学習する組織レビュー①~自己マスタリー~


 この記事ではピーターMセンゲ著『学習する組織』の内容を要約しながら、現在私が担当している学級やサッカーチームでどうやって応用できるか考えていきたい。そのため、本の内容をまとめるというよりは個人的な備忘録になると思う。

自己マスタリーとは?

 学習する組織に必要な条件として示されているのが5つのディシプリンだ。ディシプリンとは日本語訳をみると規律と訳されることが多いが、海外のニュアンスはもう少し違うように感じる。「規律」というと単に外側から行動を縛るものに感じがちだけど、むこうの人がディシプリンと言うときには行動原理とか行動原則とか、外側の規律に内面も伴ったものというようなニュアンスを感じる。学習する組織の5つのディシプリンも、「これをさせればうまくいく」というようなハウツーではなくて、具体的な行動も含みつつあくまで「めざすべき姿」なんだろうなと思う。
 5つのディシプリンのうち今回は『自己マスタリー』をとりあげる。もう少し聞きなれた言葉に言い換えるなら『自己実現』が近いかもしれない。自分がこうなりたいと思う姿にむかって絶えず向かっていくことのことだ。
 実際、なりたい姿に向かっていく、だけでもすごく労力のいることだと思う。本の中では以下のような例がでてきた。
「私たちは往々にして、道の途中で起こる問題に対処するのに多大な時間を費やすあまり、そもそもなぜその道にいるのかを忘れてしまう。その結果、自分にとって何が本当に重要かがぼんやりとして見えなくなる。ぼんやりどころか、見誤ってしまうことさえある。」(p195)
 これは本当によく聞く話だ。「忙しくて勉強する時間がない」とか「こまごましたことやってたら一日が終わっちゃった。」というやつだ。だからこそ、今自分がいるところとなりたい姿に真摯に目を向けることが大切だという。なりたい姿と一口に言ってもそれがなんなのか見極められず、表面的なレベルで終わってることが多いという。とくに陥りやすいのが目的と手段を混同することだ。たとえば「大会で優勝する」ということを目的としているとしても、実は本当に求めていることは他者から尊敬されたりチームとして一体感を得ることかもしれない。そのためたとえ「大会で優勝する」という目的を達成したとしても、本当に満足できるとは限らないのだ。また、今自分がいるところを見ることも実に難しいことだ。ただ、現状に対する深い洞察がなければ、どうやって目的に向かうかも定まらない。だからこそ真摯に現実、真実に向き合う必要があるのだ。そして現実と目標の差を「創造的緊張」と言っていて、それこそが自己マスタリーの駆動力になるのだという。
 現状を知って、目標を立てよう、といういかにも自己啓発書的なことが書かれているので、これ自体は目新しくも何ともない。ただそれが本当の意味でできているのか、それを厳しく問うているがこの本の特徴だ。たとえば今の現実を正確に把握することひとつとってもいかに難しいかが説明されている。とくに創造的緊張にともなう感情的緊張が現実の認識をくもらせるとされている。目標に到達できない状態は人を不安にさせる。だから現実を目標に近づけて解釈したり、目標を引き下げる。これで十分、何も問題ない、と思えるということだ。実際、サッカーチームで考えてみても、まったくシュートを打てず一方的な展開が続いているのに、「よく守れてる」とか「あの内容で1失点なら上出来」とか、妥協した解釈をして評価をねじまげることはよくある。そうしてうまくいかない現実を見過ごしたまま、改善の機会を逸し続けるのだ。

構造的対立と意思の戦略

 筆者はこうした難しさの根底には構造的な対立があるとしている。どんな構造かというと、「自分には価値がない」や「自分にはできない」という信念と、「自分が目指す姿」との対立である。二つの輪ゴムでそれぞれ別の側から引っ張られる人のイラストが象徴的である。目指すところに近づこうとすればするほど、逆の側、つまり自分を縛る負の信念も強く作用するということである。面白かったのが、この対立に対処する戦略の一つの「意志の戦略」だ。どれだけ辛くても意志で乗り越える、といういわゆる根性論なのだが、これを続けていると無駄が多くなったり、私生活が犠牲になったりする。こうした失敗を回避するのにも真実と向き合うことが大切だという。ここでいう真実と向き合うというのは自分がどんな状態に陥っているのかをよく観察して、もっとうまく対処できないかをその時、その時で考えるということだ。結局は具体的な方法があるわけではないが、自分の陥りやすい失敗を知ってそれに向き合うというのはただのハウツーよりもよっぽど真理かもしれない。

組織として取り組むには?

 じゃあチームの人たちにどうやって自己マスタリーに取り組んでもらえばいいの?ということが当然知りたいところだ。さきに結論を言ってしまうと、そんなものに正解はない。
 一応本の中では自己マスタリーに取り組みやすい環境を作ることと、リーダー自身が模範となっていることが大切だと言っているけど、抽象的すぎてちょっとどうすれば良いのかわからない。とはいえ上からの研修で取り組まされてすぐにできるものではないということも書いてあり、それはそうだなと思う。模範たれ、というところでいうと組織としてのビジョンを語るだけでなく指導者個人のビジョンを見せていくことが大事なのかなとは思った。よく先生が夢をもて、というけれど先生自身は全く夢を語らないということがある。どんな未来図を描いていて、そのために今こうしているっていうことを恥ずかしがらずにみせていくことで影響を受ける子も出てくるだろう。そして上からの命令では意味がなかったとしても一緒にやろうよという横からの呼びかけなら効果はあるかもしれない。先生がやっているなら、コーチがやっているなら、俺もやってみるか、と思うことは十分に期待できることだと思う。

 

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