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夏の定義 2日目。
昨晩は朝方まで海を眺めていた。
旅だとしても生活のリズムが変わる事はあまりしない。
地元の書店で本を買い。
喫茶店でカフェオレを飲み。
夜はスナックへ繰り出す。
特別に何か理由がない限りは
普段通りの時間を過ごす。
のんびりと準備をして浜松へ向かい、
目星のつけていた「喫茶さくらんぼ」へ。
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昭和53年から続く喫茶さくらんぼ。
僕が席に着く頃には会計済みの常連おじいさんが
何度も「おだいはいくらだ?」と言っていた。
「2度3度も払う気はあるけど、払ったことは一度もないねあんたは〜。」とママは笑う。
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そこから最後までママとふたりきり。
ママはあまり干渉はしてこず、
こちらが話しかければ快く会話を弾ませてくれた。
僕は本を読んだり調べ物をしたり、ママはアイスを食べたり、クロスパズルに夢中になったり。
それぞれの時間を過ごしているのがとても居心地が良かった。
小腹が空いたのでたまごサンドを注文。
「まあ、ぺろりと食べちゃったね。」
「ご飯ものなんかもあるからよかったら食べてね。」
僕は地域の観光名所や名産品に興味がない。
「え!あそこ行ったのに食べなかったの?勿体無い!」と言われる事が度々あるのだけど、僕にとってはご当地の喫茶店でママが作るご飯を食べるほうがそれに筆答する。
「最近じゃこの辺に大学がぼんぼん出来ちゃって学生さんなんかもよくご飯食べにくるよ。」
「飲食店で食べるのもいいけど、親元離れた学生さんも多くてさ、みんなこういうお母さんが作ったご飯みたいなものが恋しいでしょ。」
大きく頷きながらオムライスもぺろりと食べた。
今年で44年目だと言うママは、ゆっくりと整理をはじめて店仕舞いの準備を進めているとも言っていた。今すぐにと言うわけではないだろうが、またママに会いたいなと思った。
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そしてまた夜の浜松を歩く。
しかしまたしても狙っていたスナックが開いていなくて身体に疲れがどっと押し寄せた。そう言えば、通りすがりに一件やはら派手なスナックがあったなと引き返してみる。
恐る恐るそのスナックの扉を開けると七色に光るライトが宙を回り、カウンター席には白髪の長髪激渋おじさんが座っているのだけが見えるが、誰も何も言ってくれないまま数秒が経つ。
扉が閉まってから石化していると長髪のおじさんが僕に気付き、低めの声で「おい、誰か来たぞ。」と一言つぶやいた。
すると奥から明らかに日本人ではないママが掠れた声で「ハーイ!ド〜ゾ〜!」とソファー席に通された。
普段通っているスナックとは空気感がまるで違う。
失礼極まりないのだが、もしかして盛大にぼったくられるのでは…と勘ぐりが働く。
「アナタ今日ハラッキーダネ!コンナ美人ガイルヨ!」と隣に僕よりもお姉さんさんが席についた。
内心怖すぎて「どうやって最短で店を出るか。」を考える事で頭がいっぱいだった。
ついてくれたお姉さんが日本人だったので真っ先に料金を確認した。この時点で動揺しまくってる事がバレバレなのは明白である。
「そうだよね、怖いよね笑」と優しく料金設定を説明してくれ、真っ当な金額に少し安心した。
「細かい金額はママに確認してね。タイ人ママ価格だから!笑」
「タイ人ママ価格」この言葉がより想像の値段設定を掻き乱す。
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「コレ、サービスネ!!」
とフルーツ盛り合わせが出てきた。
キウイが甘くとても美味しかった。
ところがそこからママのサービスと言うのが止まらず、気がつくとテーブルにはお菓子盛り、フルーツ盛り、グリーンカレー、カニ、ほうれん草の炒め物が埋め尽くし、どこかの国の王様の様な振る舞い手間ある。
ママはサービスと言うがこんなに出てきて、「これがサービスなわけがない!」とまたもや勘ぐりが加速して、ついに緊張感は最高潮に達する。
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すると常連だと言うおじさんが現れ、乾杯するや否やお店の女性とチークダンスを踊りながら歌い出した。そしてバラード曲だろうがママの力強い合いの手が飛び交っていた。
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帰り際に「コレ持ッテ行キナサイ!」と小袋にお菓子と赤ワインを頂いた。
あんなに不安に感じていた場所が蓋を開ければパラダイスの様に楽しいスナックだった。
ママは今年の9月でタイに帰り、店を閉めてしまうと言う。なんとも去り難い想いでその夜を終える。
スナックは料金表を表立って出したりはしない店が多い。不透明な部分に不慣れな人は不安感を抱き、その扉を開けるには相当な勇気がいると思う。
スナックは大人の社交場であり、その世界なりのルールがある。不安であれば最初に料金設定を聞けば良いが、ある程度金額の相場はあって、そこで「あれこれいくらだ。」と言うのは少し恥ずかしく、野暮なものでもある。
「大人として余裕を持って遊ぶ場所。」
スナックは好きだけど、まだスナックを語るには人生経験が浅いと感じることも多い。もっとスマートに夜の街を渡り歩ける人間になりたい。