短刀と短刀鐔を合わせてみる
実はまだ
装剣金工師の片山重恒様の鐔と、助光刀匠の短刀と揃いました。
それぞれとても美しく、品があり、眺めていても惚れ惚れします。
――で。
実はまだ、鐔を短刀の茎(なかご)に通していません。一度も。
なんで、というほど明確な理由がある訳ではないんですが、
なんとなく、せっかくなので「何かの日」にしようかな、と思ってました。
この note でもあれこれ書き連ねているのですが、
この「短刀を作ろう」という一連の流れは、
妻が亡くなって、その心の穴を埋めるような、
妻との思い出を繋ぎ止めるような、そんな取り組みになっています。
――で。
12月21日は、結婚記念日でした。
良い日なので、短刀と鐔を合わせてみようかなと思いました。
ひとまずこんな感じ
短刀を白鞘から出し、柄から抜いてみます。
で、鎺(はばき)を持って逆さまにし、鐔をそっと通してみます。
スッと鎺まで通る、という事はなく、茎の途中で止まりました。
銘を見ていただくと分かる通りです。
真横から見ると、このくらいの位置。
鐔ってそういうもの
鎺や白鞘は、その刀、短刀に合わせて作られますが、
鐔は目貫、縁頭などの同装具は、やや事情が異なります。
時代物の鐔を見ると、その辺は特に顕著なので、
ぜひ刀(の茎)を通す中央の茎穴(なかごあな)をご覧ください。
茎穴の周りが妙に凹んでます。ガタガタと。
これは、茎穴に対して茎が薄い時、鐔の方を叩いてヘリを伸ばし、
茎穴を小さくすることで茎に合わせ、ガタツキを無くす工作です。
こちらは刃側と峰側に色の違う金属が埋め込まれています。
これは責金(せきがね)と呼ばれるもので、これもサイズ調整用です。
なぜこういう事が起きるのかというと、鐔は交換しやすい刀装具だから、
という事になります。
例えば刀を持っている侍が、
「これは素晴らしい鐔だ」と思える出会いがあれば、鐔だけを替える、
という事が容易に起こりえるので、刀職に持ち込んで、
「この刀に、この鐔を合わせてくれ」という工作が行われていました。
では上とは逆に、刀の茎に対して鐔の茎穴が小さい場合はどうするか、
と言えば、対処は単純で、鐔の側にヤスリを掛けて穴を大きくします。
削っては合わせ、削っては合わせ、ちょうどいい所で作業完了。
良い鐔は色々な方の手を渡って、いくつもの刀を飾ってきたので、
茎穴の周りが削られ、伸ばされ、工作の跡が見て取れる訳です。
うちの茜図短刀鐔は……
鐔が茎の途中までしか入らなかった、という事は、
茎穴が小さいという事です。
現状をよく見ると、こんな感じ。
現代の鐔は、制作段階で茎穴に責金を埋め込んでおくことで、
対応できる身幅、重ねを広く取る事があるそうです。
責金を削る事で調整が可能なら、鐔本体を削らすに済むから、
その方がありがたいですよね。持ち主心理として。
不可逆な加工は、最小限にしたいものです。
こうして見ると、責金に引っかかって止まっているので、
責金を削る事で、もっと深くまで入る事は間違いありません。
ただ、責金を削るだけで済むのか、鐔自体も多少削る必要があるのかは、
私では見極められませんでした。
切羽台(せっぱだい)には片山様の彫った銘が入っているので、
できるだけ削らずに行きたいなぁ、というのが正直な所です。
そして、もう一点
ずっと思っていたんですが、今回、鐔を通してみて実感しました。
この鐔に合う切羽を作って貰う必要がある!
市販品や時代物の合わせだと、この鐔には合わない。絶対。
切羽が茜図に掛るのは嫌だし、小柄穴に掛かるのも良くない。
削ればいいのかもしれないけど、多分、どこかに歪みが出る気がする。
この鐔に合わせた切羽を作っていただかないと……
切羽の相場なんて未知の世界ですけど、
拵を作る時には絶対に必要になるので、なんとかしたいと思います。
切羽…… 片山様にお願いするのが最善で最高だと思うんだけど、
小柄もお願いしているしなぁ…… 色々お願いしすぎだよなぁ……
ヘッダー画像:自撮り写真・助光刀匠作短刀 & 片山装剣金工師作 短刀鐔