作刀依頼にて短刀を願う
脇差を買い、刀を買い
刀剣趣味に足を踏み入れて、真剣が欲しいと思い、
京都の刀剣店を訪れて脇差を購入しました。
本物の、日本刀です。登録証も鑑定書も付いています。
自分の家に、自分所有の刀がある。すごい。満足だ。
この一振りをずっと大事にしていこう。そう思いました。
あっという間に、二振り目を購入しました。
脇差の次は、刀でした。おかしい。一振りで満足するはずでは?
いや、でも仕方がない。脇差があったら、刀も欲しくなるさ。
大小っていうくらいだし。揃いだよ。セット。これで完成。
……なんとなくご想像付くと思いますが、これで終わる訳がない。
刀、脇差と来たら、短刀が欲しくなります。当然です。
そうなったら、もう日々、頭の中は「短刀ほしい」一色です。
刀剣店のサイトやオークションの類を周回する日々です。
Googleで「保存刀剣 販売 短刀」と入れて、
検索期間を「一週間」指定して検索し、未読のページを見て回る。
あるいは博物館、美術館の収蔵品の数々を見てため息をつく。
そんな日々が続きました。
古刀……はそんなに見ませんが、新刀、新々刀、現代刀と、
短刀は非常に多く出回っています。
それらを眺めて、そもそも自分はどんな短刀がほしいのか、
と自問自答していきました。
理想とは、かくも遠きものなのか
どんな短刀が好き? と聞かれて、即答できるほど、
当時の自分は短刀について詳しくなかったと思います。
具体的に言えない。言語化できない。
つまり、上手く探せない。
そうなると、とりあえず「短刀」で出てきた画像の掲載元を
見に行って、情報収集をする。
あるいは、販売しているページの説明文を読んで、
そこに載っていた単語を検索して、知識を増やす日々です。
「平造り」と「鎬造り」がある。なるほど。え? 「菖蒲造り」?
「両刃造り」? 「片切羽造り」? 「おそらく造り」? え、待って!
「冠落とし造り」って、格好良いな。「鵜の首造り」? え、違うの?
「薙刀直し造り」? 「鋒両刃造り」? 「小烏丸造り」?
まぁ、大変。
で、色々見る中で、「薙刀直し造り」という姿の短刀が一番好き、
と思い至ります。
で、この「薙刀直し造り」というのは、上記色々上げた「◯◯造り」の
複合属性持ちなのですが、AでもいいしBでもいい、みたいな点も多い。
なので、さらに自分好みの「薙刀直し造り」を突き詰める必要があります。
鎬造りか、平造りか
短刀はざっくり言うと「鎬がある」か「鎬がない」かで二分されます。
私は、鎬がある「鎬造り」の方が好き。
そして「薙刀直し造り」は「鎬造り」の場合、鎬造り亜種「菖蒲造り」に
なります。うん、難しい。なので今、ざっくり図示してみました。
上段の、いわゆる「日本刀!」ってのが「鎬造り」です。
右の断面図の真ん中で広がってる所が鎬(しのぎ)。しのぎを削る、の鎬。
下段にあるのが「平造り」で、鎬がありません。スッとしてる。
なので、右の断面図では三角形になっています。スッとしてる。
中段が「菖蒲造り」です。二分するなら「鎬造り」に分類されますが、
通常の「鎬造り」と違って横手筋がありません。切っ先の方の、
クッとした所。左下に向かう線が横手筋です。
どちらかといえば、「鎬造り」がいい。これが最初の選択です。
「鵜の首造り」? 「冠落とし造り」?
結論から言うと、これは今でも謎です。
刃の逆側、峰の側を削ぎ落とす造りを「冠落とし造り」「鵜の首造り」と
表現するのですが、このニ者の分類の、確たる正解が見つかりません。
とりあえず諸説をまとめると下記図の感じ。
A、B、Cの3パターンを図示。
識者によって、刀剣店によって、微妙に使い方が違ったりするので、
何かお探しの際にはしっかり確認することをおすすめします。
私の好みはA=左、B=右、C=左、です。
樋はどうします?
樋(ひ)というものがあります。
画像検索していただけると色々出てくるのですが、
刀身に彫られた溝の事です。この樋は長さ、形状、位置、本数等で
色々と呼称が変わります。図示しようとして諦めました。
「薙刀直し造り」には刀身の根元側から刀身の途中まで入る、
「腰樋」というのが入ります。その先端部分が窪んだ台形のような、
特殊な形状になります。これが「薙刀樋」と呼ばれます。
根元側を丸留めにするか、掻き流しにするか、
添樋を入れるか入れないか、みたいな細かい選択がありますが、
私の好みは「掻き流し」で「添樋なし」です。
多分、一生見つからない
上に挙げた以外にも、刃長(刀身の長さ)とか、重ね(刀身の厚さ)とか、
チェックポイントは山程ある訳です。
刃長は25cm以上。できれば30cmギリギリを希望。
重ねは厚い方がいい。5mm以上。7mmとか8mmあれば嬉しい。
さらに、個人的には無銘より在銘を希望していたので、この時点で世間の
流通量の半分くらいが対象外になります。
その上で、自分の経済力で届くものを探す訳です。
……無いって。そんなの。
例えば自分の、譲れないチェックポイントが10個あったとしましょう。
6つ満たすくらいなら、割となんとか見つかります。
7つ満たす、とかになると、ほとんど見ません。
で、じゃあ奇跡的に8つ満たすものが見つかりました。買いますか?
これは、本当に難しいです。多分、満足すると思う。
「いや、これだけ好みに合ったものはそうそう無いよ」と。
日々手にとって眺め、お手入れする内に愛着も湧くと思います。
ただ――ふとした瞬間に。
「ここが◯◯だったら最高なのになぁ」とか思わない?
「悩んだもう片方は、△△△だったんだよなぁ」とか比べない?
そんな風に思った時に、たった一つの解決方法を選ぶことにしました。
作ってもらおう。
かくて作刀を依頼する
前の記事で、
と、書きました。
「刀職の方や刀剣専門店のサイト」や「刀剣趣味の方々のブログ」の中に、
作刀依頼に関する記載も色々ありました。
それまで、販売されている既存の短刀の中から理想の短刀を探そうと
していましたが、刀匠に作刀をお願いするという選択肢を考えた時、
色々な問題が解決しました。
それと同時に、
・自分の理想の形を詰め込める、という喜び
・自分の為だけに打たれた刀、という特別感
・自分が最初のオーナーである、という感動
みたいなものを想像したら、もうこの選択が最善と思えました。
という訳で、現代刀匠への作刀依頼を心に決めた訳です。
思いを託す先
現代刀匠の方々のサイト、ブログ、twitter も、色々拝見していました。
その中で、深く検討した結果、備前長船の助光刀匠にお願いしようと思い、
コンタクトをとりました。
現在抱えている作刀依頼がたくさんあるので、しばらく先になります、
という事でしたが、「お待ちします。順番待ちの列に加えてください」と
お返事をいたしました。
かくて、素晴らしき日々が始まるのでした。
ヘッダー画像:自作画像・助光刀匠への作刀依頼「仕様書」
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