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偏愛と、赤毛の洋女。

ある日、僕は錦糸町の喫茶店でレトロラブホ愛好家のねねさんとお茶をしていた。そんな面識があったわけではないが、同じ熱量、もしくはそれ以上でレトロラブホを語り合える人はとても貴重なのでお誘いをして実現と至る。

互いにラブホテルへの愛を語り尽くし、ひとしきり会話も弾んだ頃に、「もしよかったら、私とナポレオンに行ってくれませんか?」と言うご依頼の提案に、店中に響き渡るか如く珈琲をゴクリと飲み込んだ。

それもそのはず、ナポレオンとは青森県にあるその界隈で知らない人は居ないであだろう有名なレトロラブホテルだ。

ひとつのホテルに回転ベット、馬車ベット、貝殻ベットが揃う珍しいまさに夢の国。当然、僕にとっても憧れの存在だったので、耳を疑うしかない文言であった。

ねねさんはそんなナポレオンに現状確認の為、
毎年訪れていると言う。年々レトロラブホテルは人の足が遠のき、老朽化、後継者不在などの理由で軒並みその姿を消している。

以前、敬愛していたレトロラブホテルに向かう道中、以前まで夜街に輝いていた、その大きな看板の灯りが消えているのを目の当たりにして、膝から崩れ落ちた経験がある。

無くならないでほしいと願うも、一個人にはどうすることも出来ない歯痒さがある。そう考えると、ねねさんの愛と情熱にはあっぱれとしか言いようがない。

そして我々は青森県本八戸駅にて待ち合わせて、ねねさんが運転するレンタカーでナポレオンを目指し走り出した。

最近はSNSでレトロラブホテルの情報が溢れていて、実際に見てもないのに見た気になってしまう。
または実際に見ても「ああこんなもんか。」と想像を超えてくるものが少ない。今回訪れる憧れ続けていたナポレオンも数々の媒体で拝見していただけに、もし想像超えしない空間だったらどうしよう。と内心心配していた。

道場破りの様に鼻息荒くナポレオンに到着すると、
まさに僕が憧れ続けていた「ルイ13世」と言う部屋に入室する事が出来た。この時から気持ちを堪えきれずに、ずっとふたりは奇声を上げ続けている笑

ねねさんは何度も訪れているので、とドア開けを僕に譲ってくれた。力んだ手でドアノブをゆっくりと回す。嗚呼、この緊張感が読者に伝わるだろうか…
今ならマイケルジャクソンが突っ立ってるだけで、
気絶するファンたちの気持ちが痛いほどわかる。


入室するなり、あまりの美しさに言葉を失った。
画面で見るソレでは味わえない圧倒的な美があり、
尋常じゃない色気を解き放っていた。

まるで範馬刃牙が対戦相手に幻影の蟷螂を観る様に、その圧倒的空間に僕もこの部屋に幻影を見た。

性には興味があるも、まだ経験はなく。
少女でもなければ、大人でもない。
そんな肉付きの良い蕾の様な赤毛の洋女が壁に手を滑らせながら、微笑みながらゆっくり歩いてくる。そんな情景がはっきりと観えた。

回転ベットの奥にはベージュ色の透けた薄カーテンのベールがある。ボタンひとつでそのベールが上がり下がりする様はまるで、洋女がはじらいながらもランジェリーを、その白く膨れた指先でゆっくり捲し上げる様に感じた。

ねねさんが「布団を剥がすと、また表情が変わるんです。」と徐に掛け布団を剥いだ。

ふたりで悶絶しながらその耽美さにただただ放心状態であった。すると徐にねねさんが敷布団に鼻を当て始め「これ、やばいです…」と呟いた。まさかの奇行に一瞬動揺したが、次の瞬間には自分も敷布団に鼻を当てていた。

適度な弾力と、清潔感あるシーツの張りと香りが
男性諸君には経験があるかもしれないのだけれど、
レースの下着を着用した女性のお尻に顔を埋めたような感覚。
「….ッこれは敷布団じゃない……ケツだ……ッ」

そして次は目元を敷布団に埋める。するとそれは胸元に顔を埋める様な感覚。その色気にたまらずシーツを愛撫の様に撫でていた。これは"したくてした"ではなく"制御できずに本能としての身体の反応"だった。

お互いずっとこの調子で悶えていた。


そしてしばらくお互い喋らず、シーツが擦れる音だけが数分間続く。側から見ると相当異様な光景だったと思う。

まるで先ほどの赤毛の洋女とひとつになっていく様な感覚だった。

これは余談だが、その後も他の部屋でも。
東京に戻ってきてからも様々な式布団に
鼻をつけてみたが同等に感じるものはなかった。

なんとカラオケまで歌える。
音響もなかなかのものである。


常々「理想のラブホテルとは何か。」と言うのを考えていた。回転ベッドやメリーゴーランドなど、ザ⭐︎レトロラブホテル!と言うような昭和の馬鹿馬鹿しいエンタメ要素のある部屋なのではないか。や、窓を開けるとそこは一面海や田んぼの風景だ。とか。

考えあぐねた結果、
自分なりに理想のラブホテルと言うものの定義が出来つつある。そのひとつは「もうこの世に存在しないホテル」だ。それは自分が訪れた事があろうとなかろうと、神格化される部分があり、
そこに想いを馳せる部分にロマンがある。



事前に調べて部屋を狙い撃ちして入室したラブホテルよりも、酔った勢いで入った名前も知らないラブホテル。もう二度と訪れる事が出来ない。
そんなラブホテルの方が記録に残っている事がある。

僕が20代中盤の頃、一時期「自分がデブ専なのではないか。」と感じた事があって、まぐわる相手の階級をどんどん上げていった時期があった。最終的に大柄の鉄球の様なカービィフォルムの女性までたどり着く。

「いつも待ち合わせすると男に逃げられるんだ。君相当なゲテモノ喰いだね。」と煙草で黄ばんだ歯をむき出しにして笑っていた彼女の顔は今でも鮮明に覚えている。逃げ出したい気持ちは山々だったが、自分で巻いた種だったので、どこでもいいからと渋谷のラブホ街にしけ込んだ夜だった。

記憶は断片的なのだが行為後、真っ暗な部屋でテレビだけつけて裸で煙草を吸う彼女のシルエットが、まるで山の様だった事だけは覚えている。どういう道順でそのホテルにたどり着いたかも、どう解散したのかも全く覚えていない。度々仕事で渋谷のラブホテルに幾度も訪れるも、今だにまだそのラブホテルには再会出来ていない。でもそれでいいとも思っている部分はある。


もうひとつは「人こそがラブホテル。」
もう一説は人こそが理想のラブホテルだと言う事。
派手な装飾がなく、どんなに殺風景な部屋であってもその人の存在、空気感こそが理想だと成立させる。極論その人と訪れるラブホテル以外はラブホテルではない。とも言わしめるその相手こそ、理想のラブホテルだと言える。

ところが、このナポレオン「ルイ13世」と出逢い、また新たな定義が生まれてしまった。それは「恋」である。

この距離感で良かった。と思う反面、もっと近くで時間を過ごしたかった。ラブホテルの一室に恋をすること。今まで経験した事のない胸の高鳴り。
まさに初恋だった。

関東在住の身からすると、ナポレオンは正直アクセスは良くない。きっとレトロラブホ好きでも9割の人は行かないままだろう。しかしレトロラブホにロマンを感じる人は是非行ってほしい。そしてその時は、あの美しさを語り合いましょう。

ねねさんもこの日の事を記事にしてくれているので、ご興味ある方は是非! こちら











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