春は耳月
祖母が亡くなった。
祖母はアルツハイマーで、千葉の特別養護老人ホームに入所していた。
叔母が面倒を見ていて、週に何度も来訪していたらしい。
母と叔母の仲が悪く、私は連絡出来ないでいた。
しかし関東の方とお付き合いすることになり、そのついでだと思い、気持ちに加速を付けて来訪することにした。
当時の彼女にしたら、訳の分からないイベントだったであろう。
一人で叔母に連絡し、叔父と三人で会食し、近況を話し合った。
叔母の車で老人ホームまで行った。
祖母は私のことは何一つ覚えていなかった。
獣のように咆哮するだけで、私は涙を流しながら手を握った。
写真を撮ったが、どれも上手く撮れていなかった。
それが三年前だ。
また会いに来ようと考えていたが、叔母とはそれから連絡が取れなくなった。
祖母には大変世話になった。
兄と仲が悪く、大学の休暇の時は帰省しても兄の暴力で実家に居られず、祖母の家と実家を行き来していた。
祖母は涙ながらに自分の抱えている問題を私に相談し、それについて私は話を聞くことしか出来なかった。
「アルツハイマーかも知れん。すぐ忘れもんするとよ」
と言う祖母に、気のせいだとかなんだか宥めた。
実際祖母はアルツハイマーで、私が適当に返した言葉で、その後の祖母の人生を変えてしまった。
祖母がアルツハイマーになって欲しくなかった、というエゴと無知識が病気を進行させた。
祖母は98歳で老衰で亡くなった。
安らかな顔をしていた、と叔母は母に伝えたらしいが、私は自分の無力さを感じるだけだ。
葬式にも行けない。
過去が頭を追い立てるが、それに対応出来ない自分も、アルツハイマーなのかも知れない。
人の死はやり切れない後悔のトリガーだ。
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