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都会の空

土曜日のオフィス街 閑散とした舗道を
あてもなく歩く 灰色の陽光に

主のいない町は まるで時間もなく
食べた気のしない レストランのよう

随分変わったような 変わり映えしないような
別にどうでもいいけど こんな町も

好きじゃないけど 嫌いということもない
どうせこんな時代 この町もあの町も

どこに暮らしたって大して違わない
誰がいても いなくても そう

多分 君は今ごろ また別の場所で
死ぬほど嫌いなスタバを飲んでる

鳩の群れの向こう側に 見える誰かの
コートの裏地が 銀幕のように揺れる

変わりゆく街並みの 人波は同じようで
同じ人なんで 誰一人いないけど

自分だけがずっと 同じ場所に取り残されて
いるような いないような

変わらぬ冬の空 灰色の光の中
影のように流れゆく時間を思う


 〇  〇  〇  〇  〇

 私はいつも見上げていた。
 空を見つめること、空は生き物ではないが、生きているものすべてにとって、それは唯一の祖を見つめることなのだ。

 (パスカル・キニャール『さまよえる影』高橋啓 訳 青土社 P.196)


 〇  〇  〇  〇  〇