佐々涼子さん その作品はすぐそばに
佐々さんが亡くなった
ノンフィクション作家の佐々涼子さんが亡くなった。
もちろん、お会いしたことはない。
ただ、出版されたすべての本は読ませていただいた。
「ミケと寝損とスパゲティ童貞」は、最初期の作品。
日本語教諭だった佐々さん。
海外から日本に来た人たちへの視線は優しい。
のちの「ボーダー」へと、きっとつながっていったのだろう。
「駆け込み寺の玄さん」で、佐々さんはノンフィクション作家への道を歩み始めた。
”得体のしれない”、同時に、とてつもない魅力を秘めた「玄秀盛」という人物と向き合う。
歌舞伎町に通った時間は、自分とも向き合う時間だったのではないか。
壁を乗り越えるようにして
佐々さんは、難病の母親のことを書きたかったのだという。
しかし、難病と母親との関係を描いた作品としては、大宅壮一ノンフィクション賞を受けた川口有美子さんの「逝かない身体」があった。
今も、ALS患者の支援に走り回っている川口さんの、「生」を肯定する作品。
こうしたテーマを超えられるのか…(超える必要はないのかもしれないが、比較はされるかもしれない)。
「エンジェルフライト」
佐々さんのすごいところは、まったく異なった題材を扱いながら、「生と死」に関わるテーマを新たに探し出したことだろうと思う。
しかも、「国際霊柩送還士」という、大切だけれど、ほとんど知られていない仕事について。
集英社インターナショナルの編集者、田中伊織さんとタッグを組んだ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」は、開高健ノンフィクション賞を受けた。
作品には「佐々涼子」さんの存在が
「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている」では、東日本大震災と”出版”に関わる人たちの思いを、「エンド・オブ・ライフ」では、”いのち”というものを、そして、「ボーダー」では、”人の在り方”を、それぞれ描いているように思う。
そこには、常に「佐々涼子」さんの存在がある。
作品に登場する人たちと同じように、自分も悩み、苦しみ、そして、希望を胸に抱く。
だから、どの作品も、実は、「佐々涼子」のドキュメントだ。
佐々さんが、激しい頭痛を訴えたのは、「ボーダー」が完成した直後だそうだ。
まさに、これから多くの人たちに作品を届けるために、書店を回り、読者と触れあっていくところだったのではないか。
「夜明けを待つ」
現状、最後の作品集になった「夜明けを待つ」。
そのあとがきで、佐々さんは、みずからを振り返り、そして未来を見据えている。
玄秀盛さんは、何度も何度も、「玄さん、それから?」と聞いてきた佐々さんのことを思い出す。
そして、実は、その女性が「何万に1人」のノンフィクション作家だったことに気づく。
田中伊織さんは、タモリさんが、赤塚不二夫さんに告げた弔辞のことを思い出す。
自分のお葬式で、佐々さんに「こんな弔辞を読んでくれたらな」と考えたが、その願いはかなわなかった。
代わりに田中さんは、佐々さんが亡くなるまで、ただ「…幸せになってほしい」と思い続けた。
数々の作品を、共に生み出した「バディ」として。
言えるのは、佐々さんの作品は、これからも残り続けるだろうということ。
再び、ページを開く人のために。
そして、書店の本棚で、偶然、その作品を手に取った人のために。
そんな人たちを勇気づけ、生と死の意味を、ずっと伝え続けるために。