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日本の論文紹介①卵巣凍結と卵巣移植について(京野アートクリニック高輪)

今週は日本の論文を紹介していきたいと思います。
日本受精着床学会誌、2022年 vol.39 No.2からです。

まずは、私のBossが寄稿した論文から紹介したいと思います。

エビデンスに基づいた卵巣組織凍結(OTC)/融解卵巣組織移植(OTT):先進国欧州から学ぶ

京野廣一ら著

前提:卵巣凍結と融解移植は別物

以前のnoteでも書いたのですが、卵巣凍結と融解移植は全くの別物という分類をされていると思います。

体外受精が採卵から受精、凍結、融解胚移植とそれぞれ分かれているとの同じで、ここに違和感はないだろうと思います。

医療での、基本的スタンスとしてエビデンスに基づいた治療(EBM:Evidence Based Medicine)の考えがあります。

エビデンスに囚われすぎていては、今治せない病を治すことはできませんから、エビデンスにとらわれない部分も必要ですが、エビデンスがあるものはしっかりと踏襲するのが大切なスタンスだと思います。

私は医者ではありませんので、いつも傍観者ですが、先生方を見ていると、
大切な幹の部分はエビデンスをかなり重視したオーソドックスなスタイルをとりながら、都度、患者さんの状態に合わせて、枝の部分を変えていくように見えます。
どっしりした部分としなやかな部分、両方あるってことですよね。

卵巣凍結は緩慢凍結法がエビデンスあり

妊孕性温存は日本よりも海外で進んで実施されています。
アメリカ生殖医学会のガイドラインにおいて、
「卵巣凍結は確立された技術であり、融解移植については未確立であることから、設備の整ったラボと熟練の外科医を兼ね備えた施設で行うべきだ」
としています。

このあたりは、先日紹介したnoteの海外の報告でも触れています。

また、妊娠出産の報告例として、97%以上は「緩慢凍結法」であり、ガラス化法は5例しかないこと。
そして、移植あたりの妊娠率や生産率を緩慢凍結法は開示していますが、ガラス化法が未開示であることも報告しています。

そうした観点でも、ガラス化凍結のエビデンス構築はうまくいっていないと思われても仕方がないのだと思います。だから、結局緩慢凍結法を選ぶのが妥当、と国際的には思われてしまう。

実際、日本でも出産しているという報告をしていますが、
症例の管理が曖昧で、本当に移植した卵巣組織からの卵子で出産にいたったかという点において断言できない要素を残していることも指摘しています。

海外の報告はたしかにもっと細やかに管理して報告しています。

ただ、ガラス化法を一方的に否定しているわけではなく、基礎研究で報告されているようなコラゲナーゼ前処理などのさらなる改善によって、現在の卵子や受精卵におけるガラス化法のようになっていくことが期待されるとしています。

言い方はとても難しいのですが、妊孕性温存は1チャンスしかないケースが多々あり、不妊治療とはその点において違います。

なので、特にエビデンス重視のスタンスであるべきだと警鐘を鳴らしているように僕には思えました。
(もちろん、不妊治療もその1回にありったけの技術をつぎ込みます)

小児がん患者に向けて

卵巣凍結の将来的な技術開発に期待し、小児がん患者にも積極的な卵巣凍結の適応が広がりを見せています。
海外においては、
・β-地中海性貧血の症例
・鎌状赤血球の症例
・急性リンパ性白血病の症例

における卵巣凍結後の出産報告がなされていますが、
凍結保存期間は11-15年を要しています。

小児がん患者さんの多くは血液造血器疾患の方が多く、治療においては完全に閉経状態になってしまう方も少なくありません。

そのため、卵巣凍結の持つ意味合いは非常に大きなものとなります。
その点もあるので、緩慢凍結法が推奨されるのだと理解しています。

あとは、保存期間の長さも考えられます。
各医療機関においても、主治医が変わってしまったり、大学病院であれば教授も変わってしまうことが大半ではないでしょうか。

様々な視点から、患者さんの長期フォローアップや長期に安全な保管をすることの重要性があるように思われます。

HBOC患者に向けて

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者さんへの、卵巣凍結/移植は今後の課題になってくる点も指摘しています。

この患者さんは、卵巣がんの発症リスクが一般の方に比べて高い(※絶対発症するというわけではないけど)ことで知られています。

そのため予防的に卵巣を摘出することも多くあるのですが、その卵巣を体内に戻そうというわけなので、当然衝突します。

実際に欧州生殖医学会では、HBOC患者さんへの融解卵巣移植に対して、弱い推奨としており、妊娠・出産後に卵巣組織を完全に摘出・除去することを条件として許容する、としています。

実際に臨床の場にいると、トリプルネガティブなどの緊急性を伴う乳がんの方に妊孕性温存で許容される期間は短く、その時にはBRCA検査は終わっていないことも多々あるので、凍結しておいたけれど、後からHBOCであったことがわかるというような例も出てくると思います。

このあたりは、がんの専門医の先生と生殖の専門医、さらには遺伝の専門の方々と協働して対応していくしか今はないと考えられます。

卵巣凍結は、少しずつ脚光を浴び、認知もされるようになってきました。
ただ、日本は海外から見ると少々変わったポジションにあります。
その点は日本の中で日本の情報だけしか見れないと、認知することもできません。

少しでも多くの患者さん、医療者に、この情報が伝わることを望みます。

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