恐山編~2023年、青森への旅~
2023年の7月、友人のワク君と青森旅行をしてきた。
目的は、「恐山」と「キリストの墓」だ。
前者は日本最高峰の霊山として有名で、後者は日本最高峰のトンデモ観光地として一部では有名な場所だ。
日頃、「変わったところへ行くのが好きそう」と、言われていて、そういわれたら「そうなんですよ」と、認めるような人間として、どっちも行ったことがないというのは逆に恥ずかしい気持ちがしていたのだ。
なので今回双方に行けて良かったし、そのことを備忘録として書いておこうと思う。
★青森旅行・他記事へのリンク
■一路、恐山
東京駅から新幹線で3時間弱。
青森は八戸駅へ着いた後、そのまま電車でむつ市の下北駅まで向かい、そこからさらにバス。
合計6時間ほどで恐山に到着。
正直この時点でかなり疲れた。
やはり電車やバスの本数が都会と比べて少ないので、常に慌てて動いている感覚で、恐山行きのバスの中では、2人ともほぼ気絶しかけていたほどだ。
山道を行くバスということで、都心ではありえないような急角度のカーブを曲がったり、そのたびに車体が揺らいだりと、決してウトウトできるような環境ではないにも関わらず。
ただバスが恐山に近づくと車内に案内放送が流れて、
「この恐山の…湧き水を飲むと…老婆でも若返ると言われています…」
ジジッ、ジジッと、古びたテープ特有のノイズ交じりで、中年女性の声が語りかけてくるのだが、正直これが恐山参りの中で一番恐ろしかった。
世にも奇妙な物語の1エピソードで、バスが異界に向かう時の音声ガイドみたいで、眠気覚ましにはちょうど良かったかもしれない。
しかし、青森自体が初めてなのにすぐさま恐山に行ったせいで、下山するまで「青森=恐山」のイメージだったな。
■恐山ラーメン
バスから降りた直後、最初に思ったのは「くさっ!」だった。
あまりにも罰当たりな感想だが、許してほしい。
あたり一面、濃厚な硫黄の匂いがたち込めていたのだ。
硫黄泉で有名なことは知ってはいたが、ここまで匂いが強いとは思わず、閉口した。
またこの日は晴天ということもあり、首都圏ほどではないがかなりの夏日で、「暑い時に臭い」って結構キツいよね。空気が襲ってくるというか。
もともと硫黄の匂いが得意ではなく、少し吐き気がしたほどだった。
時刻はちょうど昼時、
「この匂いの中でメシ食うのキツいなあ~」
とは思いつつも、ここから数時間は滞在する予定なのだ。
腹ごしらえをするべく、恐山唯一の食堂に向かう。
そう、恐山には食堂があるのだ。
食堂巡り好きとしては、もうこれこそ恐山に来た真の目的と言っていい。
ここ、Googleの口コミでは何人かが「働いてるおばあちゃん達の接客態度が悪い」と、文句を書いていたが、全然そんなことはなかったし、大体こんなところまで来て接客態度を求める方がどうかしてる。「ここで食堂をやってくれてありがとうございます」と、感謝するぐらいの気持ちでいるべき。
あまつさえ、★2のレビューには「ざるそばにそば湯がついてこなかった」とか書いてあったが、ここまで来て、そば湯欲しがるかね!?
食堂のメニューは大別して、そばとラーメンとカレー。
ワク君が山菜そばを頼んだので、自分はラーメンとカレーを頼んだ。
「そんなに食うの?」
ワク君からは引かれたが、恐山ラーメンと恐山カレー。
この機を逃したら多分もう一生食べるチャンスがないので、食べる以外の選択肢がなかった。
だって、あなたの周囲にいますか?
ラーメンマニアでもカレーマニアでも。
恐山のラーメンとカレーの味を知ってる人。
そんな人、なりたいに決まってる。
カレーはまあ普通だったが、ラーメンは魚介出汁がしっかり効いていて、意外にも結構うまかった。
味に特色がある分、ますます「恐山のラーメンを食べたことの価値」が上がった気がして、めちゃくちゃうれしかった。
もうこれだけでこの旅は成功だなと思った。
喜びついでに器を下げに来たおばあちゃんへ、「ラーメンおいしかったです!」と、叫んでみたところ、「あっ、ありがとうございます!」と、ニコニコ。
まったく態度悪くないじゃん。
絶対、何かやらかしただろ★1の奴ら。
■いざ境内へ
入山料300円を払って、境内へ。
平日とはいえ大祭期間だったからか、ぱらぱらと人の姿が。
山全体で数十人ほどはいただろうか。
本当は自分らが行った金曜=平日ではなく、土日の方がお坊さんの行列を見れたりするそうだが、それはそれでいつもの恐山と雰囲気が違いそうなので、これぐらいが丁度いいなと思った。
境内に入ろうとすると家族連れのうち、還暦ぐらいの女性が、
「ここに来た人たちみんな…会いたい人がいるんだろうね…」
と、言いながら自分で感極まったらしく、
「会いたいもんねぇ!」
と、泣き出していた。おそらくその方自身、あの世に会いたい人がいるのだろう。
さすがにちょっと感じ入るものがあったが、
「でもオレ、ラーメンが一番の目的だったからなあ」
という罪悪感もあった。
ちなみにワク君はさっさと歩きだしていた。
多分、話も聞いてなかったと思う。
■恐山探索
境内からお堂へ。
お堂の横から岩地へ行くと、多分みなさんがイメージされるそのままの恐山の姿が。
賽の河原。
ところどころで硫黄のガスがブクッ!と噴き上がり、岩の隙間から白い煙がたちのぼっている。
「う~ん、恐山に来たなあ!」感たっぷり。
そして賽の河原(地獄谷)を抜けると、その先には真っ白い砂浜の極楽浜が。
月並みな言葉だが、本当に異世界のようだった。
寝てる間にこっそりここに連れてこられたら、起きた瞬間、本当にあの世へ来たと思う。
■遺品
基本的にボクもワク君もそこかしこで写真をバシャバシャ撮っていたが、禁止+禁止はされていないもののさすがに遠慮したという場所もある。
それが本堂や八角円堂といったお堂で、そこには故人の服や靴などがしっかり名前を書かれた状態で納められていた。
故人が愛用していた品を、あの世でも使えるようにと、供えられているのだろう。
かなり使い込まれた杖なども納められていて、たぶん親族の方が、
「おじいちゃん、杖がないとあの世でも歩けないんじゃないか…」
って心配でたまらず、ここに来たのだろう。
また白無垢や写真なども添えてあり、恐らくこちらは若くして亡くなった方に向けて、あの世で結婚できるようにする「冥婚」だろう。
せめてもの、そう、ここはせめてもの場所なんだと思う。
先ほど泣いていた女性が家族を連れて、お堂に入ってくるのが見えた。
「お父さん、来たよ…!」
「お母さん、ちゃんと鐘を鳴らして教えてあげないとお父さんわからないよ…」
はたで聞いていて思わず胸が詰まった。
自分は、いわゆる霊感といったものを感じたことはないし、霊的なものも一切信じていない、いわば無神論者だ。
けれど生きている人間には慰めが必要で、そのために役立っているのなら、神仏の類にも確かに価値はあるなと、改めて思わされた。
■恐山の温泉
硫黄の匂いがすることからもわかるように、恐山には温泉がある。
それも4か所。
そのうち男性用と混浴用の2か所に入ってきた。
混浴と言っても、ボクらが行った時間には誰も入っていなかった。むしろ面倒くさくなくて良いなと思い、人が来る前にそそくさと入った。
そんな、だって、望んでるような未来が得られるわけないし。
ちなみに混浴用はさすがに境内から少し離れた穴場的な場所に置かれていたが、男性用は境内のほぼど真ん中。
温泉小屋には大きな窓がいくつもついていて、大開きにしようものなら、ボクたち全裸のおっさんは境内のみなさまにご挨拶状態。
「女風呂はもっと奥にあるのに! 男の裸なら見られてもいいという逆差別! 反ポリコレ温泉!」
と、SNS思想民っぽく主張してみたが、ワク君は、
「俺はそういう最近のTwitterが嫌いなんだよ」
と、心底イヤそうな顔をしていた。もうTwitterじゃなくてXだけどね^^
■下山からいったん解散
本当は一度、イタコさん体験してみたいなと思って、イタコさんがいる大祭時期に来たのだが、イタコさんのいる小屋をのぞくと、40人近い人数が廊下にずらっと並んでいた。
家族で来ている人が大半だろうから実際は10組ぐらいだと思うが、1組ごとに多分10分ぐらいかかるだろう。
わざわざ呼んできて、
「お父さんだよ! じゃあねバイバイ!」
だけで、済むはずがない。
つまり10分×10組で考えると、100分待ち。
ディズニーでも待たないねその時間は。
それに並んでいる人たちは、本当にイタコさんに呼んでほしい人がいる方たちなわけで、言ってしまえば興味本位のボクがそれに混ざるのは何か違う気がしたのもある。
なので、早々にバスに乗って、下山することにした。
「じゃあまた、明日」
ワク君は別の温泉街に宿をとったので、下山の際にいったんお別れ。
お互い泊まりたい宿の方針があまりにも違ったので、「メイン観光地に行く時以外はお互い別の宿に泊まる」という取り決めをしていたのだった。
やってみて思ったが、これはかなり良かった。
昼間、誰かと感想が言いたくなるような観光地には同行して、1人でブラブラしたり好きにメシを食いたい夜は別行動。
特にボクのような「他人と一緒にいる時間の長さに限界がある」タイプにとっては、この方式はすごく助かった。
彼氏彼女とかで旅行の際はダメだと思うけど、特に同性の友人同士の旅行なら、無理に行動を合わせるよりもこっちの方が良いと思う。
というわけで、フリーとなったボクは、むつ市探索へと向かうのだった。
~つづく~