美しく舞う夢
これはダメよあっちにしなさい…
あれは○ちゃんと一緒にね…
入らないと仲間はずれにされちゃうでしょ!…
そんな母の口癖が、幼い頃の私を苦しめた。
言いなりだったあの頃、苦しくて苦しくて、家どころか日本からも出ていきたい気持ちだった。
そんな小学生の私がテレビで見たオリンピックの映像。
「え?これなに?」
私を釘付けにしたのは、器械体操の演技だった。
美しい体のライン。
躍動感溢れる演技に、心が踊り出しそうになった。
「私もあんな風にできたら」
人に憧れられるなにかを手に入れたら、私、変わるんじゃないかな…。
その日から日本から出ていきたかった私の頭は、器械体操のことでいっぱいになった。
そしてまさか、進学する中学校に器械体操部があったのは偶然だろうか。
小学生の頃の友達は、みんなバレーボール部へ入部した。
もちろん私もバレーボール部だったのだから、「みんなと同じように入って当然!」と母からの容赦ないプレッシャー。
でも、私は迷わず器械体操部へ入部した。
もう指図されたくない。
誰も知る人がいない部へ、人見知りでおとなしい私が1人で入部。
これは快挙でしかないが、私の人生の大きな確変だ。
器械体操って、とても厳しい世界。
ひとつ間違えば命も落とす競技。
だから先生がとにかく厳しい。
打たれ弱い私は、すぐ泣くのがトレードマークになってしまったけど、友達には可愛がられる存在となった。
全ては、あのテレビで見た器械体操の演技に近付きたい!
美しく舞いたい!
でも、現実にはたった3年間で理想の姿にはなれるはずもなく、バク転が出来るようになった程度。
うーん、何か違う。
私は何が好きなんやろう?
何に惹かれてるんだろう?
そうやって考える日々の中で、そういえば私、体をつかって表現するものにとても惹かれるんだってわかった。
器械体操も全身をつかって技の表現をする。
手足が長く、指先まできれいに伸ばすことで美を表現する。
私もっと美を追求したい!
器械体操部で364日(元旦だけはお休みだった)汗水たらして頑張った日々は、大人になっても忘れられない輝きをはなっている。
あの頃共に過ごした6人の部員は、ほとんどが良い母親になったけど、地元に残った3人はまた踊りの世界で出会うこととなる。
みんな踊ることが大好き。
私は40歳からクラシックバレエを始めた。
偶然、器械体操部のキャプテンをしていた子が、同じ先生のもとジャズダンスを習っていた。
偶然見つけた市の無料講座で、ヒップホップダンスを受講したら、器械体操部で一緒だった友達と会った。
みんな踊ることが大好き。
その思いが同じだから、私たちはあそこで出会って、ずっとつながっていたのだ。
いつの間にか大きなステージに立つのが夢となった私は、クラシックバレエを始めて2年後に夢を叶えた。
美しく舞う夢を。