Irani Café - その1:Irani caféとは
Irani café(イラーニー・カフェ)が流行りそうだ(下記事参照)。
わたしはイラーニー・カフェに魅せられて、それらをめぐることをインド旅の目的のひとつとしてきた。イラーニー・カフェとはなんであり、どこがそうで、どこがそうではないのか。それをきちんと定義して線引きすることは、わたしの知識では難しい。けれど寄せ集めた知識と実際に行った経験から、それをなんとか試みて、そしてわたしがこれまでにめぐったお店を紹介しようと思う。
イラーニー・カフェというには、インドのイラーニー(Irani)というコミュニティの人々が、主にボンベイ(現・ムンバイ)、プーナ(現・プネー)、ハイダラーバード(ハイデラバード)に開いたカフェである。イラーニーというのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、主に飢饉を逃れてガージャール朝イランから英領インドに移住した、ゾロアスター教徒とシーア派イスラーム教徒(の子孫)である。
ちなみにインドには、もうひとつパールシー(Parsi)というゾロアスター教コミュニティがある。こちらは8世紀から10世紀ごろに、宗教的迫害を逃れてイランからインドに移住したゾロアスター教徒(の子孫)である。Parsiという語は、時にインドのゾロアスター教徒全体を指して使われることもあるようなので、ちょっとややこしい。
パールシーとイラーニーは、シンガポール・マレーシアで例えると、バールシーがプラナカンでイラーニーが華人のようなものと考えると、ちょっとわかりやすいのではないだろうか。
(特にムンバイやプネーの)イラーニー・カフェには次のような特徴がある。
多くは20世紀前半の創業である。
家族経営で、現在も創業者の子孫が経営しているところが多い(いま第三世代か第四世代くらい)。
もともとチャーイを飲んで軽食を食べるカフェなので、朝早くから営業していて朝食が食べられる。
典型的なメニューは、Bun maskaやBrun maska、Akuriやオムレツなどの卵料理、Kheemaなどの軽食。あまいものは、Caramel custard(プリン)やMawa cake、ビスケットなど。チャーイ以外の飲みものはラズベリーソーダなど(Pallonji'sが有名)。
カフェで出すパンやお菓子を自前で作っている場合は、Bakeryを併設していてtakeawayできるところが多い。
既成のお菓子や食品、日用品などのStoreを併設しているところもある。
しっかりした食事を出す場合は、パールシー料理やムグライ料理が多い。
インテリアは、天井が高くてシーリングファンがあり、ときにはバルコニー席がある(いわゆる中二階だけど、インドの場合は中二階ではなく中一階のため、とりあえずバルコニー席と呼ぶことにする)。鏡張りの壁、市松模様の床、大理石のテーブルや曲木チェア、壁に飾られた肖像画や写真などが特徴。BakeryやStore併設のところは、木製の古いショーケースや戸棚がある。創業当時から大きな改装をしていないところでは、これらの特徴が多く残っており、レトロで激シブなところが大きな魅力となっている。
かつてはたくさんあったイラーニー・カフェも最近はかなり減り(ムンバイで現在30軒くらい?)、絶滅危惧種である。生き残っているけれど様変わりして、現在はカフェというよりレストランやバーといったほうが適切なところもある。食事メニューも、南インド料理や西洋料理やチャイニーズを出すところもある。改装によってかつてのイラーニー・カフェ的なインテリアではなくなっているところもある。
ボンベイのイラーニー・カフェの歴史や概略については、次の記事がわかりやすい(多くの記事ではゾロアスター教徒のことしか書かれていないが、これはイスラーム教徒のことも書かれている)。
ムンバイ、プネーの場合はまずイラーニー・カフェがあって、そこで出すチャーイがIrani chaiという感じなのだけど、ハイダラーバードの場合は少し様子がちがっている。ハイダラーバードではIrani chaiが非常にポピュラーで、土地の名物とみなされている。そしてIrani chaiが飲める店が広くイラーニー・カフェと呼ばれている(気がする)。
それではIrani chaiとはなにか。これも明確に定義するのはむずかしいのだけれど、ものすごく大雑把にまとめると次のような感じだと思われる。
イランのチャーイとは直接関係がない
お茶とミルクは別々に沸かして最後に合わせる
お茶もミルクも長時間煮詰める
お茶は密閉された鍋で蒸気を逃さないようにして煮詰める(サモワールがあるとベター)
ミルクをより濃厚にするために、Mawaやコンデンスミルクを加える場合もある
お茶にはカルダモンを加える
ところで多くのイラーニー・カフェでは、メニューにIrani chaiとは書いてない。ただChaiとかTeaとか書いてある。
ハイダラーバードのイラーニー・カフェには、ほかに次のような特徴がある。
創業者等の情報が少なくてよくわからないけれど、わかる場合の名前等からみて、ゾロアスター教徒よりもイスラーム教徒が多いように思われる
代表的なお菓子はOsmania biscuits
食事を出す店では、パールシー料理ではなくハイダラーバード料理を出しており、ビリヤーニーの名店と言われているところとある程度重なる
レストランがメインの場合、別途カフェスペース(だいたい立ち飲み)が設けられている店が多い
いま健在なところは、創業年が比較的新しい
インテリアは、ムンバイのようには特徴的でないことが多い
お酒を出すところは(ほぼ)ない
ハイダラーバードのイラーニー・カフェについては、次の記事を読むとだいたいの雰囲気がつかめると思う。
(最終更新:2024.02.01)
→[その2]につづく