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表彰状(#秋ピリカ応募)

 目を覚ましたら広い劇場の中にいた。
 確か車を運転していたはずなのだけど、その車が見あたらない。
「皆さん、お待ちかねですよ」
 突然現れたタキシード姿の男性に声を掛けられた。
 どういうことだ?
 ここはどこなんだ?
「あなたは亡くなったのですよ。暴走したトラックと衝突して、即死でした」
 死んだ?
 そんなはずはない。
 怪我もしていないし、体のどこにも痛みはない。
「それはそうですよ。すでに体から抜け出て、魂だけの状態ですから」
 そう言うと微笑みながら「さあ、前に進んでください」と舞台の上へ促した。
 舞台の上には演台があり、白いドレスを着た女性が立っている。
「野村研一さん」と、静かな声で私の名前を呼んだ。
 それはまるで卒業証書を受ける取る時の光景そのものだ。
 その女性は一枚の紙を手に取り読み上げた。

表彰状
 あなたは今生において、数奇な運命を辿りながらも数々の善行を行い、
 多くの人たちを助け導きました。
 よってここに全ての宿命を修了したことを証します。

 手渡された表彰状には何も書かれていなかった。
 その白紙の紙に今までの自分の生涯が、まるで走馬灯のように映像になって流れ始めた。
「あなたは阪神淡路大震災で家族を亡くしました。その悲しみを抱えながらも、その後は数々の被災地へ赴きボランティア活動で尽力しました。あなたに助けられた多くの被災者の感謝の気持ちが、あなたをここに連れてきたのですよ」
 確かに被災地で復興活動を続けてきた。
 でもそれはあの時、火に囲まれた家の中で、両親を見捨てて逃げ出してしまった自責の念からだ。許しを乞う為に取り戻せない過去を手繰り寄せようとしていただけだ。
 紙のモニターでは怯えて逃げ出す当時の自分の姿が流れている。
 あの時の、自分の名前を叫ぶ母の声が蘇る。
「たとえそうだったとしても尊い行いには違いありません。その証拠にご覧なさい」

 振り向くと会場には、大勢の人で満員になっていた。
 最前席では亡くなったはずの両親が私に向かって拍手を送っている。
「良かった、生き抜いてくれて」父が誇らしげにつぶやいた。
「寂しい思いをさせて、ごめんね」涙をぬぐう母の手が震えている。
 他にも震災の時に亡くなった同級生の悟君もいた。
 近所に住んでいたおばちゃんたちの顔もある。
 自分だけ生き残ってしまった。
 それなのに、みんな自分との再会を喜んでくれるのか。
 
「さあそろそろ扉が開きます。その表彰状は現世うつしよの修了証であり、来世への通行証なのです」

 許されるのか?

「あなたの魂は輝いていますよ。あの扉の向こうへ行くにふさわしい光です」
 もう一度振り向くと父と母が笑顔で手を振っている。
 会場にいるみんなも「ありがとう」と、何度も何度も。
 そうか、もういいのか。
 あの頃の自分に伝えてあげたい。
 「もう誰も苦しんでいなかったよ」
 私は表彰状を手に、扉の向こう側へ歩きだした。

     了(1195文字)

審査員の皆様、よろしくお願いいたします。
今回初参加で、ビクビクしながらの応募となりました。
もっとじっくり考察して応募した方が良いのでは?と思いましたが、素晴らしい猛者たちの作品を目にしたら、きっと尻込みして応募なんてできなくなってしまう。
ひよって応募を逃したくないので、早々の応募をさせていただきました。


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