みそしる映画感想「PERFECT DAYS」~きれいなザ・ノンフィクション~

かつて麻生太郎が総理だった時代、
野党議員からカップラーメンの値段を知っているか聞かれた際、

「400円ぐらい」

と、答えて「庶民感覚がない」という叩かれ方をしたことがある。

それはまあ国会でやるにしては正直くだらない質疑応答だったと思うが、
この映画「PERFECT DAYS」を見ていて、一瞬その光景を思い出した。

このPERFECT DAYS。
日本人の感覚で、一言で例えるなら「きれいなザ・ノンフィクション」だろう。

公共トイレの清掃員をしている老齢に近い独身男性・平山。
浅草近くの木造風呂なしアパートで毎朝、近所の掃除の音で目覚め、
身支度をして家を出て、缶コーヒーを飲みながら車で仕事に向かう。

やけに芸術性の高い渋谷区のトイレを掃除して、
昼には公園でコンビニ飯を食い、仕事終わりには銭湯で一日の垢を落とす。
浅草駅構内の居酒屋で一杯やり、布団の中で古本を読みつつ眠りに落ちる。

これで背後に「生きてる~生きている~」と、サンサーラが流れれば日曜のザ・ノンフィクションと見間違えるかもしれない。

けれどザ・ノンフィクションほどの悲壮感はまるでない。

決まった家もあり、定職もあり、
近所の居酒屋や小料理屋といった「金銭の必要なコミュニティ」で暖かく迎えられ、
カメラや読書といった趣味にささやかながら投じるお金もある。

ザ・ノンフィクションで散々、無職やらネカフェ難民を見てきた身にとっては、
充分に「良い生活」に見えてしまう。

映像で見えている分だけでざっと計算しても、
月に17~20万円は必要そうに思える。
浅草近辺で2DKだと木造風呂なしでも5~6万はするだろうし、
毎日行ってる居酒屋も1千円は超すだろうし、
休日に行く小料理屋も1回で3千円~5千円ぐらいは払うだろうし。
銭湯だって毎日だと520*30日で1万5千円オーバーだ。

風呂なしアパートでも24時間ジム契約すれば数千円でシャワーが使えるよ! 都内でも風呂なしなら家賃安いからこの方法で節約!

そんなのが若者向けライフハックとしてSNSでバズる時代に、なんと優雅なことか。

同じ独身男性として、

果たして平山ぐらいの年齢になった時、同じぐらいの生活が出来るだろうか…

と、映画を見ながら悩んでしまうほどだった。

そういった悩みを考えるほどに、
「本当にPERFECT DAYSじゃん」という感じ方になってしまうし、
恐らくそれはドイツ人監督ヴィム・ヴェンダースの狙いとは違っているだろう。

第一トイレがきれいすぎる。

元々は「渋谷トイレプロジェクト」が発端で、
日本のトイレ文化を世界に誇ろうみたいな流れから撮られた作品だそうで、
渋谷ばかり出てくるのも仕方ないのだろうが、
あんな日本のごく一部のおしゃれトイレばかり出して、
「トイレ清掃員の悲しみ」みたいなのを描かれてもきれいすぎる。

もっと蒲田とか川崎駅前の、小便器の穴という穴にタバコの吸い殻が突っ込まれて、
そのせいで汚水があふれて床までびしょびしょになっている

そんなトイレが出てこないとリアリティを感じない。

リアリティが無いと言えば中盤、ガールズバーの子と同僚のエピソード。

「今日があの子を落とすチャンスなので店に行く金、1万2千円を貸してほしい」

同僚から執拗にねだられて平山がしぶしぶ金を貸すシーン。

1万2千円でどうするんだ?

都内のガールズバー1時間いて大体3~5千円とかだろう。
女の子のドリンク代とか考えたら、1万ちょっとじゃせいぜい2時間ぐらいしかいられない。

店で2時間いて口説いたところで、
「そろそろ時間です、またね」で終わりじゃないか?

恋に落ちたから勤務時間中ですが早退してデートに行きます

そんなわけないし、「そんなこともわからない愚かな若者」を描いたにしては中途半端すぎる。
もっと「店通さないで遊ぼうよ」とかもっとバカなこと言うだろ。

そうした違和感が積み重なって、だんだん作中の日本が仮想の世界に見えてきた。
仮想の世界の悩みは、「悪しきドラゴンに姫が狙われてる」悩みと大差がない。
現実に生きる人間が真剣に受け止めるべき類のものではないだろう。

きっと監督も主演も脚本もこの数十年、
風呂なしアパートに住んだこともなければ、
金も無いのにガールズバーに入り浸ってやきもきしたこともないだろうし、
きっと監督たちが思っていたより日本が貧しくなったのだろう。

それで麻生太郎の「カップラーメン400円」が思い出されたし、「きれいなザ・ノンフィクション」という印象に落ち着いた。

きれいなザ・ノンフィクションとして見る分には面白いので、けしてこの映画をくさしたいわけではない。

ただ平山が見る夢のような、モノクロのもやもやした風景の、もやもやした部分だけが自分の中に入り込んでしまったようで、少し気持ち悪い。

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