが良い」は、その通りなのです。例えば1部屋の想定賃料が10万円の部屋が3部屋作ると月間30万円の売り上げになりますが、部屋を広くして2部屋にした場合に1部屋15万円以上の賃料設定をできるかと言うと、多くのケースにおいて懐疑的にならざるを得ません。一般的に賃料は近隣相場を元に設定されますが、同一条件で見ると、広い部屋は比較的割安になる傾向にあります。なのでこの場合は部屋を広くして2部屋にしても賃料13万円辺りが妥当な値付けになります。ハウスメーカー側の視点からすると、わざわざ顧客に賃料収入が減るプランを見せる理由はありません。ハウスメーカー側が培ってきた知見で顧客に最大限のベネフィットをもたらすプラン、それが「20㎡ワンルームを可能な限り作るプラン」なのです。当たり前の話しですが、ハウスメーカーは「会社」なので、業務は細分化されています。営業が顧客から要望を吸い上げ、社内の設計部へ依頼します。設計士はこれまでのゴールデンプランを元にササッと図面を仕上げ、営業に返します。それを営業は速攻で顧客の元に届けるのです。
各社からのフィードバックが異常に早かった理由がこれです。なので受け取った図面は熟考されていない、ありきたりな図面しか出て来ませんでした。世の中に大量生産されている部屋を我々が作る意味合いがなかったため、ハウスメーカーでの施工は断念しました。ハウスメーカーで建てる際の概算が分かったことが最大の収穫でした。(最悪、ハウスメーカーで作れば良いですからね。)
ハウスメーカーのゴールデンプランでは満足できないことが分かった我々は、次の手段を試みることにします。それは建築家に設計してもらう自由設計という方法です。
エピソード5に続く