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眷属の研鑽(#シロクマ文芸部)

「風の色を変えられないと立派な眷属にはなれんぞ」
 生瑠伊神社に仕える先輩の眷属たちに、常日頃いわれている。
 風の色には数多あり、それを巧みに扱うのには相応の力がいる。
 例えば、この前もこの地域に大きな被害をもたらした台風の色は、限りなく漆黒に近い禍色だった。
 風の色がどす黒くなればなるほど強風になり、時に突風を吹かせて木々や人間の家までも吹き飛ばしてしまう。
 生瑠伊様は人間だけではなく、生きとし生けるもの全てのものに加護を施される。それだけ大きなお力をお持ちで、生瑠伊様の眷属として働けることは本当に光栄で嬉しいことなのだ。
 わたくしは生瑠伊様の眷属の端っこに並ばせていただくようになって、無我夢中で働かせていただいている。だが風の色を変える術はよほどの鍛錬が必要だ。 
 災厄の神霊である禍津日神が力を蓄え、穢れを施した禍風は、下っ端であるわたくしのような眷属には到底歯が立たない。
 
「温かな山吹色の風を混ぜると雨が多くなり洪水を引き起こしかねません、かといって紺青を混ぜると空気が冷えて田畑や果樹などの実りを妨げることになってしまう。加減が難しいのです。如何したらいいのでしょう?」
 教えを乞うわたくしに、一の眷属の八咫烏様は何もおっしゃらない。
 ただ研鑽を積むこと、これに尽きると。
 
 頑張っているのだが、どうもコツがつかめない。
 修行に疲れて麓の泉で休んでいると、野ウサギがうやうやしく俯きながら声を掛けてきた。
「いつまでも暑い日が続いていて、子ウサギたちの元気がないのです。どうか涼しい秋の風を吹かせていただけないでしょうか?」
 子ウサギがいる楓の木の下にある巣に行ってみると、4羽の子ウサギが穴の中で、暑さのせいで呼吸も荒くぐったりとしていた。
 野ウサギは祈るように手を胸の前で合わせている。
「お願いです。子ウサギたちを助けてください」そういって頭を下げた。
 何とか助けてやりたい。
 紺青の風をほんの少しだけ掌の上で作ってみる。
 でもこれだけだと冷気が強すぎて雹を呼び込んでしまいかねない。
 山吹色や緋色を絶妙な割合で混ぜる必要があるが、それだけでは足りない気がする。
 どうしたものかと思案している間にも、子ウサギは弱っていってしまう。
「このままでは子ウサギが死んでしまいます」
 野ウサギの懇願する姿を見ると、琥珀色のオーラを纏い放っていた。
 その琥珀色のオーラを、掌の上にある紺青の風に混ぜてみた。
 すると徐々に琥珀色と紺青の風が融和し、錦秋色の風に変化していった。
 すかさず子ウサギが休む楓の木に錦秋色の風を吹かせると、みるみるうちに楓の葉が黄金色の姿へ変えていく。
 空気が静まり、清涼で満たされていった。
 すると子ウサギたちの荒かった呼吸が落ち着いて、元気を取り戻していった。

「神様、子ウサギたちを助けてくださってありがとうございました」
「わたくしは神様ではないし、わたくしの力でもありません。子を想う親の慈愛が成せる業であり、錦秋色の風はほんのちょっとお手伝いをしただけのこと」
 八咫烏様がいった研鑽を積むとは、つまりこういうことなんだと合点がいった。教を乞うて得られるものではないし、まして己の力のみを考え磨けばいいというものでもない。
 加えて謙虚であればいいというものでもないのだろう。
 子ウサギを想う野ウサギの慈愛と健気な願いを汲みとることが何より価値がある。
「わたくしのほうこそ、貴重な修行をさせていただいた。ありがとう」と野ウサギに感謝を伝え、生瑠伊様の元へ急いだ。
 拝殿前に辿り着くと八咫烏様がすでに控えておられた。
「見ておったぞ、ようやった。ひとつ覚えたな」
 八咫烏様からお言葉を頂けた。
 そして境内に真珠色の柔らかな光と風がほとばしり、生瑠伊様の微笑みが見えたような気がした。 
 わたくしはそれだけで胸いっぱいになり幸せなのです。
 
 

以前書いた『夜の神社で』というショートショートに生瑠伊神社という架空の神社が登場する。
今回はその眷属の修行をする場面を描いてみました。

ちょっと(いえ、かなり💦)無理くり作った感が否めませんが、これで時間切れとなりました。
よろしくお願いいたします。

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