第五の小話「天国の母」

むかしむかし、あるところに、一人の悩める少女がおりました。
今宵は、そんな少女が見る不思議な夢のお話。

私には、つらい時いつも見る夢がある。

白を基調とした明るい庭園で、そこには色とりどりのバラが咲いている。

庭園の中を進んでいくと白いあずまやがあって、そこには白いドレスを着た金髪の女性がいつも紅茶を用意して待っている。

「あら、いらっしゃい。お久しぶりね。」

「…」

「…また何かあったの?」

女性はいつも私の全てを包み込んでくれるような優しい声色で暖かく出迎えてくれる。
そして決まって私の背中をゆったりとさすったり、優しく手を重ねながら問いかけてくれるのだ。

私はそれがとても心地好くて、彼女に問いかけられる度、張り詰めていた糸が切れるように泣き出してしまう。
不安なこと、悲しかったこと、悔しかったことを全て話す。
彼女はいつも夕陽が沈むまでただ静かに頷きながら黙って聞いてくれる。

全て話し終わって落ち着くと、彼女が入れてくれた紅茶を飲みながら談笑する。
そして、陽が沈みきる直前、突然体がふわふわと宙に浮くような感覚がし、靄に包まれて自室の部屋へ戻っていく。

これが、この夢を見る時のいつもの流れ。

そろそろふわふわしてきた。時間のようだ。

「ごめん、時間みたい。もう行くね。」

「そう…」

「今日も話を聞いてくれて本当にありがとう。久々に会えて、嬉しかった。」

「うん。」

「じゃあ、またね。」

「うん。またおいで。…ちゃん。」


靄が晴れ、眠りから覚めたように起き上がると、いつもの殺風景な自室に戻ってきていた。
目覚まし時計の時刻は午前6:00。
1日がまた始まる。

仕事に行く支度をして玄関へ行く途中、ふとリビングに飾ってある写真が目に入った。

「…行ってくるね。お母さん。」

写真の中のお母さんは、庭に咲くバラに囲まれてにっこり微笑んでいる。
いってらっしゃいと返事が返ってきそうなくらい生き生きとしている母の姿を見て、今日もなんだか頑張れる気がした。