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【抽象のラビリンス】魂の一筆に触れる
先日、「抽象のラビリンス」という展覧会タイトルに一目惚れし、直感に任せてアール・ブリュットの世界を訪ねてきました。やっぱり、アートとの出会いはピン!と来たら行ってみるのが一番ですね。
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アール・ブリュットとは何か
今回の展示で初めて知ったのが「アール・ブリュット」。フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェが提唱した概念で、美術の専門教育を受けていない人が、自分の思いや手法で生み出した作品を指すそうです。
「誰もがアーティストだ」という言葉を耳にすることがありますが、こうした作品を目の当たりにすると、半分は正しいものの、半分は違う気がしてきます。というのも、彼らの表現には、まさに“一球入魂”ならぬ“一筆入魂”の熱がこもっているから。教科書や理屈からは距離を置いて、自分だけの表現を生み出す姿勢にこそ、アール・ブリュットの真髄があると感じました。
「抽象のラビリンス ー夢みる色と形ー」という迷宮
今回の巡回展のテーマは「抽象」。7名のアーティストの作品が並ぶのですが、一見“掴みどころがない”とされる抽象に、驚くほどの「具体性」が宿っているのが印象的でした。
まるでヴィトゲンシュタインが「語り得ぬものには沈黙しなければならない」と言ったように、理屈や言葉を超えたところで訴えかける力がある。余計な説明がなくても、作品からズシンと伝わってくる迫力は、「頭ではなく心で観る」アートの醍醐味かもしれません。
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まめガイドで楽しむ“人となり”
現地では、7名のアーティストと作品紹介のまめガイドも配布されていました。作品だけでなく、その人となりをイラスト付きで知ることができるのは嬉しいポイント。こうしたツールによって、専門知識のない素人目線でも、自由に想像力を膨らませながら楽しめるのがアール・ブリュットらしい魅力だと思います。
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「掃除用具シリーズ」に衝撃
個人的に最も印象深かったのは、ガタロさんの「掃除用具シリーズ」です。何年も同じ雑巾を描き続けるという姿勢には、モネが睡蓮を20年以上追い求めた執念と重なるものを感じます。
雑巾というありふれた存在であっても、そこには無限の表情や物語があるのだと、改めて驚かされました。人生も同じかもしれません。魅力的な対象が多すぎて、どれもかじりたくなる一方、「何を選ぶかは何を捨てるか」というジレンマが常に付きまとう。あれもこれもと欲張るより、一つのテーマを最後まで突き詰めるからこそ見えてくる世界があるのだと痛感します。
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人生には「余白」が必要である
もうひとつ印象的だったのが、伊藤俊さんの「マンボウ」という作品。紙面いっぱいに描くダイナミックな作品が多い中、「余白」を大胆に残しています。普通なら「空間がもったいない」と思いがちな余白が、海の広がりやマンボウの生息する世界を想像させてくれる。
「傾聴」という言葉があります。対話の際に沈黙が効果的なように、作品でも余白をあえて観る人にぶつけることで、想像が深まるんだなと妙に納得しました。
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「肯定」で出会う暴力と悲壮、そして希望
続いて對馬考哉さんの作品も見逃せません。バスキアを彷彿とさせるような荒々しく大胆なタッチに、暴力、悲壮、そして希望が同居している。特に「肯定」という作品は、文字そのものをアートに昇華させた新しいタイポグラフィーの形のようにも見えました。
「私はこう思う」という内面をそのままキャンバスに刻む行為は、まさに「芸術は爆発だ」と言った岡本太郎のスピリットを思い起こさせる力強さがあります。
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抽象を抽象のまま受け止める大切さ
観賞を終えて、「抽象」という言葉に秘められた意味を見直す機会になりました。「抽象」とはわからないからこそ面白い、だからこそ伝わるものがある、と思わされました。カントが言うように「概念なき直感は盲目であり、直感なき概念は空虚である」かもしれませんが、アール・ブリュットの抽象は、この直感が最大に働く境地。そこにこそ理屈を超えるパワーが宿っているのです。
日常では、ついわかりやすさや説明のしやすさに頼ってしまう。でも、あえて言葉や理屈を抑え、「抽象のまま受け止める」ことで開ける世界もあるのだと、この展示は教えてくれました。
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ラビリンスの出口は、きっと己の中にある
「抽象のラビリンス」という言葉から、迷路のように入り組んだ世界をイメージしがちですが、ラビリンスには必ず出口があると信じたい。
実際、迷い込んだ先でこそ新しい発見があり、そこにしかない風景が広がっています。もし人生に迷いが生じたら、アートに触れ、言葉にしきれない抽象をそのまま味わうのも一つの方法かもしれません。何か大事な気づきが生まれるはずです。
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