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一冊の本#01 山藤章二の顔事典

「山藤章二の顔事典」

山藤章二 著 朝日新聞社 刊
1995年11月1日発行

どうしても紹介したかった本がこれ。

1974年から1995年8月まで、朝日新聞記事に掲載された似顔絵作品をもとに編集構成された山藤章二さんの「顔事典」。

プロゴルファーの青木功さんから、レフ・ワレサ ポーランド元大統領まで、五十音順に配列されており、おまけとして、戦後50年人物史として、マッカーサー元帥からメジャーリーガーの野茂英雄まで掲載されている。

週刊朝日などにも連載されていて、単に似ているとか、絵が上手いだけでなく、毎週毎週、その人物に纏わる出来事を時に鋭く、時に笑いに変えて、しかも分かりやすく、ユーモラスに描き出す。毎回、山藤さんの視点にワクワクしたものです。

その集大成が文庫になったとき、私は幸運にも、その広告を担当することになったのです。その仕事内容はすっかり忘れてしまった💦のですが、その時手にしたこの文庫だけは、長年にわたって我が家の本棚の一角を占め、存在感を放っていました。

1974年(昭和49年)、朝日新聞から似顔絵を担当してくれといわれた。…中略…清水崑さんはいうまでもなく毛筆づかいの名人で…中略…ついでにいうとその前が岡本一平氏である。…中略…このふたりを見ただけで私は断じる。絵は昔の人ほどうまかった、と。

一平、崑の名人たちと同じことをやっても勝ち目はない。そこで考えた。紙は和紙ではなく洋紙のザラ目。スミは和墨でなくポスターカラー。筆は太筆でなく極細の面相筆。と画材をまず対照的にした。
—-中略—-
二十二年間で千三百人描いた。面白い絵もつまらない絵もある。楷書だからそう面白いわけではないのだが、逆に楷書ゆえのジンワリした面白さもある。
—-中略—-
時が経てばこの本を見て、「へェ昔の人はうまかったんだ」と思ってくれる人が出てくるかもしれない。

「山藤章二の顔事典」前書きより

山藤さんご本人にも、仕事の関係の出版パーティなどで何度かお会いしたこともあり、その物腰の柔らかさや言葉遣いの丁寧さ、その紳士的な振る舞いが、あのような鋭い挿絵を描く人と思えないほどギャップを感じたことを覚えています。

短時間に、どれだけ人に自分の考えていることを伝えるか、ということが、多くの人にとって大命題なのですが、山藤さんはそれを秒殺で伝えてしまう達人であります。文章をじっくりと読みながら、そしていろいろな角度から検証して、少しずつ理解を深めていくことももちろん大切ですが、それは人ぞれぞれの方法でいいわけですし、それが自分だけの武器ならば、なおさら良いに決まってます。

今となっては、ページも日に焼けて茶褐色にそまり、めくるたびに破れてしまわないか心配になりますが、大切に私の手元に置いてあります。政治家や文化人、スポーツで活躍した人など、その時代の動きが手に取るように分かる貴重な資料ですから、ぜひ教科書にも採用してほしいと願っていますし、若い方にもぜひ、イラストによるジャーナリズムという新鮮な出会いをしてほしいですね。

山藤章二(やまふじ・しょうじ)
1937年東京に生まれる。1960年武蔵野美術学校デザイン科卒。広告制作会社勤務の後、1964年フリーのイラストレーターとして独立。1970年第1回講談社出版文化賞(さしえ部門受賞、1971年第17回文藝春秋漫画賞受賞、1983年第31回菊池寛賞受賞。

▶︎あとがき
先日、山藤章二さんがお亡くなりになったニュースが飛び込んできました。ご老衰であり、天寿を全うされたとのこと。山藤さんに描かれて、先にお亡くなりになった方々が、生前の感謝の気持ちを込めて、山藤さんに安らかなひと時をお与えくださったなら、こんなに嬉しいことはないと、ひとり呟くのでありました。

#一冊の本

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