【100の職種プロジェクト】第6回 脳性麻痺×契約と会計のゲートキーパー NPO法人を経営しながら
100の職種プロジェクトはさまざまな障害や特性がある人たちが社会で働く中で、どんな職種や業種で働いているのか、社会で働く障害のある社会人のみなさんにインタビューをし、障がい種別や特性と職種や業種をかけ合わせた100通りの働き方を発掘・発信する試みです。さまざまな障害や特性を活かせる、多様な選択肢のある社会を実現すべく、Collableのインターン生が取材を行っています!
第6回は、健一さん(仮名)にお話を伺いました。
健一さんは30代男性で、生まれつきの脳性麻痺で普段は車椅子で生活されており、現在は大手電機メーカー会社の営業業務審査の仕事をしています。
営業業務審査は営業部と経理部の仲介役として、営業部がとってきた金額での取引が会計上問題ないかどうかを見極めるお仕事です。
Q.健一さんの経歴について、簡単にお聞かせいただいてもいいでしょうか。
大学時代のときに法律系の学科に通っていて、僕は地方出身だったので親とかから公務員がいいんじゃないって言われて僕も公務員を目指していたんです。 市役所とか公務員など役所系のインターンがあって、チャレンジしたくて教授を介して調整してもらったら、あんまりうまくいかず、断られてしまって。
役所系が断られたってことは一般企業に就職するしかないのかなって思っていたときに、ある一般企業の方にインターンの申し込みをしたら受け入れてくださったんですよね。担当教授とも相談して、「健一くんの場合は一般企業の方がいいのかもしれないね」っていう話にまとまって、そこから一般企業の方に就職活動をしようということになりました。
結果的に今は大手電機メーカーに勤めています。なぜ大手電機メーカー会社を選んだかっていうと、私は高校のときまで理系の勉強をしてたんですね。しかし、大学進学のときに理系の学部に入ることを断られちゃったんです。そこで大学で理系から文系に変わったんですが、宇宙に関係のある会社をメインに就職活動していたら今の会社につながりました。今9年目です。
仕事は当初から法律関係のお仕事をしていたので、ずっと変わってないですね。部署異動もしたいなと思ってるんですけど、なかなか部署移動の機会に恵まれずにまだ入社した頃のままのお仕事をずっとやっています。
Q.今は具体的にどんなお仕事をなさっているのでしょうか。
仕事内容は経理の仕事と法務の仕事のちょうど中間みたいな仕事です。契約をとってくる営業さんがいて、契約書を見ながら金額や取引が正しいのか見極めて、不備や間違いがあれば営業さんに戻したりして、彼らの営業業務を支えます。契約書を見て、例えば「これはまずいですよ」とか、「これだとOK」とか、そういう判断をする部署で働いています。
コロナになるまでは通勤も他の社員の方と同じようにしていましたし、転勤も普通にあると言われています。コロナになってからチーム全体的にテレワークが多くなっているので、今はちょっと在宅勤務が多めですけど、通常の通勤も可能な状態です。
Q.現在の仕事で、自分の特性と合っていると思う部分はありますか。
自分としてはコツコツやることは好きというか得意な方だったので、契約書見ながら金額を見ながら1件ずつ処理していくっていうのは、自分に合ってるかなって思いますね。
Q.逆に苦労した部分はありますか。
ダメなことをダメだとはっきり言うのが苦手なんですけど、今の仕事ははっきりと言わなきゃいけないので、そこが苦労している点かもしれません。
例えば、営業さんが契約書を見せてきたとき、内容的に絶対にダメっていうことがおきたとしましょう。営業さんにもらい直してきてと言っても「お客さんが全然聞いてくれなくて、これでどうにかしてくれませんか。」って言われて。そのときに「それはできません」って強く言わないといけないんです。でも、「それはできません」っていうのが自分の性格上ちょっと心苦しいんです。だから、強気な部分も必要なのでそこが難しいというか、ちょっと苦手というか、自分の性格には合っていないかなと思います。ただ、大きな額を左右することなのできちんとやっていますけどね。自分としても頑張らなきゃいけないなっていうとこですかね。
Q.今のお仕事をしていて、やりがいを感じるときはありますか。
まだ、外部に公開されていない契約内容を実際に見ることができるときですかね。
例えば、プライベートでは見られないような何億円という単位の契約書も業務上で見ることもあります。0の数が膨大にあるんです。500億と50億ってなんか0の数がたった1個の差に見えるけど、間違えると会社の損益に影響します。そうすると、僕の判断やミス1つでその会社のその何億円の売り上げの数字を、書類上で一瞬にして上げてしまえる可能性もあるわけです。OKって承認をすればそれが売上高として会社の業績に上乗せされるっていうことの一端を担っているともいえるので、やりがいみたいなところを感じる人は、他にもいるんじゃないかなっていうふうに思います。
それくらい重要といえば重要な立場だし、緊張感があります。重要性もそうだけど責任感とか緊迫感のようなものもあります。
あと、西暦や和暦が間違っていて時代が違う契約書もあるんですね。例えば、今は令和なのに平成の契約書をもらったり、2022年なのに2202年とか。
契約書の間違いを我々が指摘をして、営業さんも1度お客様の所に「間違いがありました、すいません。」って謝りに行って、修正してもらう部署なので、そこは結構面白いかなっていうふうに思いますよ。ちょっとした間違いに気づくことが出来ないといろいろ変わっちゃうので、気を付ければ確かに面白い仕事だなって思います。
Q.仕事をする上で大切にしていることはありますか。
仕事する上で大切にしているのは人との繋がりでしょうか。1つ1つのご縁とか繋がりっていうのを大事にしてて、今の業務とか特にそうなんですけど、機械的にこれはOKです、これは駄目ですって、機械的にやることも可能かなと思うんです。でもそれだと、なんか面白くないっていうか人間らしくないというか…。人が仕事をしてるってことは感情ももちろんあるし、人間だからこそのやりとりみたいなのもあるじゃないですか。
例えば、担当Aさんはいつもはギリギリに契約書を持ってくる人じゃないのに、ある書類はギリギリに持ってきたとします。ギリギリに持ってきたってことは、ギリギリなりの事情があるかもしれないから、なんとかして通るようにこちらもアドバイスしてあげようかなとか考えますね。人間だからこその気遣いみたいなところってあるじゃないですか。そういうのって意外と大事だと思って、仕事をしている方たちとの関係性や信頼性があるからこそ、「健一さんのためにここはちゃんとしなきゃいけないな」とか担当さんも思ってくれるので、そういった関係性を築けると大勝利って感じですよね。
「健一さんのおかげで無事に契約が取れました、ありがとうございます!」みたいなことを言われたら嬉しいですよね。同じ会社の担当さん(営業職)とやりとりする部署なので、その担当さんとそういう良い関係性が築けると仕事のやる気にも繋がります。
Q.将来のビジョンはありますか。
もし、今の会社で働き続けるのであれば、せっかく大きな規模の会社に入ったので今の仕事だけじゃなくて、それこそ営業職に近いお仕事だったりとか、人事系の仕事だったりとか、いろんな職種を経験してみたいなと思います。
現在副業でNPO法人を運営していて、自立したい障害者を応援するみたいな仕事をやっています。電機メーカーでの仕事は僕じゃなくてもできることなので、僕であることも良い仕事はなにかを考えると、自分としては自立したい障害者を応援するのが強みなのかなって思っているからです。
ただ、今まで電機メーカーの経理を9年間続けてきたので、この経験を活かして専門性の高いお仕事や他の部署の仕事もやってみたいなっていう思いももちろんあります。両方あるので、自分はキャリアに悩んでる最中です。
Q.学生時代にやっておいてよかったこと、やっておいた方がいいことってありますか?
俗に言う企業研究みたいなところで、自分が希望している職種でどういう会社があるかとか、その会社の具体的な仕事内容など、そういうのってやっぱり早めに準備するというのは大切だと思います。情報収集って言うんですかね、そういうのを早めに準備しておくに越したことはないなって思いましたね。
僕は公務員を志望していた時期があったので、一般企業にいくための就職準備っていうのが多分他の人に比べて少なかったし、障害者採用とか障害のある方向けの求人も少なかったんです。遅いと言っても、確か僕は大学3年生の途中ぐらいからもう就活してましたけどね。
僕が大学生のときは、大学のキャリアセンターには障害のある方の求人情報はほぼないし、就職もあんまりサポートしてくれなかったんですよね。なので、自分で探すしかありませんでした。そういう意味でも企業研究とかは早いに越したことはないかなって思います。今は大学側がサポートしてくれるかもしれないですけどね。
あと挙げるとすれば、自分研究みたいなことも必要かなと思っています。自分は何に興味があって、何のお仕事をして自分の生活を立てていきたいかっていうことを掘り下げることです。
僕の場合は「当事者の方の力になれる仕事をしたい」っていうのが一番の目標としてありました。ただ、今働いている企業はその目標に直結する仕事ではないですよね。一方で生活していくためにはお金を稼がなきゃいけない。
例えば就職活動を勧めていくと、自分の好きなことはこうだけど、就職活動を進めていくと、全然好きなこととは別の会社の内定がもらえそうだとします。そうするとその会社に就職することを決めちゃっていいのか、と悩む人もいると思います。さらに、そこに決めたとしたら何年後にどういうキャリアを積みたいのか。自分の好きなことと得意なことと仕事は別にするのか。並行してやるのか…選択肢がいろいろあると思うんですよ。
要するに、自分の好きなことや興味があることと、仕事にしていることのバランスをどう取るかっていうのはすごく大事で、そこに悩む人って結構いると思うんです。あんまり好きな仕事じゃないから仕事が続かなくてすぐに仕事をやめちゃう人もいると思います。
自分の好きなことが仕事になるのが一番いいと思うんですけど、好きなことや得意なことはまた別で、仕事は仕事っていう考え方も全然いいと思うんです。僕みたいに後から副業というか兼業で、同じ想いのある人たちと一緒に自分の好きなことや得意なことを並行してやっていくっていう選択肢もあります。働き方のバリエーションっていうか、別に障害があるなしに関わらず、人生100年時代と言われてるので、どんどん好きなことや得意なことを増やしながら、仕事するっていうのが良いと思っています。
それを考えるためにも自分研究を特に若いうちからするといいと思います。
Q.最後に、この記事を読んでいる学生に伝えたいことがあれば教えてください。
僕が障害のある学生さんに向けて伝えたいのは、就職がゴールではないということを伝えたいです。就職はゴールじゃなくてあくまでもスタートラインです。
例えばアイドルでも、大きいグループや有名なグループに入ったあとすぐに燃え尽き症候群みたいになっちゃう子っているんですよ。障害のある学生さんってやっぱり就職が難しいというのも現実問題としてあるので、就職できたこと自体に満足しちゃって、そこからのキャリアプランが描けないことが多いなって思うんです。
今まで頑張ってここまで来たのに、そこでもう燃え尽き症候群になっちゃうと本末転倒になっちゃうので、そこはスタートラインっていうふうに考えて、そこから自分のキャリアとか人生をどうプランニングしていくかっていうのが大事です。それを考えながら就活とか日々の学生生活を送っていただけたらなと思います。
機械的に仕事をするのではなく、人間らしく仕事をするということばが印象に残りました。
私は就職活動が終わったのですが、就職はゴールではなくスタートラインだと思って残りの学生生活を有意義に過ごしたいと思いました。今回の記事では触れませんでしたが、NPO法人の活動や推しのアイドルの話など教えて頂き楽しい時間を過ごせました。健一さん、インタービューにご協力いただきありがとうございました!
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