試験車両ファイルNo.1 〜3000両の生みの親 ACトレイン〜
ACトレインは、JR東日本が2002年に製造した試験車両です。そしてなんといっても、この列車を応用してできた実際の営業用車両は3000量以上製造されています。首都圏の列車の大半の元となった、その車両について今回は説明していきます。
※僕の生まれる前になくなった車両なので写真はWikipediaから引用です。
試験車両とは
鉄道車両の試験車両、それは鉄道会社が新たな技術の開発をするために実験用として開発した車両のことを指します。
完全に実験専用で製造されたものもあれば、実験が終わった後営業車両に転用する場合もあります。
今回の車両は、実験専用のため2006年にすべての実験が終了して解体されました。
ACトレインの概要
この車両は、新たな通勤型車両を開発するための試験用車両です。ACトレインとは、アドバンスコミュータートレイン略です。
当初は山手線に導入する車両のための開発を考えていましたが、計画が変更され2001年に山手線の新型車両(E231系500番台)が導入されたため以降は埼京線や中央線のために開発されるようになりました。
⭐️データ⭐️
正式名:E993系
製造:2002年
廃車:2006年
車体長:13m(中間)、14m(先頭・後尾) 連節車
両数:5両
主な開発者:東芝・JR東日本
⭐️開発の目的⭐️
901系の開発以降10年を経過し、これらの新系列と呼ばれる車両も既に3000両以上(2002年度首現在)投入され、更なる改善が求められる時期になってきました。しかし各技術は既にかなり成熟してきており、現行の延長線上の技術で一層の改善をはかることは、なかなか厳しい状況になっています。そこで、21世紀にふさわしい車両を目指して、従来の車両に対し基本構造面での見直しを行う等、革新的な改善のアプローチを行ったものがAC Trainです。
(21世紀にふさわしい車両をめざして~ACトレインの開発~より)
新たな技術
✅AIMS・・・車両の情報を管理し、伝送するためのコンピューター。従来のものとは異なり、国際標準規格のイーサネットを採用。さらに伝送速度は10MB/秒と高速化した。また端末の数を削減することで配線を簡略化した。
✅グラスコックピット・・・運転代の情報機器をディスプレイにまとめたしたもの。
✅ステンレスダブルスキン構造… 2枚の間にトラス状のものが入った断面。段ボールと同じような構造(Wikipedia参照)。従来アルミニウム合金車体に使われていた技術だが、それを軽量ステンレス車体にも応用した。
️📌側面強度が強い
️⚠️重い
✅レーザー溶接・・・車体を製造するときに、レーザービームを使って溶接をする。
️📌水密性向上(水を通さない)
️📌平滑て美観が向上
️📌コーキング材が不要
️⚠️作業工程が危険を伴う
✅直接駆動式電動機(DDM)・・・モーターと車軸の間に間接的な機構(歯車など)を介さず、モーターを車軸に直接取り付けてしまう方式。
️📌軽量
️📌低騒音(ほぼ無音)
️📌整備の簡略化
️📌高効率(高いトルクモーメント)
️📌長寿命(のはずだった…)
️📌冷却ファンが不要になる
⚠️バネ下重量が増大
️⚠️回転速度を使い分けることが難しい
️⚠️モーターにかかる負荷が大きくなる
✅永久磁石同期電動機(PMSM)・・・回転子を永久磁石とした同期モーター。
📌誘導モーターと比べて強力
️📌回転し電力を供給する必要がない
→接触部分の削減
✅連節車・・・説明するとわかりにくいので、以下に図を出す。
📌曲線線通過がしやすい
📌低振動
📌低コスト
📌連結面を客室化 連結部分に、通常の床を設置しそこに立ち止まれるようにすることですべての号車を一体化させ乗車定員を増やす。
⚠️メンテナンスがしにくくなる。
⚠️従来の車両と車体の長さが異なるため統一されるまでホームドアの設置が難しくなる。
✅ユニバーサルデザインに配慮したつり革・・・従来通り形は三角形だが、縦に細長い形にして握りやすくした。
✅ロング/クロス可変座席・・・車端部の座席で、半回転してロングシートとクロスシートを切り替えられる。平日はロング、土休日はクロスを想定。
✅ドアランプ・・・ドアが開閉するときに、ランプが光る。この車両では、丸い形でドアが閉まる時のみに黄色く閉まるタイプだった。
✅外吊り戸・・・鉄道車両が基本横引き戸だが、これはその中でも戸袋をなくし、戸が外側に出るように開く扉。現在の大型のタクシーの後ろの扉のような形。一部の新幹線や特急列車や観光列車での採用があったが、通勤電車はこれが初。
️📌低コスト
📌省スペース
📌ドアレールを廃止
→バリアフリー
📌溶接が楽になる
📌気密性向上
✅電動格納式車椅子スロープ・・・従来、車椅子の人が電車に乗る場合は係員が板をつないで乗車していた。しかしそれを止め、ボタンを押したら車内から格納式のスロープが出てくる方式にすることで時間の短縮が可能になる。
✅色々な液晶ディスプレイ・・・山手線の車両で採用されたドア鴨居部に設置する方式の他にも、天井から吊り下げる方式・貫通扉の上部につける方式・壁から飛び出す方式・客用扉の左右に1台ずつつく方式など様々な方式が検討された。
✅制御の相互バックアック・・・装置が故障しても、他の装置が代行し営業が続行できる。具体的には、ドアの制御装置が故障した場合他のドアの制御装置が故障した部分のドアまで補うことができる。また、制御伝送装置の配線も一部が故障した場合、他の部分の線を利用して補うことができる。
技術の応用
この車両の技術を応用して開発された営業車両について示します。
①E231系1000番台後期製造分(東海道・高崎・宇都宮線など)・・・この車両の実験前から製造されていた車両のうち、後のほうに製造された車両に変化が見られます。
⭐️ドアランプが設置 ドアが開く時も光るようになった。また長方形の形となり、赤色のランプになった。
⭐️グラスコックピット
⭐️制御の相互バックアップ(一部のみ)
②E531系(常盤・水戸線)・・・詳しくは過去のブログで解説
⭐️ユニバーサルデザインつり革
⭐️ドアランプ
⑤E331系(京王線)・・・様々な技術を盛り込み、国鉄時代からの車両を置き換えるためにできたました。しかし実際は走行試験に失敗してしまい製造された8年後の2014年に廃車。1編成のみの製造で終了した。詳しい理由は話すと長くなるので機会があれば別のブログで書きます。
⭐️AIMS
⭐️グラスコックピット
⭐️連節車
⭐️DDM
⭐️PMSM
⭐️ロング/クロス可変座席
⭐️電動格納式車いすスロープ
④E233系…予定通り埼京線と中央線に導入されたほか、首都圏のほぼ全ての路線と私鉄(デザイン等カスタマイズ)に導入された標準車両です。JR全車で最多勢力です。
⭐️グラスコックピット
⭐️ドアランプ
⭐️ユニバーサルデザインつり革
今回広まらなかった技術も、例えばレーザー溶接・PMSM・イーサネット・様々なタイプの液晶画面など、後の(2010年代後半)の車両に広まった技術が多く含まれています。
個人的に、この車両は今のところJRの試験車両で最も偉大だと思います。皆さんはどうでしょうか?
参考資料集
ACトレインの概要(JR東日本)
(https://www.jreast.co.jp/press/2001_2/20020111/index.html)
より安全,快適に,
そして魅力を高める次世代車両情報システム(東芝)
(https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2003/09/58_09pdf/a03.pdf)
21世紀にふさわしい車両をめざして〜ACトレインの開発~(JR東日本)
(https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_1/09-12.pdf)
おまけ
JR東日本と言えば、水素を使った燃料電池電車の開発をしていますね(開発は世界初なのに導入はドイツに先をこされましたが)。その燃料電池電車が導入されたときのイメージ図の列車のデザインが、ACトレインそっくりでした。デザインはかなり独特でしたがこういう形の営業列車が登場する事はありませんでした。残念…