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夏の定義 1日目。

大阪出張最終日を終えて、
夏の終わりを探す旅へと動き出した。

まずは大阪の金券ショップで
諦めていた夏の青春18きっぷを探す。

丁度よく残り2回分のきっぷが1枚だけあった。
前利用者は長野県は諏訪から兵庫県まで3日間かけて旅を続けてきた切符で、まるで旅人からのバトンを受け取った気持ちで少し心強かった。

僕はこれから海のある街を目指して、
大阪から約4時間半かけて静岡県は弁天島へ。
弁天島である理由は特にない。
ただ知らない街へ行きたかった。

泊まったホテルは弁天島駅の目の前にある。
「ホテル開春楼」

2018年7月2日に負債総額7億を抱え閉館していた
このホテルも営業再開しており、どんなホテルかと思いきや、とても立派で安価に泊まれてひとり者にとっては最高だった。部屋もひとりには充分な広さで大きな窓からは煌めく海と赤鳥居が見える。

だだっ広いロビーには誰もいなく、時が止まった様な空間にピアノの音楽だけが寂しく漂っていた。
でも僕はその雰囲気が好きで、移動疲れもあってか暫くそこから動けなくなった。

16時過ぎに弁天島から浜松へ。
目星を付けていた居酒屋はすべて貸し切りで、
期待していたスナックは何件か潰れていた。

「なんと幸先の悪い旅なんだろう。」
そう思いながら肩を落としてとぼとぼ歩いていると、頭上から一軒のスナック看板の灯りがスポットライトの様に僕を照らしていた。

その名も「娘っこ。」

開店早々だったので、まだ少し準備をしているママだったが快く招いて頂き、とても上品で柔らかな接客のママだった。

写真で伝わりにくいのが悔しいが、
少し薬師丸ひろ子に似ているママ。

席に着くなり、旅の経緯を伝えて「目星を付けていたスナックがやってなかったんです。」と話した。

話を聞けばこの一帯もコロナで
スナックが随分と減ったと言う。

「今やスナックは絶滅危惧種だからあなたみたいな若者が来てくれるのは嬉しい!」そう言われるとこちらも救われた気持ちになる。

世間では35歳は中堅に差し掛かる年齢でもあるが、スナックではまだまだ若者だ。

店名の娘っこと言うのは「娘の為に頑張って働く。」と言う母親の想いのこもった店名だ。以前は居酒屋を営まれていてその当時からの屋号らしい。

ところが、「◯◯っこ」と言う店名がよく風俗店だと勘違いをされ「60分コースで。」など間違い電話もしばしば。抜きを求めて訪れる人もいて困る事もあると言う。

「浜松は旅人がよく訪れるんですよ。」
そう言ったママのお店にも最近ひとり旅でこのスナックを訪れた旅人がふたりいたらしい。旅先での旅人との出逢いには憧れがある。

そうしてママと話していると続々とお客様が来店が続き、平日でもあっという間に満席になった。

営業が進むとママはどんどん酔いが回り
踊り始めたり、変なポーズをしたり、
少女の様な声で「ぴょんぴょん♡」などと言う。
素面の時の品のあるママとは様子が随分と変わり、生意気にも「なんとか守ってあげたい!」と思わせる…それがなんとも愛くるしいのがこのママの魅力だ。

ぴょんぴょん♡の瞬間

地元の居酒屋の店主や酒蔵の杜氏の方とご一緒させて頂いて、「東京で一緒に飲もう!」と連絡先を交換した。まさに一期一会なのである。

浜松から弁天島までの終電ははやい。
本当はもう1軒スナックを回ろうかと思っていたが、
あまりに居心地が良くてここでゆっくり過ごすことになった。

浜松に着いた当初は途方に暮れていたのに、こんな楽しい夜になるなんて思わなかった。やはり旅はGoogleより、おのれの直感を信じてその足で切り開くべきある。

最後の方は変顔ばかりだったママ

そして娘っこを後にして終電で宿へ向かう。
弁天橋を渡りたくて一つ前の舞阪で降りて大きな満月を見上げながらホテル前の浜辺を目指した。

地方の一駅は遠い。
40分くらいは歩いた。

そして浜辺で友達に作ってもらったサザンを聴きながら、潮の香りと大きな月を眺めた。

部屋に戻ってからも窓際の椅子に腰をかけ、
月明かりに照らされた室内から海面を眺めた。

潮風が涼しくて、遠くから虫の鳴き声が聞こえる。

浜名大橋を走るトラックの光がまるで流れ星の様に過ぎていくのをただ眺め、気がつけば3時になっていた。



まだ夏の終わりは見つからない。

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