【しらなみのかげ】 現代韓国社会の栄光と悲惨を見詰めて #6
年末年始、こうして実家に帰って来ている間は、時間を取って大きなテレビでNetflixを観られる貴重な機会となる。
二年前に大流行した韓流ドラマ「梨泰院クラス」を昨日の夜中から観初めて、今日は昼夜、熱心に観ている。こうして更新が日付を跨いで遅くなっている理由も、このドラマである。思えば去年の今頃は、同じく韓流ドラマで大流行した「愛の不時着」にハマり切っていた。何方も余りに素晴らしい総合的エンターテインメント作品であり、大流行したことにも頷けるものがある。何れも、一話当たり一時間を超えるボリュームの中に、ラブロマンスは勿論のこと、家族劇、友情劇、経済戦争、社会問題等、詰め込める要素を詰めるだけ詰め込んだ物凄い濃度を誇る作品である。一見関係しそうもない登場人物同士が次々と接続するといったドラマ特有の御都合主義的な演出は当然あるが、出来事の相関の張り方や人間関係の詳細な描き込み方はそれを補って余りあるものがある。近頃の韓国のコンテンツ制作力には、相変わらず目を見張るばかりである。近年の本邦のトレンドが殆ど韓国由来のものであるのは疑い無い事実であるが、納得せざるを得ない面は確実にある。
今観ている「梨泰院クラス」は先程までに13話まで追い掛けて、いよいよクライマックスに入らんとしている。このドラマについては、観終わった後にいつか御話したいと考えている。何れにせよ、「愛の不時着」と共に、「梨泰院クラス」が観るべき価値ある作品であることは断言出来る。読者諸賢には一見を御勧めしたい。
何れにせよ、こうして二年連続で遅れ馳せながら韓流ドラマを観ていて感じるのは、韓国社会の困難さである。凡そ30年という短期間で先進国並みの経済発展を遂げ、恐らく世界で最も早く国中にインターネットを普及させ、今や世界の文化産業の中心を占めつつあるこの国は、その超高速の歩みによる弊害なのか、特有の問題を抱えているようである。政治家や政府高官、そして何より一族経営の財閥が専横を極めるコネ社会であると同時に、凄絶な受験戦争が繰り広げられ、就職出来なければチキン店を開業する以外道が無い超学歴社会でもあるという、異常な競争社会。その下で進む、格差の拡大と超少子化、そして社会的孤独の蔓延。上下関係に非常に厳しい儒教文化を色濃く残しながら、フェミニズムの先鋭化に代表されるように男女のジェンダー対立が過激化の一途を辿る社会でもある。大韓航空ナッツリターン、崔順実ゲート事件や曺国事態のような権力者達による理解に苦しむ事件が頻発し、元大統領は何故か次々と投獄や変死など陰惨な末路に見舞われる国でもある。
Netflixの視聴上位を掻っ攫い、BTSやBLACKPINKのような世界レベルのアーティストを輩出している国が、同時に数え切れぬ深刻極まりない問題を抱えているのである。
カンヌ国際映画祭のパルムドールとアカデミー賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、或いは昨年より大流行している「イカゲーム」にも描かれているその過酷極まりない有様は、「愛の不時着」や「梨泰院クラス」において描かれる大金持ち達の苛烈な跡目争いや権力闘争と恐らくはパラレルなものなのだろう。そして、或る事件により高校を中退させられ、その上に父を事故で喪い、更に刑務所に収監されてしまったどん底の境遇の主人公が、苦節の末に「ソウルの六本木」梨泰院において小さな居酒屋を開く所から成り上がっていくという、「梨泰院クラス」のようなストーリーは、社会階級が固定化する一方である実際の韓国社会において殆ど実現不可能なものでもあるのだろう。そうであるからこそ、それは創作の世界に於いて、韓国社会の抱えるリアルな問題が描出される只中においてより一層輝かしく描かれる。
新興国の栄光と悲惨を正に同時代に体現しているこれらの動向は、彼の国が国家の総資本主義化とも言うべきネオリベラルな政策に驀進することで生み出されたものであるだろう。冷戦期の反共の色を色濃く残した38度線の緊張状態の中で民族主義的な統一の理念が度々唱えられるという、北朝鮮との間の微妙な休戦状態の中、親日派に対する厳しい言論統制、そして国民統合と大義名分を獲得する為に頼みの綱のように持ち出される「反日」といった、非常に過激で不安定な自己イメージの再生産もまた、急成長の中で引き起こされた韓国社会の著しい歪みの何らかの表現であるのかも知れない。
隣国である韓国こそ、我々日本人にとっては非常に理解し難き国であると同時に、平成以後緩慢に沈み行く我が国にとって様々な意味で鑑となる国であるように思う。今は報道のみならずコンテンツ等を通じて、その実相をもう暫し見詰めてみたい。
(この文章はここで終わりですが、皆様からのお年玉をお待ち申し上げております。)
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