ADAM at presents INST-ALLL FESTIVAL 2024@Livehouse 窓枠
はじめに
インストゥルメンタル、略してインストとよばれる音楽のジャンル。
簡単に言えば、歌詞はなく音だけで表現されるジャンルである。
音楽といえば、歌詞がつきもの。
ワタシもそういう概念のなかで生きてきた。
しかし、このジャンルの音楽を知ったことは目から鱗が落ちるような思いであった。音だけで表現される世界は計り知れないのだ。
それに気づくことができたとき、自らの音楽に対する視野はぐんっと広がった。
インストを舐めちゃいけない、そう気づかされた。
概要
主宰者のADAM atの玉田さんが活動を開始した静岡県浜松市にて開催されるインストバンドが集まる音楽フェス。
2018年から開催されている本フェスは活動拠点である静岡・浜松を盛り上げようとする彼の想いから創り出されたイベントである。
昨年までは浜名湖ガーデンパークにて開催されていたが今年は規模縮小となり、Livehouse 窓枠での開催となった。
会場はJR浜松駅からまっ直ぐ大通りを歩くと、突然現れる。
外観からするとライブハウスのようには見えない。
しかし、中に入ると立派なライブハウス。
入り口すぐにドリンクカウンターがあり、奥に進めばすぐフロアが広がる。天井が高いため、空間が広く感じた。また、2階にはカフェが併設されており食事をすることが可能。本フェスでは2階が物販エリアとなっていた。
規模縮小とは言うものの彼の想いや熱量は会場が変わろうが何一つ変わることなかったようである。今年から参加したワタシは過去のことが分からないので比較のしようがないが、彼の熱量には凄まじいものを感じた。
アーティストレポ
フェス会場の構成は、ステージ上でアーティストが演奏。終了後の場面転換時にはフロア後ろ(入口付近)の段差になっているエリアの一角にブースを作ってDJ ADAM atと弦楽座が繋ぎを行う形となっていた。
QOOPIE
トップバッターは今、勢いに乗っているインストバンドのQOOPIE。
最初の最初からボルテージあげていく彼らの演奏の熱量は半端じゃないのだ。「O.D.D」はワタシの推し曲なので盛り上がらないわけがない。今日も辻さんのベースが光っていた。左右のギター二人は表情豊か過ぎるくらいなのに、この方は本当にクール。おそらく、胸に秘めたアツい想いがあるのだろう。
加藤さんは今日も観客を煽っていく!煽られる観客の熱が波のようにフロアに広がっていくのだ。
「Oliver」のギターメロディはどれほど引っ張るんだろうか。引っ張っているあいだの加藤さんの表情が濃い。(ワタシはメロディが引っ張られることにより身体を揺らすタイミングを何度か間違えた)
彼らは名古屋のタワレコにてアルバム発売を記念したインストアイベントが決定。10/20(日)、大須ell.FITS.ALLでのthe band apartとの対バンも控えている。彼らはthe band apartのライブ会場に赴き、自らフライヤーを配る動きをしているとのこと。ひたむきにこのライブに向けて準備している姿を知ると余計に応援してしまうところである。
The Hey Song
今回の本命バンド。通称、ヘイソン。
ベーシスト/コンポーザー落合"キット"慶太さん、ギタリスト古池友也さんから成るバンド。またドラム、ピアノはサポートメンバーが入っている。キットさんのベースは5弦であることが特徴的である。
このバンドを知ったのはインストを教えてくれた年上の友人からだった。
Spotifyのランキング上位から順番に聴いていった。1位の「Greenfield」から聴いたが、すぐに心にビビッとくるものがあった。
例えるならば、微炭酸のさわやかさと初夏あたりに水面に輝く光のような音楽であった。そんな音楽を作り出す2人、見た目と音楽のギャップが大きかったのが衝撃であった。そして、そんな2人はとてもカッコよく(いわゆるイケおじ)素晴らしい演奏であった。演奏を聴き入ってしまうくらい、惚れ惚れするものであった。
古池さんのギターは繊細だけども孤高ではなくとても柔らかい。そしてキットさんのベースはバンドの支えとしての役割のほか自らも目立つパートがあったりと多彩な役割を楽曲のなかで表現しているのが印象的であった
キットさんは本フェスの前日~当日にかけて急性腰痛症(いわゆる、ぎっくり腰)となったようであり、リハ中は腰を労わる仕草が見られたため、こちらとしても心配してしまった。無事に演奏を終えられてよかったなと安堵。
古池さんは場面転換時の弦楽座として演奏されていたため、この日は1人で4ステージをすることとなった。本当にお疲れ様としか言いようがない。
弦楽座ではフィンガースタイルのアコースティックギターを披露。指が長く、複雑な音の移り変わりでも流線のような指さばきで綺麗であった。
来年の1/5(日)にはキットさんが営むライブハウス名古屋JAMMIN'にてフロアライブが開催。サイン入りチケットの手売りがされていたため、勢い余って購入。また、ステッカーにもサインをいただけて有難いところである。
物販時、テーブルはさんで会話できるなんて思ってもいなかったため、ワタシはただただ緊張とビビッてしまった始末。
こんな都会の方が私の地元になんて来ることは滅多にないはずなのに、ただただ地元にも来てください、と言ってしまったのは反省である。
TRI4TH
ヘイソンの物販終わり、最後列から彼らの演奏をチェック。
踊れるジャズをコンセプトに掲げ、国内外を飛び回る日本を代表するライブジャズバンドである。
特徴としては、メンバーにギターがいないことだろうか。メロディラインはトランペット、サックスがリードするのが主である。
また、ドラムの伊藤隆郎さんがMCをしていることが印象的であった。ドラムパートの人はあまり喋らない印象が強く、演奏途中でも伊藤さんがマイクを持って観客に対して煽っているのが新鮮であった。
ワタシがアマのサックス奏者であるため、どうしてもSaxの藤田さんに目が行ってしまう。メタルマウスピースから出されるパンチのある音がたまらない。ブレスの量や技術、そして舞台を動き回りながら演奏するのは本当に体力がいるからこそ、プレイヤーとしてすごいと思わされてしまった。
彼も含めてトランペット、サックスから聴こえる音楽はどこかソリッドな部分があり、どストレートかつパンチのある音楽を観客に届けてくれる。
途中からの参加だったため、スタートの様子が見られなかったのは惜しいが途中から見ても終盤まで熱量が下がることはなく、弾丸のようにまっすぐ勢いのあるパフォーマンスを魅せてくれた。
このバンドは踊らざるをえないのだ。
JABBERLOOP
「シロクマ」が有名であるJABBERLOOP。
ワタシが彼らを知ったのもその楽曲であった。
この曲を聴いたときに自分もアルトサックスで吹いてみたいと思ったことがあるのだ。
このバンドもTRI4THと同じくギターパートはいない。
メロディはサックスとトランペットが主に担っている形である。
このバンドで印象的なのはキーボードの役割。
キーボードの存在によってどこかポップで楽し気なメロディに変化するような感じがした。おそらく、このバンドにおけるスパイスがキーボードなのではないかと考えた。
また、DAISUKEさんのサックスは曲ごとにアルト、テナーサックスの持ち替えをしていた。頬を膨らませて演奏するスタイルであり、かなりのブレス量が必要とされるのではないかと考える。
また、経験者だから分かるのだがアルトとテナーは大きさも違えば使うブレス量も違う。テナーからアルトであれば、テナーでかかった負荷を使ってアルトを扱えるが、その逆はアマの自分からすると結構大変な行為である。
だからこそ、プロってすごいんだ。それで飯食ってるっていうのだから凄い。久しぶりにワタシもサックスを引っ張り出してこようかと思わされた。
(DAISUKEさんの赤のバードストラップはかっこよかったな。)
ちなみにワタシは以前から「MotherLake」が推し曲である。
JABBERLOOPは今年で20周年。アニバーサリーということで、めでたい話である。20年続けるというのは簡単なものではない、なぜなら人と人の関わりであり様々な価値観が交差するなかでやっていく活動であるからだ。
まず、1人で何かを長続きさせようと思うだけでも難しいのにグループ活動として続けるなんて凄いとしか言いようがない。
トランペットのMAKOTOさんは、「この先、30年、40年続けていけるように」と話をしていたが、末永くバンド活動をしてくれることを願っている。
PAM
今回の大穴であったインストバンド。
ノーマーク過ぎて事前情報をほとんど無しのままPAMを見ることになったが、一番の衝撃を食らった。
PAMはELLEGARDENのドラマー高橋宏貴さんと、トリコンドルのギター久米優佑さんの2人組インストバンド。
あの有名なELLEGARDENのメンバーをこの近距離で見ることになるとは思ってもみなかった。
そして、その高橋さんと一緒に活動する久米さんとは一体どんな繋がりなのか。謎や疑問は深まるばかりだったが、とりあえずは演奏を観なければ始まらない。ドラムが下手側、ギターが上手側に配置。2人組だからこそ可能になるセッティングは見ているだけで新鮮だった。
ワタシは世代的にも音楽のジャンルとしてもELLEGARDENを通ってこなかったため音源で聴くか、大きなフェスで遠くから見るだけで多くを語ることはできない。
だが、ELLEGARDENとPAMでの高橋さんのドラムは異なるように聴こえた。
やはり、久米さんが奏でるギターのメロディラインに合わせてパワーとテクニカルを使い分けているような気がした。
ELLEGARDENでの演奏はパワーのほうが強いイメージであったため、同じような演奏なのかと想定していたが、そうではなかった。
久米さんとは何者なのか。(Vaundyのような外見だな…)
久米さんは札幌在住のため、高橋さんとはインターネットを通してデータのやりとりをしながら活動しているとのこと。そのため、札幌から浜松まではるばるやってきたのだ。高橋さんは久米さんの飛行機代のためにグッズを買って欲しいと話していた。
MCのときには高橋さんが「ELLEGARDENって知っていますか?」と一言発すると会場がざわつく。いや、知らないわけがなかろう。
ワタシは高橋さんがちゃんと喋っている姿を初めて見たものだったから、こんなにも喋るのかと驚いたのだ。そして、水やセットリストなど必要なものを持ってくるのを忘れてしまう高橋さんのお茶目さも垣間見えた。
ワタシが印象的だったのは「Two Sides Of The Same Coin」である。
コロナ禍において、ドラムの演奏ができなくなってしまった高橋さん。
もうしばらく演奏できないとなれば、ドラムを止めて普通に仕事をしようかと考えたときがあったそうだ。
しかし、そもそもドラムを辞めるとはどういうことなのか。ドラムは単なる仕事ではなくライフワークなんだと考えることとなり、ドラムを叩くということと人生を重ね合わせて考えた際に作られた楽曲。
疾走感があるなかに、複雑な気持ちがエネルギーとなって表現されているのではないだろうか。ギターのメロディはとても繊細でもの悲しさも感じられるが、悲しみから一歩先に踏み出そうとする前進感をドラムのリズムと共に奏でられている。
この楽曲ができた際のエピソードを知ったあとで聴くこの曲は胸を打たれるものがあった。
大小関係なくコロナという大きな波がきたことでアーティストは何かしらの考え方や価値観の変化や気づきがあったのだろうと思う。時には悲しい結末になったものもあるだろうし、コロナをきっかけにどのように変化したのかは十人十色である。そのような機会に生まれた作品たちはこれからもエネルギーを絶やすことなく演奏し続けられることを願っている。
ADAM at
大トリのADAM at。フロアにはグッズTシャツの「定時で帰ろう」Tシャツを着たファンが今か今かと演奏を心待ちにしていた。
音響チェックと共にリハが開始。リハ中にはELLEGARDENの「Space Sonic」を玉田さんが鍵盤を弾きながら歌う様子も見られた。
ADAM atは音源で聴くのみであり、初見であった。
一番意外だったのはインストバンドだけどゴリゴリのハードコアバンドのようであったこと。ワタシのなかではとてもお洒落なバンドでかっこよさを堪能するものだと想像していたからこそ、良い意味で裏切られた。
ツーステップにスカダンスにダイブが起こりそうなくらい会場が湧いていた。玉田さんはフロアにおりてスカダンスを踊り、会場のボルテージは上がる一方であった。
今度、TOTALFATとの2マンライブを行うようであり、そのためにウォールオブデスをやろうと玉田さんが提案するが、そもそも何ぞやというファンが多いためぶつかるタイミングが早すぎて玉田さんからのお叱りがあったのも面白かった。
会場の2階関係者席には出演したバンドのメンバーがADAM atの演奏を観に来ていた。QOOPIEの辻さんがずっと真剣に舞台を見ており、ギターの渡辺さんと加藤さんが舞台袖から真剣に舞台を見ていた。表情からしてどんな感情で見ているのだろうか、おそらく自分もやってやるぞ!という気持ちを持っているのではなかろうかという表情であった。途中で加藤さんはメンバーのギターを渡されて数小節ギターをかき鳴らして行った。(爪痕を残していった、さすが)
アンコールでは、静岡県・沼津出身の16歳シンガーソングライター心愛(ここな)さんを迎えてご本人の楽曲「ばかやろう」とADAM atの数少ない歌詞がある楽曲「定時で帰ろう」を披露。
16歳とは思えないパワフルな歌声でフロアを盛り上げてくれた。
来年、大阪のMusic Club JANUSでワンマンライブをするらしく今後の活躍を応援したい。
最後の「定時で帰ろう」はファンの共通言語のようでフロアの一体感が非常によかった。心の中にこの曲を持って、今後は生活したいと思う。
最後に
今回、インストフェスに初めて参加。
非常に充実した時間を過ごすことができたし、インストの世界をより幅広く見ることができた。
玉田さんは静岡・浜松を盛り上げたいという一心のもとで彼ができることを体現してきたに違いない。それにはたくさんの時間や労力を費やしてきたのだろう。そう思えば、このフェスをここまで続けていることは素晴らしいことであり誰でもできることではないのだ。
そして玉田さんの元に集まるインストバンドが大勢いることから彼の人の良さというものが表されているのだろう。
音楽活動を続けるアーティストに敬愛の意を込めて。
これからの活躍を願っている。