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再発防止策は行政によって矮小化される

実効制ある再発防止策の実施は

亡くなった児童生徒の尊厳に関わる問題

 そもそも、第三者委員会は学校事故・事件が起きたことをきっかけとして設置されます。死亡事案、存命事案に関わらず忘れてならないのは、そこには何らかの被害を受けた児童生徒とその家族がいることです。第三者委員会は、事故・事件の原因や背景要因を明らかにしながら、同時に被害をうけた児童生徒の権利・尊厳を回復し、我が子に何が起きたのかを知りたいという家族・遺族の要望に応え、再び同じような事故・事件が繰り返されないよう、その事案特有の背景要因を踏まえた再発防止策等の提言を行う必要があります。

 こう考えれば、再発防止策の提言は、被害児童生徒のために、そしてその家族・遺族のために立てられるべきものであり、提言を受けた自治体、教育委員会、学校はこの提言に真摯に向き合い、それぞれの立場で提言に沿って自分たちに何ができるのか、すべきなのかを自らに問わなければなりません。そして、制度を変え、行動を変化させなければならないはずです。実効性ある再発防止策を策定しないことは、命を失ったり、学校に行けなくなったり、自分は生きる価値がないのだと思うほどに被害を受けた子どもたちを、「もう一度傷つける」許しがたい行為なのです。

 しかし、残念ながら遺族は失望しなければなりません。なぜなら実効性とは程遠い、形ばかりの再発防止策がとられるからです。


福井県池田町の「教育大綱」から消えた

亡くなった男子中学生に関する記述

 再発防止策がいかにないがしろにされるか、そしてそれが亡くなった児童生徒のみならず、遺族をいかに冒涜するものであるかについて実例をもとに触れます。

 2017年3月、福井県池田町立池田中学校2年生の男子生徒(当時14)が命を絶ちました。その背景には、担任らからの執拗な叱責がありました。生徒の遺族は、県と町に損害賠償を求める訴訟をおこし、22年3月には福井地裁で和解が成立しました。和解案では、担任や学校の責任を認めた上で町が遺族に損害賠償を支払うことに加え、県と町が再発防止に努めると確約することなどが盛り込まれました。

 これを受けて町は、教育行政の方向性を示す「教育大綱」を改定する方針を示しましたが、生徒の遺族は改定案について「反省が踏まえられておらず、納得できない」とする意見書を町の教育委員会に提出しています。

 2019年2月にまとめられた「池田町教育大綱」の「はじめに」には、以下の記述があります。

このような状況の中で、本町では平成29年3月に、中学生の自殺という悲しい出来事が発生し、小規模な地域にある学校においてこのような出来事が発生したことに大きな衝撃を受けました。同時に、このようなことを繰り返さないために、教育の在り方を考え、必要な取組を進めていくことが急務となっています。

池田町教育大綱

 しかし、「出来事」に関する記述は、わずかにこれだけです。A4判10ページの「池田町教育大綱」には、教員の理不尽指導の抑止についても、こどもの自殺対策についての記述もありません。アクティブラーニングやインクルーシブ教育など、「きれいな」教育目標だけです。

 さらに、2024年に再び改訂された「池田町教育大綱」(第3次)の「はじめに」からは、男子生徒に関する記述は削除されました。なかったことにされたのです。

 改訂の中心となったのは町教委の教育企画官。男子生徒が亡くなった当時、同中学校の教頭を務めていた人物でした。調査報告書の再発防止策の提言では、「校長、教頭は、教職員から報告がなくとも、自ら、教職員の生徒指導等に問題がないか状況把握に努め、問題が感じられたときは、当該教員、他教員、生徒、保護者等、必要な範囲で事情を調査し、速やかに状況を把握し、迅速に対応すべきである」と改善を求められた当事者です。さらに、県教委からも「事実関係を適切に把握せず、学校として具体的な対応ができなかった」として減給10分の1(3か月)の懲戒処分を受けています。元教頭は読売新聞の取材に対して「男子生徒のことは忘れられない。風化させないという気持ちで、この立場にいる」と答えていましたが、大綱の内容を見れば男子生徒が亡くなったことへの反省も再発防止の意思も感じ取ることはできません。

 ここにおいてもまた、遺族への、そして亡くなった生徒への新たな加害行為が重ねられているのです。

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 学校事故・事件の被害遺族は、さまざま積み重ねられた「対策」をもってしても、被害からの回復には程遠い状態にあり、事故・事件の被害に加え、調査・検証の過程においても二次被害から逃れられない状況にあります。多くの事案では、学校や教育委員会は調査対象となる存在であることから、公平中立を求められる調査には関わってはならないはずで、そうした意味で現在の調査制度では独立性に大きな課題が残ります。

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