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鉄道車両のロングシートのこれから
通勤電車で採用されている座席のロングシート。かつてはただの長椅子であったが、現在は様々な工夫がされている。そこで今回は近年のロングシートの工夫とこれからのロングシートについて調べた。
ロングシートとは?
鉄道車両の座席は主に3種類が存在している。進行方向に向かって横向きに長椅子が伸びているのがロングシート、縦向きに配置されており向かい合わせに固定されているのがボックスシート、同じく縦向きで全座席が進行方向に向いているのがクロスシートである。
今回紹介するロングシートは主に通勤型車両、ボックスシートは近郊型車両、クロスシートは特急型車両に採用されている。
90年代〜現代のロングシート
バケットシート
![右上:バケットシート TX-3000系 左上:模様分けシート JR200系500番台 左下:通常シート 小湊鈇道キハ200型 の比較画像](https://assets.st-note.com/img/1682953571496-lkkbcpYMOH.png?width=1200)
バケットシートとは、凹みによって1人1人を区切ったシートのことを指す。従来の細長く平らなシートでは1人1人の位置が曖昧なために定員よりも座れない場合があったため、区切りを明確にすることで寄り多くの人が座れるようにした。
なお過渡期には、凹みはないものの模様で一人一人を区切ったものがあった。
仕切り板とスタンションポール
![東急9000系の座席の画像](https://assets.st-note.com/img/1682952158458-Bn54j0KgkA.jpg?width=1200)
バケットシート以前に多くの車両で採用されたのが、仕切り板でロングシートを2つに分ける方式である。例えば定員が7人であれば3+4に区切ることで定員が守られやすくなる。1986年の東急9000系が元祖とされる。
90年代に入ると板の代わりに握り棒(スタンションポール)で区切る車両も現れた。バケットシートが広まった現在でも座席を握り棒で区切ることは行われている。
片持ち式シート
![通常シートと片持ち式シートのダンマンのイメージ画像](https://assets.st-note.com/img/1683433403678-CpaGYAVB40.png?width=1200)
従来のロングシートは床に置かれており、座面の下にある脚台の中にはヒーター、戸閉装置、調圧器等が納められていた。そこでそれを無くし、椅子が壁から突出する様にしたのが片持ち式シートである。開放的になる他、製造がし易くなる利点もある。
懸垂式ヒーター...床置きではなく座席にぶら下がっているヒーター。片持ち式シートではこの方法が採用される。
S字バネ...片持ち式シートになったことで座席が薄くなり硬くなってしまった。そこで乗り心地を改善するために2010年ごろから座席にS字状のバネが入るようになった。JR東日本ではE233系1000番台が最初である。
シーズワイヤーヒーター
シーズワイヤー型ヒーターは現在の通勤電車の座席下によく搭載されているヒーターのことである。冬に限らずオールシーズンで室内環境を快適に保つことができる。
素材関係
低反発素材…弾性を抑えた素材。近年採用される車両が出ている(どの車両だったかは忘れてしまいました)。
ポリエステル詰物...リサイクルが可能である。東急8000系の内装更新で採用。
クッション性のある材質の詰物…乗り心地を改善。東京メトロ16000系で採用。
アラミド繊維を織り込んだ表生地…難燃性の向上を図る。東京メトロ16000系で採用。
これからのロングシート
前章では近年のロングシートについて述べてきたが、本章では今後普及していくであろう新しいロングシートについて述べる。
ハイバックシート
![新京成80000形の座席の画像](https://assets.st-note.com/img/1682952510036-zqtuN14f2d.jpg)
背もたれが肩の位置まで高くなっているシート。座り心地が向上する。東急5000系列の一部車両や京成3100系などで2013年から採用が始まっている。
ヘッドレスト...東急5000系列のハイバックシート車の一部で窓がない端部座席に設置されている。
G-Fit
川崎重工業が開発し2014年にグッドデザイン賞を受賞した座席。以下の点が工夫されている。
肩の高さまで伸ばしたバックレスト(ハイバック)
15°斜めに傾斜
→上体保持性能向上(揺れに強い)
→疲労の軽減座席の前面を僅かに上げる
→足を投げにくくする
→プライバシー確保
→マナー向上
ユニバーサルデザインシート
![相鉄20000系の車端部座席の画像](https://assets.st-note.com/img/1682950317034-UNwZxp2ULX.jpg?width=1200)
日立製作所が開発し2014年にグッドデザイン賞を受賞した優先席用座席。後述の慶應大学の座席等とは異なり浅い着座を目指していることが特徴。
高座面...浅い座りになる
→背筋が伸び、足の投げ出しを防止。背もたれが前傾...立ち座りがし易い。
→身体的負担軽減床下の荷物置き場...網棚を廃止することで開放的になる。
座っているお客様にも周囲のお客様にも快適なシート
公式プレスリリース↓
https://www.jreast.co.jp/press/2010/20110304.pdf
JR東日本が慶應義塾大学の山崎信寿教授と共同開発した新しいロングシート。実用化に向けて2011年に山手線のE231系500番台の一部座席で試験を行ったがその後の動向は不明。
凸状の背もたれ
背もたれの突出量を低減。
→上体を保持座面最凸部を奥へ移動
中央部を低くして前傾
座面の左右部を盛り上げる
→膝開き防止と深い着座を促進
布製ヒーター
日本シールが現在開発している新型ヒーター。従来のようにヒーターを座席下に設置するのではなく、座席を発熱効果のある布で作ることで座席そのものを温められる。
軽量化、燃費改善、省電力化が図れる他、乗客が自分で操作して各座席毎に設定を変えることも可能になる。
その他
1970年代に営団7000系試作車ででリクライニングロングシートの試験が行われた。詳細は不明であるが実用化されていたらどの様になっていたのだろうか。
いかがだっただろうか。1990年代以降通勤電車の座席は以前よりも硬いものが増えてしまったが近年は再び柔らかいものも増えてきた。座席は車両の快適性の点でとても重要な部位であるため、今後の進化にとても期待できる。
参考文献
宮田道一『東急今昔物語』戒光祥出版,2016
斉藤賢太郎 ほか『東京メトロ完全データ』メディアックすMOOK,2012
渡部史絵『東京メトロ 知られざる超絶! 世界』河出書房新社,2019