
コンビニPB戦略の光と影(セブン・ローソン・ファミマの成功と誤算)
おはようございます。「いま、すぐ、やる。」の
クリエイティブディレクター矢野まさつぐです。
珍しく体調を崩してしまい、コンビニのありがたさが心に染みております。ボクの自宅の最寄りのコンビニはファミマで、支払いはもちろんファミペイ、ほぼ毎日買うドリップコーヒーはMサイズの濃いめです。一番好きなPB商品は「たんぱく質10.6gサラダチキンスティック スモーク」で、二番目は「のむヨーグルトクリーミープレーン(←大きい方です)」。この2商品は、他のコンビニでも似たものがありますが、確実にファミマのものが美味しいです(矢野しらべ)。人気のアパレルは、サイズ感が合わないので手を出していませんが、NIGO®︎氏がクリエイティブディレクターに就任したと聞いて、いよいよ無視できないな、となっています。
そんなコンビニへの偏愛を、今回は傍へ置き、真面目に分析し、我々にも通じる学びを捻り出す記事を書きました。難しい話もたくさん盛り込みましたが、ぜひお読みください。
序論:コンビニPB戦略が鍵を握る理由
コンビニ各社は店舗数や立地の競争だけでなく、プライベートブランド(PB)商品を戦略の柱に据えています。PB商品は他店では買えない独自性で集客の武器となり、利益率向上にも寄与します。実際、ファミリーマートでは全商品のPB比率が2021年10月時点30%から翌年8月末に32%へ上昇し、更に35%を目標としています。PB商品の品質やブランドイメージは、そのままチェーンの評判につながり、消費者が「〇〇ならではの商品」を求めて店舗を選ぶ動機にもなっています。各社はPBで差別化を図り、“コンビニらしさ”を演出することで顧客のロイヤルティを高めてきました。
1:セブンイレブンの戦略:PB先駆者の執念と教訓
業界トップのセブン-イレブンは、2007年に「セブンプレミアム」を立ち上げ、PB戦略の新境地を開拓しました。従来、PBは低価格志向と見られがちでしたが、セブンはコスト削減より品質向上を重視し、大手メーカーと共同開発する手法で常識を覆しました。例えば高級志向の「セブンプレミアム ゴールド」シリーズは有名メーカーの技術を取り入れ、下手なナショナルブランドを凌ぐクオリティでヒットを連発しました。「金の食パン」「金のハンバーグ」などはその代表例です。
また、淹れたてコーヒー「セブンカフェ」の導入はコンビニコーヒーブームの火付け役となり、競合他社も追随する革命的商品でした。こうしたPB商品群の成果もあり、セブンプレミアムの売上高は2023年度第3四半期時点で1兆1,200億円と過去最高ペースに達しています。
しかし成功の陰で、セブンにも課題や失敗は存在します。一つは商品ラインナップの最適化です。近年は物価高で消費者の節約志向が高まったため、セブン&アイは2022年に廉価版PB「セブン・ザ・プライス」を投入し、PB商品を松・竹・梅の三段階に再編しました 。高品質路線だけでなく低価格帯にも対応するこの戦略転換は、市場ニーズを捉えた柔軟な舵取りと言えます。一方、PB重視による弊害も指摘されています。過度なコスト削減の結果、商品の実質的な品質低下が起きた場合、ブランドイメージを損ないかねません。
実際、セブンのおにぎりや弁当が年々小さくなり「容器の底上げ」で量をごまかしているとの指摘がSNSや週刊誌で取り沙汰されました。こうしたステルス値上げは顧客の不信を招き、PB戦略の信頼性を揺るがすリスクがあります。セブンイレブンはPBの高品質イメージを守るためにも、消費者目線での誠実な商品改良が求められるでしょう。
2:ローソンの戦略:ヘルシー志向と“奇策”のブランディング
ローソンは差別化戦略として健康志向ブランド「ナチュラルローソン」を2001年に開始しました。都市部中心に143店舗を展開し、「美しく健康で快適な生活」を支える品揃えで根強い支持を獲得しています 。ナチュラルローソンは単なる店舗形態に留まらず、ヘルシー商品開発の実験室として機能し、ヒットした低糖質スイーツや高タンパク惣菜などは全国のローソンに横展開されました。保存料無添加やオーガニック素材にこだわった商品群は、「ローソン=健康志向」というブランドイメージ醸成に一役買っています。
同時にローソンは、“奇策”とも言えるユニークな商品開発でブランド認知を高めてきました。代表格が店内調理フライドフーズの先駆け「からあげクン」です。1986年に一口サイズの唐揚げとして発売されて以来、品質改良と斬新なフレーバー展開を重ねた結果、2023年時点でシリーズ累計42億食を売り上げる看板商品に成長しました。100%国産鶏肉使用や地域限定味・コラボ企画などの工夫により、「ローソンと言えばからあげクン」と言われるほどのブランドシンボルとなっています。
また、ローソンはコンビニスイーツブームの火付け役でもあります。2009年発売の「Uchi Cafe プレミアムロールケーキ」は、生クリームのクオリティと画期的な横置きスタイルで話題を呼び、発売5日で100万個超を売り上げました。以降も約170種ものバリエーションを展開し、累計4億8,000万個販売の大ヒットを記録。“コンビニスイーツ”という新ジャンルを確立したこの成功は、ローソンのイノベーティブなブランドイメージを強固にしました。
もっとも、ローソンにも学ぶべき失敗事例があります。それはPB商品のパッケージ戦略です。ローソンは2016年前後にPB「ローソンセレクト」の包装デザインを統一リニューアルしましたが、シンプルすぎて商品区別が付きにくいと不評を買いました。品質には定評があったものの、「パッと見で何の商品か分からない」「地味すぎる」という声が多く、消費者から改善要望が殺到したのです。
この反省を受けてローソンは順次デザインを刷新し、見やすさやブランド感を向上させています。このケースは、デザインもブランディングの一部であり、いかに消費者視点が重要かを示しています。ローソンは今後も健康志向と遊び心のバランスを取りながら、PB商品で独自色を打ち出していくでしょう。
3:ファミリーマートの戦略:アパレル進出とPB再編の挑戦
常に“挑戦するコンビニ”のイメージがあるファミリーマートは、近年異業種への大胆な進出で注目を集めています。その最たる例がアパレルブランド「コンビニエンスウェア」の立ち上げです。2021年3月、世界的デザイナー落合宏理氏(FACETASM)監修の衣料品PBを発表すると、「どうせ非常時のついで買い」という既成概念を覆し、ファッション目的で買いに来る商品へと変貌させました。Tシャツや靴下といった日用品を「良い素材・技術・デザイン」で再定義し、発売直後から売切れ店が続出するヒットとなりました。コンビニの衣料がSNSで話題になり、海外メディアでも「世界初の試み」として取り上げられるなど、ファミマのブランド認知を一気に拡大する効果を上げています。
担当者は「コンビニエンスウェア単体でコラボ企画を打ち出すなど、ファッションならではの戦略が奏功し、ファミマ全体のブランディングの幅も広がった」と語っています。親会社でアパレルに強みを持つ伊藤忠商事の支援も受け、全国1万6,000店への供給と低価格を両立できた点も成功要因でしょう。このアパレル進出は、ファミマが従来のコンビニの枠を超えたライフスタイルブランドへ変貌しつつあることを示す象徴的な戦略です。
一方、食品PBについてはブランド再編による立て直しを図りました。ファミリーマートは長年、菓子・飲料などの「ファミリーマートコレクション」と総菜・冷食の「お母さん食堂」という2本柱でPBを展開してきました。しかし調査で判明したのは、「ファミリーマートコレクション」はPBとして認知度が低く、「お母さん食堂」は名前こそ知られていてもそれがファミマのPBだと認識されていないというミス・ブランディングでし。そこで2021年10月、両ブランドを統合した新PB「ファミマル」へ刷新する大胆な決断を下します。従来の両商品群に加え、弁当・おむすび・サンドイッチなどの日配中食も取り込んだ結果、ファミマル商品は約810種類と過去最大規模のラインナップとなりました。
名称もパッケージも統一されたことで、「これはファミマの商品だ」という訴求力が高まり、実際に「食べたらファミマのほうがおいしい」といったポジティブな声を生むなどイメージ向上につながっています。また看板ホットスナックのファミチキは、2006年の発売以来累計20億個を突破し、今やファミマ=チキンの代名詞として定着しました。最近は「ファミチキ先輩」なるゆるキャラによるSNS施策や、新フレーバー連発で若年層の支持も獲得しています。こうしたブランドキャラクター戦略も含め、ファミリーマートは“楽しくて身近”なブランドイメージを確立しつつあります。
もっとも、ファミマにも失敗から学んだ教訓があります。「お母さん食堂」のネーミングは家庭的で親しみやすい反面、固定的な性役割の印象があるとして議論を呼び、PB再編時に名称廃止へと至りました。また、一時期発売した激安PBビールは品質面の評価が伸びず短命に終わるなど、安易な模倣では成功しないことも示されています。ファミリーマートは今後も積極果敢なチャレンジ精神を武器に、新ジャンル開拓とブランド強化を進めていくでしょう。
他業種への示唆:PB開発とブランディングの教訓
コンビニ3社の戦略と成否からは、異業種の企業にも通じるさまざまな示唆が得られます。以下、他業界でも応用可能なポイントをまとめます。
顧客視点の徹底:PB開発では市場ニーズを的確につかむことが肝心です。ローソンのケースではデザイン面の消費者視点欠如が失敗を招きましたが、逆に顧客の「こうあってほしい」を満たした商品は大きな支持を得ます。ユーザビリティやわかりやすさを軽視しない姿勢はどんな商品開発でも重要です。
ブランドコンセプトの一貫性:ファミマのPB統合(ファミマル)は、分散していたブランドメッセージを一つに束ねて成功した例です。自社の強みやコンセプトを明確に打ち出し、顧客に覚えてもらいやすい形で提供することが、競争市場で頭一つ抜け出す鍵となります。
協業による価値創造:セブン-イレブンがトップメーカーと組んでPBを作り上げたように、外部パートナーとの協業は自社だけでは得られない付加価値を生みます。異業種コラボやオープンイノベーションにより、新しいマーケットを切り拓くことも可能です。
ヒーロー商品・体験の創出:各社には消費者を惹きつける看板商品が存在しました(からあげクン、プレミアムロールケーキ、ファミチキ等)。他業種でも「自社らしさ」を象徴するヒーロー商品やサービスを育てることで、ブランドの顔となり長期的なファンを獲得できます。
失敗からの迅速な学習:PB戦略での失敗は致命傷になりかねませんが、ローソンがパッケージを早期改善したように、機敏な軌道修正で信頼を取り戻すことができます。クレームや市場の反応に耳を傾け、柔軟に戦略を見直す姿勢はどの業界にも必要でしょう。
まとめ:コンビニブランド戦略の未来展望
コンビニ各社のPB商品・新商品開発を通じたブランド戦略は、競争が激化する市場で生き残るための必須条件となっています。セブンイレブンは圧倒的な商品力で王者の風格を保ちつつ、時代の変化に合わせた価格帯拡充で隙のない体制を築きました。ローソンは健康志向やスイーツといったニッチ分野でブランド価値を高め、新たな需要を掘り起こしています。ファミリーマートは発想の転換でコンビニの枠を超えた挑戦を行い、若年層を中心に「ファミマらしさ」への共感を広げています。
それぞれ強みは異なりますが、共通するのはブランドのトータルプロデュース力です。商品開発・ネーミング・デザイン・プロモーションまで一貫した戦略で世界観を作り込み、消費者に選ばれる理由を提供している点が3社の底力と言えます。
裏側にはさまざまなプロフェッショナルが関わり、その中心にクリエイティブディレクターがいます。
冒頭にも書いた通り、ファミリーマートは、先日NIGO®️氏をクリエイティブディレクターとして起用することを発表して話題を集めました。(元記事)

今後、人口減少やライフスタイル変化でコンビニ業界を取り巻く環境はさらに厳しくなるでしょう。しかしPB戦略を通じて培ったブランディングのノウハウは、新たな市場創造や海外展開にも活かせるはずです。コンビニ各社が切磋琢磨して生み出した成功と失敗の物語は、あらゆる企業に「顧客起点でブランドを創り上げよ」と語りかけています。コンビニPB戦争の行方から、今後も目が離せません。
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