"手作り"原理主義者と"天然成分"原理主義者達への手紙
先日、twitterで「塩化ナトリウム」がトレンドに入っていて、なんのこっちゃ?と思って調べていたら「塩化ナトリウムの入っていない塩 」なるパワーワードが出てきて戦く。詳細は検索していただくとして、このような事象が発生した理由として、塩化ナトリウムと塩化カリウムを間違えたのではないかと想像している方がいらっしゃった。
なるほどーと思う。とてもお優しいジャーナリストの方とお見受けする。でも、もう一つの可能性も想像してみたい。どういうことかというと、この"手作り"目薬のレシピでは、
水道水は塩素が入っているので必ずミネラルウォーターや浄水した水、ウォーターサーバーの水を使用すること!
WEB魚拓より
と書かれている。塩素をやたらと嫌がっている。ネットを調べれば、塩素=身体に悪いというHPがごまんとヒットする。ウォーターサーバーやミネラルウォーターを売る際の常套句だ。カルキ臭を入口として、毎日飲む水という言葉とともに、塩素を最大の悪にする常套作戦だ。つまりだ。
塩素=Cl2
塩化ナトリウム=NaCl
の区別はついておらず、両方ともClが入っている悪い奴!という感じでないだろかと想像する。つまり本気で「塩化ナトリウム」を除外しなければ!という感じだったのではないだろうか?
さらに、もう一つ想像したい。おそらく「天然の塩」には「塩化ナトリウム」が入っていない、と思っているヒトがいるかもしれないということを。何を言っているか意味が分からない、という方は正常である。でも、こういうのに拘る人達は、商品のパッケージをくまなく読んでいるのだ。我々が見ないような場所を実に丁寧に見ている。その一つが「原材料」の欄だ。そこで「天然塩」と「原材料」で検索してみよう。
原材料は海水と記されている。塩化ナトリウムの文字はない。塩分相当量というのは書かれていても、塩化ナトリウムとは書かない。これは、岩塩とかも一緒で、塩化ナトリウムの文字はない。さて、ここで「精製塩」の原材料をみてみよう。
塩化ナトリウムという文字が堂々と欄外に書かれている。つまりである。精製塩は駄目で、"天然"塩は良いもの、という考え方だ。私は「天然成分原理主義」と呼んでいる。天然成分原理主義者にとって、精製したもの=人工のもの=塩化ナトリウム=悪、という(謎の)方程式が成立する。そして、"天然"塩の味は塩化ナトリウム以外のなにかからきていると思っているのだろう。それが何か?と問えば、当然ながら"天然"成分と宣うのだ。
私は上記の2つの事象がかさなりあった素晴らしいアンサンブルによって件のパワーワード「塩化ナトリウムの入っていない塩」が生まれたのではないかという妄想をしたい。単なるミスなどというつまらない事象ではなく、養われた、培われた、醸成された、手作り原理主義思想と天然成分原理主義思想の絶妙なハーモニーが生んだ味わい深いパワーワードだったと思うのである(天然塩、自然塩、精製塩、については調べれば、やばいページがわんさかと出てくるので、気になる方は調べてみると今回の騒動の闇を見ることが出来るかもしれない)。
笑ってばかりも居られない。私たちがここから学ぶべきは、これを読んでいるあなたの近くにも「塩化ナトリウムの入っていない塩」というものの存在を信じている人達がいるかもしれない、ということだ。ミスじゃない。それがあり得ると本気で思っている天然成分原理主義者がいるのだ。そういう現実を我々は受け入れなくてはいけない。目をそらしてはいけない。
なお私の知り合いにも「天然成分原理主義者」が一人いる。何かと「天然由来だから身体に良い」というフレーズを使う。そして、何故か、(本当に不思議なのだが)やたらと他人に勧めたがる。マンションのセールス電話と同じで、そんなに良いものであるならば自分で独占すれば良いのに、とにかく人に勧めたがる。私の親しい人に対して、その台詞が向けられた時、私は間に入っていつもこう答えている。
「トリカブトの毒も天然成分だけど、死ぬよ」
「フグの毒も、毒キノコの成分も天然成分だよね」
と。
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