築地市場跡地に国立劇場を移転しよう!

国立劇場建替え・築地再開発の融合 : 一石二鳥

国立競技場が十分な議論をされずに建て替えられ、その結果、国民(納税者)は年間20億円超の費用を負担することになる、とのニュースが2022年も終わらんとするところ各紙を賑わせたのをご記憶だろうか。オリンピックが終わった現在、その巨大な施設をどう使うか、どう維持するか等、政府や関係者が事前にきちんと分析したとはとても思えない現実が、国民に悲惨な結果を突き付けている。

今、日本国民はその過ちの二の舞いに直面していると言える。それが昭和41年(1966年)に建築された国立劇場の建替え企画だ。国立劇場は歌舞伎や文楽など日本を代表する伝統芸能を上演する場として作られた施設だが、老朽化による取り壊しと建替えが計画されている。800億円もの予算で7-8年間の建設期間を予定する、壮大なプロジェクトである。

しかし現実には、今でさえ観劇者を十分に惹き付けているとは思えない(端的に言って、劇場、特に大劇場で行われる公演には空席が多い)施設であり、リーダーシップを取るべき政府は、“国立劇場”の目的や将来を本当に考えているのか、疑問が残る。費用効果はどれだけ考えられているのだろうか?計画では現在と同様に3劇場(大・中・小)を作るだけでなく、民間の資金を活用してホテルやレストラン等も併設した、文化観光拠点とする構想になっている。しかし昨年11月には、一般競争入札で民間事業者を選定していた「国立劇場再整備等事業」に対し、全応募者が辞退したという驚くべき公表があった。つまり応募者側から、そのままやっても民間企業的には利益を生む想定が出来ない、手を出せない、プロジェクト全体に疑問が残る、という判断をされた結果だと言えないだろうか。(追記:今年8月8日に2回目の入札にも全応募者が辞退し、不落札に終わったことが報告された。)

片や東京都は、広大な築地市場跡地の利用について、2023 年度内の事業予定者決定に向け、この4月末に事業者募集要項等を公表したばかり。特にインバウンド需要を目指している都側は、外国人にとって他の場所にない魅力的な施設を作りたいところではないか。「食のテーマパーク」から、東京ドームの移設まで、様々な案はあるようだが、それらは、原宿の竹下通りや浅草の浅草寺のような、“築地にしかない”ユニークな体験は、提供しにくいのではないか。

そこで国立劇場を国が所有する半蔵門の地から、東京都が所有する築地に移転し、そこを“日本館”にすることを提案したい。現在の国立劇場の広大な跡地には、半蔵門の地域全体に貢献する住宅なり事務所用のタワーなり、違った発想による建物を作るべきではないか。劇場と違って人が常にいることで活気が生まれ、むしろその方が半蔵門の再開発の起爆剤になるだろう。同時に半蔵門と比較にならないほどアクセスが良い築地に、日本館のような場所を作れば、日本にしかない、それも築地にしかない体験のできる場になり、外国人を含め、“必ず行きたい、行くべき場所”になるのではないだろうか。
一度劇場を建てれば、これから22世紀に渡って、次の次の世代まで建て替えは出来ない。それは半蔵門であれ築地であれ同様だ。つまり、今は正に100年に一度のチャンス、なのだ。国立競技場のような国民の負担になる建物ではなく、日本の新たな顔となる、国民にとっての真の財産、かつ“金のなる木”を作ることはできないのだろうか。

この連載で、国立劇場の本当の意味、あるべき姿を考えたく、また半蔵門と築地のそれぞれの特徴、我々納税者のお金をどう使うのが最善なのか、追求したい。主なポイントは下記の通り。

(1)  なぜ国立劇場が必要なのか。国が運営する劇場の目的は何なのか。それによってアプローチがかなり異なる。

(2)  現代人にアピールできる上演方法を考える。例えば今の4-5時間の通し狂言形式に拘らず、ミュージカルと同程度の2時間ぐらいの看取り狂言に集中した方が現世代のニーズに合う。

(3)  ニッポンに触れたい外国人にとって、伝統芸能は、本来、非常に魅力的なコンテンツである。日本を代表する、歌舞伎をはじめとする伝統芸能は、外国人の誰もが聞いたことがあるが、日本に来ても観劇のハードルが高い。

(4)  施設の中に伝統芸能ミュージアムを作る。三大伝統芸(能、文楽、歌舞伎)を中心に映像やVR、本舞台、小道具、衣裳等々を展示し、能面をつけたり、楽器や人形を触ったりする、インターアクティブ(双方向)の場を作ることで、日本の独特な文化を身近に経験できる。

(5)  例えば“日本館”のような、日本をテーマにした施設の提案。江戸文化を代表する歌舞伎と文楽の劇場をベースに、寿司を始め全国の和食、(外国人が殆ど飲む機会がない)高級日本茶の喫茶店、日本製のグッズなど、一日でニッポン全体が体感できるような“出会いの場”の創造。
 

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