ガンジー横須賀の又聞き怪談

この話は、僕が実家に帰省した際母から聞いた話です。
母が息子を捕まえてわざわざ嘘の話を言うはずもないので信憑性が高い話です。
この話を聞いた時、驚愕と喪失が止まらない感覚を今でも覚えています。

それは祖母の話でした。

祖母は介護老人ホームに預けられているのですが、僕が久しぶりに帰省したので祖母に会いに行こうと言うと、母は頑なに止めたのです。
何故なのかと問うてもわざわざ行くことはない!
と言うのです
そこまで止められると行きたくなるのが人間の性分というもの
僕は母を半ば強引に連れ祖母がいる老人ホームへと足を運びました
受付の人に祖母は多目的広場にいると聞きそこに向かいました
広場に着くと結構たくさんの老人達がテレビを観ながら談笑したりしていました。
そこにうちの祖母はいるのだろうと思っていたのですがそこにはいなかったのです。
集団の輪から外れて1人ポツンと車椅子に座り窓の外を見ながらブツブツと独り言を発してしました。

その光景に違和感を感じましたが、僕を見ると
「まぁちゃん(本名まさよしなので)来たのげ!?」

と何年も変わらない笑顔を僕に向けた
ほらやっぱり来て良かったじゃないか!と僕は思いました
ボケているせいか昔の話しかしなかったけど、僕は祖母の話に頷き祖母も満足気であったと思う
話している途中大勢の老人がこちらをみているような感覚がしたがあまり気を止めなかった
ひとしきり話終えて僕と母は祖母に挨拶し老人ホームを後にした

帰り道、車を走らせながら母が急に重苦しい雰囲気を纏った
その空気感を出すときは昔から嫌なこと言う母の合図だった

「正佳・・・」

トーンが暗い、やはり嫌な話だ、ただこういう時の母は面白い

「ん?」
「なんでばぁちゃん1人だったと思う?」
「1人になりたかったんじゃないの?」
「違う、1人にさせられてるの!」
「どういうこと?」
「ばぁちゃんみんなに暴言吐いたり、悪口言ったりして、根も歯もない自慢話とかしてみんなに嫌われて1人にさせられてるの」

嘘だろ!!!
と僕は言い返した
僕には信じがたい話だった
何故なら僕には祖母は今でも優しい祖母のままだからだ
子供の時にはお小遣い頂戴といえばくれて
お腹がすいたといえば何か作ってくれた
1番覚えているのは中学の夏休みサッカー部だった僕は練習が終わるとキンキンに冷えた麦茶をグランドの隣に隣接された給食センターまで走りながらもらいに行く、何を隠そう給食センターの職員だった祖母が作ってくれた麦茶だ。
疲れ果てた僕たちを祖母は、笑顔で出迎えてくれた。
あの麦茶は今でも忘れられない記憶だ。
いつも笑顔で癒してくれる聖母マリアのような存在それが僕が見る祖母の等身大の姿だった。

祖母は祖父の後妻だった。
実妻は父が小学校6年生の時病気で他界してしまったそうだ。
産みの親より育ての親とは言ったもので
僕も何の疑いもなく本当の祖母そのままの存在であった。
そんな祖母を母よりも当時僕は頼っていた記憶がある
そんな祖母が他人に暴言など吐くはずないと思ったのだ。
しかしそんなことは意に介さず訥々と母は話を続ける

「実はじいちゃん何度もばぁちゃんに殺されそうになってるんだよ」

にわかに信じられない言葉Part 2だ
僕は返す言葉に詰まってしまった

「ほらじいちゃん何度も転んだとか言って顔にキズつけてきたり、骨なんかも折った時あったでしょう?!」

確かに言われてみれば昔からそんな時がちょくちょくあった、それがあるたびに歳を取ると大変だなぁぐらいにしか思わなかった。
しかしそれとこれと何の関係があるのだろう?

「あれ、ばぁちゃんがじいちゃん殺そうと押してたんだよ!」

にわかに信じられない言葉Part 3だ

祖母がそんなことするはずがない!
何かの間違い勘違い思い過ごしなのではないかと思った。
当時うちの祖父は祖母に相当あたりがキツかった。
理不尽なくらいあたりがキツかった。
ただの祖父の癇癪だと思っていたので、みんな祖母の味方だった

父も「なんでばぁちゃんをいじめるんだ!」
と言っていた
僕もそう思っていた
傷を作って帰ってきた時も祖父は

「こいつに押された!!」と言っていた

なに根も歯もない嘘を言ってるんだ!
自分で転んだくせに他人のせいにするなんて最低だとも思っていた。
みんな祖母を擁護した。
しかし事実は違っていた。

ボケが進行すると思っていることを隠さず言ってしまうということを聞いたことがある。
ある日母が祖母の様子を見に老人ホームに伺った時相変わらず集団の輪から外れ一人窓の外を見ながら念仏のようにぶつぶつと独り言を言ってるのを聞いた時

「あのジジイわたしがずっと押してたのに死にぞこないやがって」

と言ってたらしい
心の奥底に隠してあった真実が顔を出していたのだろうか?
そうであるのなら、なんて恐ろしい言葉を、隠してだんだろう?

あの時本当の事を言ってたのは祖父で祖母ではなかったのだ

その話を聞いた時様々な祖母の綺麗な記憶がボロボロと剥がれ落ちドス黒くなっていく感覚を覚えた。

2011年東日本大震災が起こった一週間後祖父は持病の悪化と老衰の為入院を余儀なくされた。
もうダメかもしれないと病院の先生から呼び出しがあり皆で駆けつけた
病床で最後に祖父が父を呼び言葉を投げかけていた。

「幸正(父の名)、ばぁちゃんを頼んだぞ」


病室の外にいた僕たちは何を言っているのか聞き取りづらかったのだが祖父の口の動きと微かな声で祖父がそう言ったような気がした
父がうなづいている
祖父が最後に息子に伝えた言伝だった。

程なくして祖父が他界してから祖母は益々ボケていき何もしなくなりただ一日中寝るだけの生活となり同時にあれほど祖父の悪口を、言っていたと思ったら祖父との良い思い出話しか口にしなくなった。
もう何が本当で嘘かわからない
まだ母の話は止まらなかった

「じいちゃんが、最後にお父さんになんて言ってたか分かる?」
僕は祖父の口の動きとトーンを思い出し
「ばぁちゃんを頼むぞだろ?」
と僕は言う

「違うよ・・・ばぁちゃんには気を付けろ・・・だよ」

祖父が最後に父に残した言伝は祖母を守る言葉ではなく祖母への注意を促すものだった・・・
祖父が他界して9年祖母はまだ介護老人ホームで生きている
そんなことがあってから祖母の面会には誰も滅多に行かなくなった
祖母は現在何を思い1人何を口ずさんでいるのだろう・・・

最後にハンドルを握りながら母はこうも言った

「ばぁちゃんボケてると思ってるけど、あの人ボケてなんかいないよ、都合の良い時だけボケたフリしているだけ」

僕はゾッとした
今までのこと全部芝居だったとしたら
祖母はただの生ける化け物に他ならない
後妻として迎えられた祖母は明るいフリして大きな葛藤を人一倍抱えて生きてきたのか?
何かの後ろめたさがあったのか?
憶測を建ててみても何故、祖母がそうなったのかは今から真実を掘り当てるのは難しいかもしれない
人間の底知れぬ恐ろしさを感じた
母が話を終えると実家が、目の前だった
話の尺100点だった

次帰省したら老人ホームに立ち寄ろうと思う

☆校閲☆1

☆校閲☆2

☆校閲☆3




☆校閲☆4

☆校閲☆4

結構間違っとるやないけー!