職員さんの早期希望退職という選択
こんな時期に送別会が続いている。先日は某部署の職員さんが早期希望退職されるとのことで、退職祝賀会に出席してきた。昨年度も同じような会に出席した。私の回りで職員さんが自ら希望して早期退職するのは2人目。いずれも理由はシンプルだ。もう給料は上がらないのに仕事は増えていく一方だから。
いまや大学でも「早期希望退職」を募っている。そしてXX部署では正規の職員さんが辞めた後に、正規職の補充はない。早期希望退職を募るのは人件費を削減するためだから。だから正規職の補充は出来ず、非常勤の方を雇うことになる。非常勤職員なのに、きっと求められることは、今回辞められた方の仕事がまるっとくるに違いない。ブラック以外の何物でもない。
しかし今日の昼食時に教授から興味深いことを聞いた。非常勤を募集しても、このところは「応募がない」ことが多々あるそうだ。笑ってしまった——そりゃ、そうだろうと。結婚したての頃、妻に大学でアルバイトをする気があるかどうかを尋ねたことがある。その当時は「魅力的な時給」だったが別の仕事をしていたので結局は大学では働かなかった。しかし今や「全く魅力を感じない」職であることは間違いない。ド田舎だけれども、ここ1−2年でアルバイトの時給はどんどん上がっている。学生の時給を聞いても驚くばかりだ。そんなご時世にあんな時給で募集を出したところで、しかも常勤の辞めた穴を非常勤で埋めるわけだから、重い責任と多くの仕事量を任せるなどブラック以外のなにものでもない。
それに、こんなド田舎だ。あそのこ大学の仕事はきついうえに、時給が安いなんてことは直ぐに広まるだろう。ド田舎では、PTAも町内会も井戸端会議も全てが現役でファンクショナブルだ。そこで、そのような噂(この場合は真実なのだが)が流れれば、誰も応募なんてしてこなくなるだろう。それこそ昔はこのド田舎で教育に関われるとか研究に関われるってことで名誉なお仕事だからと、給料度外視で働いてくれた(奉仕してくれた)方もいたろう。もっと溯れば給料が良かった時代もあったのだろう。でも、もう時代に即してないよね、としか言いようがない時給から、大学のやんごとなき懐事情が透けて見えて「あそこはそのうちなくなるよ」とPTAや町内会や井戸端会議で語られているんだろう。
私のいるような底辺ド田舎大学だと、職員さんの実家は何かしらの商売をしていたりすることもある。今回は兼業農家さんだった。早期退職後は農業に専念されるとのこと。ぶっちゃけ農業の方が儲かりまっか?と聞きたかったけれども、流石に無礼かなと思い、心にしまい込んだ。何よりも「今日もXXの作業でへとへとで」と言いながらの素晴らしい笑顔を見たら、退職して良かったよねぇとしか思えない。第三の人生のスタートを心からお祝いしたい。
回りの職員がどんどん辞めて、補充が非常勤になるならば、必然的に年配の職員さんに求められる業務は矢継ぎ早に増えて、責任もどんどん重くなる。きっと年配の職員さん達が新人だった頃は、先輩の職員は真っ昼間から紫煙をあげてよもやま話に盛り上がっていたはずだ(自分は知らない世界なので想像です)。それと比べてれば、今の年配の職員さん達の本音は「どうしてこうなった」以外の何者でもないだろう。さらには非常勤職が主婦のお姉様ばかりだったりすると、それをまとめあげるどころか、ちょっとしたことで虐げられる対象にもなってしまう。自分が新人だった頃に先輩がしていたみたいに「てやんでぇ」と話しかけて、肩でも叩こうもんなら直ぐにパワハラ/セクハラ扱いされかねない。常に何かに怯えて気をつかいながら話さなきゃいけない。おまけに給料も頭打ちだ。大学にこのまま残っていてイイ事ってナンデスカ?と思うはずだ。そりゃ早期希望退職が応募されれば、そうなるよね、と。他に仕事があるのならば「逃げるが勝ち」だ。
しかし、長年勤め上げてきた方の知識と技術を非正規の方に継がせるってのは違うよなぁと思うんですよね。うちのXXでも、いわゆる創設時代からの生き字引みたいな職員さんが定年退職された際には、教授が頭を下げて1年間非常勤で来て頂いていて引き継ぎをしてもらった。そうしないと、何がどこにどうなっているのか分からなくなってしまうのだ。昔は、その余裕があったから良かった。でも、いまや非常勤の方々はXX年でいなくなることがあらかじめ決まっている。知識と技術の継承なんぞ、大学ではとっくに殺されてしまった幻想だ。
大学で働くとはなんぞや、が問われていると思う。地方のド田舎底辺大学では研究も教育も運営も全てが回らなくなっている。「やりがいのある仕事」とか「生きがい」というだけで身を捧げてくれる方達だけでやっていくことはいつまで出来るのだろう?優秀な方ほど現実が見えている。もはや砂上の楼閣となった大学から皆が逃げ出しはじめている。自分もいつか早期希望退職を求めるようになるのだろうか、と退職された方の素晴らしい笑顔を見ながら考えてしまった。