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最新のトラウマ治療 「フラッシュテクニック」とは

「フラッシュテクニック(Flash Technique)」に関連する研究論文をいくつか紹介します。この技術は、トラウマ記憶の感情的負担を軽減し、処理を助けることを目的とした手法で、特にEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)療法の準備段階で使用されることがあります。


主要な論文

  1. The Effects of the Flash Technique Compared to Those of an Abbreviated Eye Movement Desensitization and Reprocessing Therapy Protocol

    • 概要: フラッシュテクニックは、トラウマ記憶の感情的および鮮明さを迅速に軽減するための手法です。本研究では、EMDR療法と比較され、効果が類似しているが、より快適に受け入れられることが示されました。

    • 発表年: 2021

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  2. Use of the Flash Technique in EMDR Therapy: Four Case Examples

    • 概要: フラッシュテクニックは、トラウマ記憶の処理を容易にするために使用され、特に強烈な記憶に対して効果的とされています。4つのケーススタディが紹介されており、この技術の迅速かつ低負担な特徴が示されています。

    • 発表年: 2017

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  3. Preliminary Evidence for the Acceptability, Safety, and Efficacy of the Flash Technique

    • 概要: 654人を対象にした研究で、フラッシュテクニックが記憶の不安を大幅に減少させる効果があり、安全で受け入れられやすいことを確認しました。フォローアップでは効果が持続していることが示されました。

    • 発表年: 2024

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  4. Flash Technique for Safe Desensitization of Memories and Fusion of Parts in DID

    • 概要: フラッシュテクニックをDID(解離性同一性障害)治療に使用し、記憶の安全な脱感作と統合を達成するための適応例を紹介しています。複雑なトラウマ症例に対して柔軟に適用できる方法が示されています。

    • 発表年: 2019

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  5. A Model for the Flash Technique Based on Working Memory and Neuroscience Research

    • 概要: フラッシュテクニックが脳内でどのように作用するかについてのモデルを提案。記憶再統合と感情調整に関与する神経メカニズムが議論されています。

    • 発表年: 2021

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フラッシュテクニックは、感情的なトラウマの軽減や記憶の再統合を迅速かつ低負担で行うための有望な手法です。特にEMDR療法との併用で効果を発揮する可能性があります。これらの論文は、その効果、安全性、さらなる研究の必要性を示しています。

論文要旨
目的

本論文では、FT の神経科学的メカニズムを解明し、意図的な瞬きがどのように脳内でトラウマ記憶に短時間アクセスするかを説明するモデルを提案しています。
方法と理論神経科学の基礎
扁桃体と前頭前野の関係性を強調し、脳内の感情調節回路を説明。
中脳水道周囲灰白質 (PAG) の反射的な役割を強調。PAG は脅威を無意識に感知し、扁桃体を活性化させます。
記憶の再固定化理論
記憶の再活性化と新しい学習が、不安定な記憶の内容を修正するメカニズムを説明。
EMDR と類似しながらも、FT は記憶に短時間のみアクセスする点が異なります。
ワーキングメモリ理論
限られた作業記憶容量に基づき、トラウマ記憶とポジティブな焦点の両方を同時に処理することで、記憶の感情的な影響を軽減する可能性を検討。
フラッシュテクニックの実践
意図的な瞬きにより、脳がトラウマ記憶に短時間アクセスし、その後ポジティブな焦点に戻る仕組みを提案。
結果脳内の変化
FT 中に扁桃体と左海馬の接続が強化され、記憶の短時間アクセスが可能に。
短時間のアクセスにより、扁桃体の過剰活性化を防ぎ、記憶の再固定化が進む。
臨床的意義
トラウマ記憶への短時間アクセスが記憶の処理を促進し、トラウマ記憶の感情的影響を軽減する可能性を示唆。
考察提案されたモデル
瞬きが脳内の注意を切り替え、トラウマ記憶に短時間アクセスする仕組みを説明。
短時間のアクセス中に前頭前野が扁桃体を制御し、トラウマ記憶の感情的負担を軽減する。
今後の研究
PTSD 患者に対する fMRI データを用いた実験でモデルの検証が必要。
瞬きや両側刺激の役割、作業記憶の影響についてさらなる研究が求められる。
結論
本論文は、フラッシュテクニックがトラウマ記憶の再固定化を促進し、感情調節を改善する可能性を示唆しています。提案されたモデルは、脳内の神経ネットワークの活性化と接続性に基づき、トラウマ治療の新たな道を開くものです。

「ワーキングメモリと神経科学研究に基づくフラッシュテクニックのモデル」


フラッシュテクニック (Flash Technique, FT) をセルフで行う方法

基本的な手順を理解し、慎重に実践することで可能ですが、自己実践には限界があり、安全性を確保するために注意が必要です。特に重度のトラウマを抱えている場合は、専門家の指導の下で行うことが推奨されます。

以下に、セルフで行う際の基本的な手順を示します。

フラッシュテクニックをセルフで行う手順

1. 安全な環境を整える

  • 静かで安心できる場所を選びます。

  • 中断される可能性が少ない時間帯に行います。

2. トラウマ記憶の対象を選ぶ

  • 思い出すだけで軽い不安を感じる記憶を選びます。
    注意: 強烈すぎるトラウマ記憶をセルフで処理しようとすると、過剰な感情反応や解離を引き起こす可能性があるため避けてください。

3. ポジティブで魅力的な焦点を準備する

  • 自分が楽しめる、またはリラックスできるポジティブなイメージや活動を用意します。

    • 例: 楽しい思い出、美しい風景、好きな音楽、笑顔になれる場面。

  • 焦点をはっきりと頭の中でイメージし、気持ちが安らぐことを確認します。

4. トラウマ記憶に短時間だけアクセス

  • **「フラッシュ」**の瞬間を設けます:

    • 目を閉じて、記憶の断片をほんの一瞬だけ思い出します(例えば「写真を見る」程度のイメージ)。

    • 記憶に浸るのではなく、「ふっと軽く見る」感覚で。

5. ポジティブな焦点に戻る

  • すぐにポジティブなイメージや活動に意識を戻します。

    • 楽しい思い出を思い浮かべたり、用意した音楽を聴いたりします。

6. これを数回繰り返す

  • 上記のプロセス(トラウマ記憶に短時間アクセス → ポジティブな焦点に戻る)を2~3回程度繰り返します。

  • 1セッションの時間は10~15分程度にとどめましょう。

具体的なセルフフラッシュの例

  1. 準備:

    • 静かに座り、リラックスした状態を作る。

    • 好きな風景や楽しい思い出を思い浮かべる。

  2. トラウマ記憶のフラッシュ:

    • 短い瞬間だけ、その記憶を「ぼんやりと思い出す」。深く掘り下げない。

  3. ポジティブな焦点に戻る:

    • 「リラックスして美しい景色を楽しむ」「笑顔の場面に戻る」など、ポジティブな気持ちに切り替える。

  4. 数回繰り返す:

    • 記憶の鮮明さや感情的な負担が軽くなる感覚を確認しながら進める。

注意事項

  1. 安全性を優先

    • 強烈なトラウマ記憶を無理に扱わない。

    • セッション中に強い感情や解離が生じた場合はすぐに中断し、専門家に相談してください。

  2. 段階的に進める

    • 最初は軽い記憶や負担が少ないトピックから始め、慣れてきたら少しずつ難易度を上げる。

  3. サポートが必要な場合

    • セルフでの実践に限界を感じた場合は、トラウマ治療に精通したセラピストに相談することを検討してください。

  4. リフレッシュの時間を取る

    • セッション後は、散歩や深呼吸などリフレッシュできる活動を取り入れ、心を安定させます。

セルフフラッシュの適用例

  • 日常生活で軽度のストレスや不安を解消したい場合。

  • トラウマ記憶に向き合う準備段階として。

  • セラピー中に学んだ技法を日常で補助的に活用する場合。

フラッシュテクニックは安全かつ効果的に使える技法ですが、慎重な実践が必要です。もし困難を感じたり、重度の症状がある場合は、専門家に相談してください。

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