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スーパーのAさん

 いつも通っているスーパーには、色んなパートさんがいる。Aさんは、俯き気味で、ゆっくりとレジを打つ。どんなに混んできても、自分のペースを崩さない。私には、レジ打ちのアルバイトに憧れていた時期があったが、イライラしたお客さんがいたら焦ってミスしそう…と思って、結局やらず仕舞いになっている。祖母がよく「レジの人の動きが遅くって、遅くって!」と怒っていたのを思い出し、その反動でか、私はAさんをこっそり推している。
 今日はAさんのレジに2番目に並べた。いま会計中の客は、お父さんと(抱っこされている)娘さんだった。お父さんの洋服とリュックはかなり年季が入っていて、あまりファッションには関心が無いのかと思いきや、スリッポンはGUCCI。娘さんは全身ファミリアを身につけている。さりげなく観察しているつもりが娘さんに見つかり、指を差される。それに気づいたお父さんは娘の指を自分の手で包み込んで「良くないよ、人のことを指さすの」と言う。代わりに娘のお腹を人差し指でツンツンする。私に「ほんと、すみません…!」と謝る。「全然構わないです!」と言いながら、お父さんと娘さんの目と顎の輪郭が似すぎていることに気づく。
 これ以上はさすがに悪いと思い、Aさんの手元をぼんやり眺めて過ごす。前客の会計終わりに、ふっと視線を感じて目をやると、娘さんが右手をパーにしている。それはただのパーで、1枚の写真のような、断片的なイメージだった。ところがAさんが、ついに顔を上げ、カウンターを超えるような勢いで「見た!?バイバイしてる!バイバイ!」と私に訴えてきた。「うんうん、見ました、バイバイしてましたね」と言うと、Aさんは何度も娘さんの姿を目で追う。首をぐるんと後ろにひねって、漫画だったらいっぱい線が入りそうな速さじゃん!と突っ込みたくなるAさん。やっぱり私はAさんを推す。
 
 

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