日光•鬼怒川温泉•会津地域間輸送の課題
日光、鬼怒川温泉、会津の3地域はいずれも数々の観光地を持っている。これら3つの地域は東武鉄道•野岩鉄道•会津鉄道と3社によって1本の鉄路で繋がっている。1986年に野岩鉄道が開業して以降、東京〜日光•鬼怒川温泉•会津へ向かう特急列車が多数運行されると共に、連泊需要を見越してからこれら3つの地域を結ぶ列車も運行されてきた。
しかし、その観光地間を結ぶ列車は2020年以降急激に減り、2022年ダイヤ改正では瀕死状態である。そこで今回は地域間輸送の列車がこれまでどのように発展し、どうして減ってしまったか、そしてその理由と解決策について考察していく。
地域間輸送の地域間輸送の現況
以下が日光•鬼怒川〜会津輸送の現況である。
鬼怒川温泉〜会津間
直通列車
会津田島乗り換え
会津高原尾瀬口乗り換え
新藤原•会津高原尾瀬口乗り換え
新藤原•会津高原尾瀬口•会津田島乗り換え
日光〜会津間
直通列車...なし
会津若松まで
下今市•会津田島乗り換え...5本
※特急リバティ利用•要特急券会津若松まで
下今市•新藤原•会津高原尾瀬口乗り換え...1本会津田島まで
下今市•新藤原•会津高原尾瀬口乗り換え...3本
※全て会津田島での接続が悪い、内2本は下今市での接続も悪い会津高原尾瀬口まで
下今市•新藤原乗り換え...1本
東武日光発新藤原行き/快速AIZUマウントエクスプレスは接続列車がない。
発展(2017年以前)
鬼怒川〜会津輸送
2005年、浅草〜会津を走る急行南会津の最後の1本が廃止された。こうして会津田島まで走る有料列車は消滅した。
結果として都心とのアクセスは低下したが、逆に鬼怒川〜会津間のアクセスは向上した。何故なら、従来南会津と接続し会津田島〜会津若松•喜多方を走っていた快速AIZUマウントエクスプレスが鬼怒川温泉〜会津若松•喜多方間へ延長されたのである。
南会津の代替として鬼怒川温泉止まりの特急きぬと接続することが目的であったが快速列車のため特別料金は不要であった。さらに特急連絡列車のため設備は特急並みである。
こうして鬼怒川と会津が直結された。
2005年
快速AIZUマウントエクスプレス
鬼怒川温泉〜会津若松間...1本
鬼怒川温泉〜喜多方間...1本
※平日は会津若松止まり
日光〜鬼怒川•会津間輸送
2012年、日光〜鬼怒川間の地域間輸送を確保するため新たに東武日光〜会津若松の快速AIZUマウントエクスプレスが1本設定された。
しかし、2013年には浅草〜会津田島の快速•区間快速が毎時1本から2時間に1本に減便され、東武日光〜新藤原•会津田島間の普通列車も廃止された。
2012年
快速AIZUマウントエクスプレス
東武日光〜会津若松間...1本
鬼怒川温泉〜会津若松•喜多方間...2本
特急リバティ会津の登場による影響
鬼怒川〜会津間輸送(衰退)
2017年に特急リバティ会津が登場し、念願の東京〜会津直通特急が実現した。それにより浅草からの快速・区間快速は廃止され、代替として鬼怒川•会津鬼怒川・会津(電化区間)線内完結の普通列車が設定された。ただし、それにより一部列車で新藤原での系統分離(後述)が発生してしまった。
改正後の本数
普通列車
①鬼怒川温泉〜会津若松間
新藤原•会津高原尾瀬口乗り換え...1本
新藤原•会津田島乗り換え...2本
会津田島乗り換え...1本
②鬼怒川温泉〜会津田島止まり
新藤原乗り換え...1本
乗り換えなし...3本
③鬼怒川温泉〜会津高原尾瀬口止まり
新藤原乗り換え...1本
乗り換えなし...2本
特急リバティ会津+リレー号(鬼怒川温泉〜会津若松間)
会津田島乗り換え(特急+快速)...1本
会津田島乗り換え(特急+普通)...3本
AIZUマウントエクスプレス(鬼怒川温泉〜会津若松間)
乗り換えなし(全区間速達運転)...1本
乗り換えなし(会津線内各駅)...2本
お座トロ湯めぐり号(鬼怒川温泉〜会津若松間)
乗り換えなし(全区間速達運転)...1本
計19本、会津若松までは12本、速達列車8本
「新藤原乗り換え」の問題
2017年の快速廃止により、一部の鬼怒川線普通列車が新藤原止まりとなり、新藤原から同駅始発の野岩鉄道に乗り換える形となった。その結果、鬼怒川温泉•東武日光〜会津は不便になった。この時はまだ良かったのだが、2022年に鬼怒川線が一部を除き4両固定編成の20400系に置き換わると、野岩鉄道は全列車2両の6050系を維持し、普通列車は2駅隣の鬼怒川温泉発の1往復を除き全て系統分断となってしまった。その結果、鬼怒川温泉〜会津若松間では乗り換え2回、東武日光〜会津若松間に至っては乗り換え3回が必須となってしまった。
新藤原止まりと新藤原始発は接続のため時間も近く、さらに2022年以前は使用車両が同じで現在も保安装置•線路規格•料金制度に問題はない。それなのになぜ分離されたのか。
それには両数が関わる。基本的に鬼怒川線は4両、野岩鉄道は2両である。快速時代は新藤原まで4両で走り、新藤原で後ろ2両を切り離していた。しかし快速が廃止になると旗を振る人の人件費削減のため新藤原での増解結は全面廃止となった。その結果、鬼怒川線内も2両で走る直通列車が誕生した。だが全て2両では東武線内の輸送力に問題がある。そのため一部は4両のままとなり、新藤原止まりと新藤原始発の2両の野岩鉄道に乗り継ぐ形となったのである。そして東武は6050系の置き換えとワンマン化による人件費削減のため4両固定編成の20400系を導入しこれに統一(1往復除く)。こうして直通はほぼ消滅した。
ここまでの説明から、野岩鉄道線内も4両で走ればいいのではないかと思ってしまう。需要がなくても1日に数本くらい4両があってもいいはずだ。そして何より野岩鉄道線内のホームは全て4両対応なのである。
その理由は変電所である。野岩鉄道•会津鉄道の変電所はモーター2台分の出力しかない。2両編成であればモーター1台、4両編成であればモーターは2台である。 実際運転開始当初は途中駅で列車の行き違いはなく、線内には常に1つの列車しかいなかったため4両の列車が数多くあった。しかし会津荒海駅での列車交換が始まると、野岩•会津線内に一度に2つの列車が走ることになってしまい、2両が限界となってしまったのだ。 しかし個人的にこれを解決する策は3つあると思う。
「新藤原乗り換え」の解決策
①省電力モード
野岩鉄道には普通列車意外に500系の特急リバティ会津が走っている。しかし500系は3両でモーターは3つある。なぜ走行可能なのか、それは省電力モードが搭載されているからである。
このモードでは通常時4両で走れる他、交換のない夜間に走る尾瀬夜行でな6両(モーター3台)で走行できている。これを普通列車に搭載すれば4両のまま野岩鉄道に入れる。
②交換の廃止
後述の2022年ダイヤ改正で普通列車は大幅に減った。僕はこれ自体大問題だと思うが、仮に現状のまま新藤原越えを復活させるとして、会津荒海で交換をしなくてもダイヤ上問題はないのではないか。
③鬼怒川温泉切り離し
現在の東武では原則切り離しは下今市を除き行われていない。しかしSL大樹は鬼怒川温泉で機関車と客車を切り離している。さらに実際に僕が確認したところSLの機関車や車掌などはSL大樹到着から発車までの1〜2時間ずっと機関室で待機している。であればその時間で普通列車1つくらいの分割作業はできるような気がするのだが。
以上3つは1人の鉄道ファンである僕が個人的に考えた物であり鉄道会社の事情を熟知しているわけではないが、少なくとも直通廃止以外にも選択肢はあり、今からでも復活させることは可能だと考えた。
日光〜会津間輸送(向上)
2017年にはこれ以外に鬼怒川温泉始発のAIZUマウントエクスプレスの内1本が東武日光へ延長され、東武日光発着が2往復に増えた。さらに2013年に廃止された東武日光〜鬼怒川方面への直通列車も復活し、日光〜会津輸送が便利になった。
2017年
快速AIZUマウントエクスプレス
東武日光〜会津若松...2本
鬼怒川温泉〜喜多方...1本
普通列車
※インターネット上に情報がなかったため僕が所有している2018年の時刻表で代用
東武日光〜鬼怒川公園...下りのみで1本
東武日光〜新藤原...上りのみで4本
普通列車に接続する会津方面の列車
下り
接続なし
上り
快速AIZUマウントエクスプレス...1本
普通列車(会津田島から)...2本
※会津若松からの接続列車の有無は不明接続なし...1本
※2019年改正で会津田島からの列車と接続していなかった1本が接続するようになった。2021年には1本減便された代わりに2本が会津田島から東武日光まで乗り換えなしで直通するようになった。しかし2022年の後述の改正で全て廃止されてしまった。
大幅削減(2020年以降)
6050系引退と20400系導入の理由
先程の新藤原乗り換えや後述の2つには2021~2022年にかけて行われた会津鉄道•東武鉄道からの6050系引退と東武鬼怒川線内で鬼怒川温泉発1往復を除く全列車の20400系統一が大きく関わる。
まず、6050系引退の理由は4つ考えられる。
①老朽化
車体の製造は80年代後半と20400系とほぼ変わらない。しかし素材が20400系のステンレスではなく普通鋼製であるため、腐食•サビ•劣化のスピードが桁違いに速い。さらに機器類は多くの編成が1964年登場の6000系の流用の上そのため老朽化は深刻で、継続使用や大規模更新を行うべきではないと判断された。
②保守の問題
前述の通り機器類は6000系流用の物が多いが、そうでない編成も設計は6000系と変わらない。そのため現代の実態合わない非効率的な構造や交換用の確保が難しい部品などもある。
③ワンマン運転非対応
2つはワンマン運転非対応である。2020年から東武日光•鬼怒川線ではワンマン運転(駅改札方式)を開始した。ワンマン運転のメリットは路線単位での人件費削減のため、やるならそれで統一しなければならない。
また、もともと会津鉄道の気動車ではワンマン運転(車載運賃箱方式)を採用していた。そのため直通列車だけ車上が乗務するのは非効率である。
④乗務員訓練
さらに、そもそも会津鉄道は習熟訓練の手間を省くため気道車の運転免許を持った運転手しかいない。そのため電車の場合は野岩鉄道の運転手が会津線内でも代わりに乗務していた(逆に気動車のAIZUマウントエクスプレスは野岩鉄道•東武鉄道線内でも会津鉄道の運転士が乗務している)。そのため乗務員関連の人件費がかかることも原因になっていると考えられる。
AIZUマウントエクスプレスの削減(2020〜2022年)
快速AIZUマウントエクスプレスは2021年に東武日光発の1本が廃止され、2022年には喜多方発の片道と東武日光発の片道が廃止された上で鬼怒川温泉発着に短縮された。喜多方発は代替として片道の会津田島行き普通列車が設定された。結果として鬼怒川温泉〜会津若松•喜多方間の1往復のみとなった。
さらにその1往復は東武日光•下今市からの普通列車と接続せずに発車するため利便性が悪い。
これは2021年の6050系運用変更と2022年の同車引退(次項で説明)により会津鉄道電化区間でも普通列車に気動車が充当されるようになったことにより、車両を普通列車に回すためである。解決策は後述する。
「会津高原尾瀬口乗り換え」の誕生
前述の通り2022年にほぼ全ての普通列車が新藤原で分断された。しかしそれ以上にこれまで早朝深夜の一部列車しか折り返さなかった会津高原尾瀬口駅で全ての普通列車が系統分離されたのである。
原因は6050系が老朽化により会津鉄道から引退したことである。会津鉄道では特急を除く全列車を気動車化したが、野岩鉄道は先述の通り6050系のままであるため。こちらの解決策も後述する。
野岩鉄道普通列車の削減(2022年)
野岩鉄道の2022年ダイヤ改正による列車削減は以下の通りである。
特急リバティ会津:4往復→4往復(現状維持)
快速AIZUマウントエクスプレス:2往復→1往復
普通列車:11往復→5往復
普通列車の減少がとても大きい。この改正により全種別合わせても終日毎時1本のみの運転となった。特急•快速も秘境駅である男鹿高原を除く全駅に停車するが、流石にこの本数は少なすぎる。
さらに酷いのが、廃止されたのは元•東武日光発の列車であることだ。つまり、東武日光から新藤原行きに乗っても新藤原から先の接続列車が無いという状況なのである。特急を使わずに東武日光〜会津若松まで行くには乗り換え3~4回が必須となった。
もともと野岩鉄道は乗客のほぼ全てが観光客であったため新型コロナウイルス(COVID-19)による影響が大きいと考えられる。しかし使用車両の6050系は改正後廃車回送され現在稼働できるのはは予備車込みでたったの2編成である。そのためこのままではコロナ収束後も本数が回復するとは思えない(観光需要も完全にも元には戻らないと思うが)。
これに至っては解決策というより需要の、増加を期待するしかない。だからみんなで野岩鉄道に乗ろう‼︎(僕はこの5年間で3回"しか"乗っておりません...)
解決策
まず6050系の引退がかなり大きいため、会津田島〜会津高原尾瀬口を電車運転に戻し、会津高原尾瀬口•新藤原の乗り換えを無くさなければならない。新藤原に関しては先述の通りである。
会津田島〜会津高原尾瀬口に関しては6050系に代わる電車が必要である。そのためにワンマン対応•2両編成で連結可能•時代に見合う装置が絶対条件である。
但し会津鉄道線内も野岩鉄道の運転士•車掌が業務しているため、同線ワンマン化のためには野岩鉄道の運転士がワンマン運転出来なければならない。なお野岩鉄道•会津鉄道は東武と異なり駅に改札がないため、車掌がいなくなった場合乗降口を運転席に一番近い1つに絞り、運転士の監視の元で運賃箱に入れる形となる。
その野岩鉄道でもワンマン運転を実施するとなると、野岩鉄道•会津鉄道がICカード非対応であることが問題となる。新藤原発車後に乗客全員に乗車券所持の有無を確認し、東武鉄道からのICカード利用客を探して精算する作業を運転士がやるのは流石に無理がある。新藤原始発でない場合は乗降口を運転室横の1つに絞っても意味がない。
特急リバティ会津の有料化
2017年に登場した特急リバティ会津は下今市〜会津田島では特急券不要で乗車できた。下今市〜会津田島の全駅に停車する列車もあったため、実質的な普通列車の役割も担っていた。
しかし2022年ダイヤ改正で下今市の特例がなくなり、特急券不要区間は鬼怒川温泉〜会津田島のみとなった(同時に全駅に停車する列車も消えたが、観光地がある駅は全て止まるため影響はなし)。
鬼怒川温泉〜会津の輸送ならまだいいが、これで日光〜会津の輸送は壊滅的となった。東武日光のAIZUマウントエクスプレス廃止に新藤原•会津高原尾瀬口での系統分離で乗り換えは3~4回となり、おまけに特急券不要で乗れる列車はどう頑張っても1日5往復しかない。
最後に
今回は会津鉄道の過去の時刻表や資料を多く参考にした。
これらの資料はまだ会津鉄道公式サイトのサーバーに放置されていたり、アーカイブ.orgに保存されている。以下にこれらの資料の閲覧方法を記す。
2013年ダイヤ改正資料(WEBアーカイブ)
2016年の時刻表(Googleで「会津田島駅時刻表」と検索すると出てくる)
2017年のリバティ会津運行開始とAIZUマウントエクスプレス運行開始に関する情報(公式サイト)
2019年•2020年の時刻表(Googleで「会津鉄道 湯めぐり号」と調べると2016年時刻表と共に出てくる)
2019年→http://www.aizutetsudo.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/2019timetable_aizu.pdf
2020年→http://www.aizutetsudo.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/202003timetable_aizu.pdf
※"aizu"の部分を"asakusa"に変えると上りの時刻表が見られます。
2021年の時刻表(Webアーカイブ)