見出し画像

SDGsという第二の大転換(6)自動車に食われる人類社会

…より続く

近代の成長は、化石燃料の投入によるのか?労働力の生産性向上によるのか?

前回の章では、近代の初めにジャン=ジャック・ルソーが嘆いたように、地上の富みで楽しみ尽くすことを忘れ、地下にある地下資源(鉱物と化石燃料)を掘りつくし、地上と空中に廃棄物を大量に吐き出すことを人類の富の増大と思い込んでしまった近代の姿を描きました。

再度引用する次のグラフの通り、人類にとって「化石燃料」を投入物として考えた場合の成長率は比例しているだけで改善していません。化石燃料を使用する分、成長しているだけであって、本来目指すべきなるべく少ない化石燃料で大きく成長できる(化石燃料単位あたりの生産性の向上)形になっていないのです。

実際のところ、資本家が目指すとされている、労働力単位あたりの生産性も向上しているといえるのか疑問になるような状態です。単に化石燃料を安く手に入れられるという条件のもと、その投入量を増やすことだけに専念してきたのではないのか?

成長率向上に最も貢献しているのは、「化石燃料投入量」でしょう。つまり、資源あたり生産性の向上を人類はサボってきたといえるのではないでしょうか。

化石燃料を大量に投入し始めることで、メインの工業品は次のように移り変わってきました。

18世紀終わりの産業革命によって機械化と化石燃料投入増大を始めた時のメインの産業は衣服でした。綿工業です。
19世紀中頃になると、消費者に一定の衣料品が行き渡ります。新たに、ドイツやアメリカなどで、イギリスやフランスの先進国に追いつこうと政府の支援のもとに巨大金融を作り出し、社会資本を政府の補助や規制も含めながら拡充させることによって「重化学工業」が開始されます。メインの商品は、インフラであり、軍事品であり、そして、肥料を中心とした新しい化学工業でした。これらの勃発が世界大戦へと導いていきます。

戦後はどうなったでしょうか。大不況を戦争という公共事業で乗り切った諸国は、同時に(1)戦争に協力した労働者や女性からの賃金上昇圧力、(2)軍事国家を目指すために大量に開発され、また戦後復興として開発された、道路を中心としたインフラ、(3)兵器を大量に素早く生産するためのベルトコンベア式生産方式、(4)戦後のベビーブームによる急激な人口増大、というような現状に直面します。
その結果できたのが大量消費市場、そして大量生産、さらにいうと、大量廃棄物、大量化石燃料投入です。
人類の急激な発展と喜んではいけません。化石燃料投入量に対する生産性はさほど向上していないのです。
それが1960年代終わりに始まるオイルショックに行き着きます。

そして大量消費市場はどうなったでしょうか。主な消費品は電化製品と自家用車です。これらの購入によって、消費者の生活は豊かになったのでしょうか?

大地がおのずから提供してくれる現実の財宝

大量生産と大量化石燃料と大量化学工業は、資源の浪費と共に、有害物資の排気の増大にもつながりました。公害の発生です。

自動車を走らせるための道路駐車場の新設や、電気を発電するための電源開発によって、街なかの安全な歩行者通路は削られ、商店街の活力は廃れ、郊外の田園風景は変貌し、山河はダムで堰き止められ、海岸線はコンクリートで埋められました。

自家用車や家電製品をふんだんに手にいれるための代償として、これらは釣り合うものだったのでしょうか。

個性ある街なかの商店街やその建物を残しながら、郊外への宅地と道路開発を抑えることによって、街なかに人口密度を維持し活気を保ちながら、消費での大量のエネルギー使用を抑えつつ、郊外の美しい田園や山河、そして砂浜で美しく豊かな自然の産物を楽しみ続ける、そんな違った道をたどることはできなかったのでしょうか。

いま、求められていることは、「大地がおのずから提供してくれる現実の財宝」ではないでしょうか。つまり、化石燃料の投入量を減少させながら大地の上の生活・人生のウェルビーイングの向上につなげる、新しい生産性の向上です。less energy, more life。

全ての人の人生を意味あるものに生産するための生産性の向上です。

人間は堕落するにしたがって、真の富に対する趣味を失うものである。そこで人間は、おのれの困窮を救うために、工業や苦役や労働に助けを求めなければならない。彼は地の底を発掘する。彼は、おのれの生命を冒し、おのれの健康を害してまで、地中深く想像の財宝を求めようとするくせに、享受することさえ知っていれば、大地がおのずから提供してくれる現実の財宝を求めようとしない。彼は太陽と明るみを避け、もうそれを見る価値のないものになりさげる。

ジャン=ジャック・ルソー『孤独な散歩者の夢想』(1776-78)

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?