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無言電話

kojuro先輩の記事を読んで、ある記憶が蘇りました。それは、無言電話です。



前期試験を数日後に控えた15年前の、冬のある日。夜の帳(とばり)が降りた頃、娘の携帯が鳴りました。液晶画面には「お兄ちゃん」と表示されています。電話に出た娘、「もしもし」と言うのですが、「シャカシャカ」と音がするだけの無言電話。5分から10分、その「シャカシャカ」が続いて、やがて無言電話は切れました。

そして、数分後、再度、電話が。受信ボタンを押して、電話を耳元に持っていった娘、「もしもし」を繰り返します。でも、無反応。そのうち「ツーツー」という電話の切れる音。この無言電話は、なんなの?

奥さんが、私の携帯を鳴らしました。「パパ、すぐ帰ってきて」と。私は会議を中座して、急いで車に乗り込みます。車を運転しながら、頭から血の気が引くのがわかりました。

家に到着すると、早速、娘と奥さんから情報収集をして頭の中を整理します。こういう状況になると考えるのは、悪い事ばかり。真っ先に頭に浮かんだのが、受験を苦にした自殺。センター試験の結果が良かったということで、目標設定を変えたことが誘引になったのか? 無言電話は親への無言のメッセージ?

あるいは、体の自由がきかない状況に陥った? ということは、拉致された? でも動機は? あの「シャカシャカ」は脅迫のためのメッセージ? そう考えたのは、数日前に、若い男性が拉致されて殺された事件があったばかりだったから。

寮のおばちゃんに電話をして、とりあえず、部屋を見てもらうことにしました。折り返しの電話では、少なくとも死体になっていないようです。私の方が生きた心地がしません。

次に、同じ寮に入っている高校の同級生だったK君無言電話の経緯を説明し、別の友達の部屋を訪ねてもらうことにしました。でも、息子はいません。やさしいK君は、前期試験前にも関わらず、寒い冬空の下、近くの公園まで息子を探しに行ってくれたのでした。


無言電話があってから1時間半ほど経った頃、電話がきました。それも息子の携帯からの有言電話(笑)。生きていたんです。聞けば、気分転換に行った美容室で散髪して戻ると、寮のおばちゃんから電話しろ、と言われたと。

息子からの返答は、「携帯をコートのポケットに入れて持ち歩いていた。電話はかけていない。拉致もされていないし、自殺もしていない」とそっけない。親の心子知らずで、まあ、なんと生意気な。

「センター試験終わってから、浮かれてしまって勉強なんてしてないだろう、お前は。何が気分転換だ。美容室に行っている暇があれば、勉強しろ」って言いたい気持ちは、やまやまでしたが、ぐっとこらえました。ここは、生きていればこそ、と気を取り直す以外にありません。まして、相手は受験生、それも大事な時期。

当時の携帯にパスコードを入れる仕組みなどありません。何かの拍子に、電話帳の最初に登録してあった娘につながったのでしょう。それにしても、連続して奇怪なことが起こるなんて、どんな歩き方をしていたんだ、お前は!

ひと安心したところで、寮のおばちゃんに電話を代わってもらいます。すると寮のおばちゃん曰く(いわく)、「息子さんの部屋、先ほど見せてもらいましたけど、お掃除がまったくできていません。親御さん、定期的に来て、掃除してくれなきゃ困ります」って。

おばちゃんの怒り、ごもっともです。息子の「来なくていい」を信じて、放置していた親がバカでした。なにしろ、オイラの血を引く息子です、片付けできる訳がありません。寮のおばちゃん、ゴメンなさい。返す言葉もございません

救いだったのは、K君が風邪をひくこともなく、無事、志望校に合格してくれたこと。

時が経つのは早いものです。あの無言電話の息子も今は所帯を持ち、子どもの親となっています。また、モバイル・フォンも人騒がせな携帯からスマホに変わりました。

以上、忌まわしくもあり、懐かしい無言電話の記憶との邂逅(かいこう)の一部始終は、これにて一件落着。

お願い:コメント欄への絵文字だけの無言コメントは避けるようお願いします(笑)。

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