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社会的「卵巣凍結」登場

海外では、卵巣凍結の適応が広がりつつあります。

本筋としては、卵巣凍結は妊孕性温存で実施されている治療方法で、
性腺毒性リスクのある治療を行う患者さんで、特に思春期前の患者さんを対象としています。(成人にも適応はされます)

妊孕性温存全般でいうと、依然として、受精卵凍結、卵子凍結が実施された件数はもちろん、出生後の児のフォローアップも進んでいることから確立された治療法として考えられています。

ただ、世界的に見ると、不妊症患者は年々増加傾向にあり、その最たる不妊原因は、Age related、つまり年齢に関係している不妊症。加齢によるものということになります。

その加齢性の不妊症に対しての卵巣凍結の良し悪しについては、検討されたことがほとんどありませんでしたが、今回、イギリスから新しく論文が出ているので紹介したいと思います。

選択的卵巣凍結、という選択肢

L S Casaven et al.,Hum Reprod . 2022 Jun 23;deac144.

日本では、社会的、というのが頭にくっつくのですが、
海外ではElective(選択的)という言葉で表現されるようですね。
患者さんの権利に配慮した良い表現だなぁと感じます。

患者さんが選ぶことのできるという目線ですね。

さて、この選択的卵巣凍結ですが、その前に選択的卵子凍結がすでに存在していますので、そちらについて簡単ながら紹介しておきたいと思います。

選択的卵子凍結

卵子凍結については、基本的な情報は以下で紹介していますので、
確認いただけると嬉しいです。

この著者は卵子凍結のどこに問題点を提起しているかというと、
そもそも妊娠にアプローチするのに生殖補助医療が必要になるではないか、ということです。
体外受精 vs. 自然妊娠という考え方です。

今となっては体外受精での妊娠が珍しいものではありませんが、
自然妊娠ができることに改めてフォーカスするというのは切り口としてはとても珍しいものと思います。

実際に、2009年頃の論文では、不妊症の女性に行われる排卵誘発は、短期的な心理的健康問題と、長期的なうつ病エピソードおよび自尊心の低下の感情の両方に関連していることを報告しており、目に見えづらいところではありますが、様々な負担があることは今でも変わっていないとも考えられます。

要は、この卵子凍結の代替法として、卵巣凍結が考えられるということになります。

卵巣凍結には多くの卵子を一度に凍結でき、その後自然妊娠ができるというメリットがあります。加えて、選択的凍結ですので、もし将来、お子さんを希望しないとなった場合であっても、更年期症状を予防するために使用することもできるようになります。

一方でリスクについても十分に考える必要があり、
まずは、少なくとも2回の腹腔鏡下の手術が必要となる点です。
この外科的な手術のリスクについての報告では、2013年の報告によると、476人の女性を対象とした別の分析では、重大な外科的有害事象の症例は特定されていません。つまり一般的な手術として考えたときにかなり低リスクであるということになります。

また、重要なのは卵巣を摘出してしまうわけなので、この手術による卵巣機能不全を招く可能性があることです。どれくらいの卵巣を取るのか、卵管を温存するのかなどエキスパートが担当しなければならない点には注意が必要と考えられます。

まだまだ法律的、倫理的な面でも十分な議論が必要ではあるものの、
今後の卵巣凍結の展開が期待されるとしており、すでに「実験段階の手法ではない」ことを結論部分でも強調しています。

海外はこのあたりの進みが日本に比べて先進的かつ早いので、
常に最新情報をキャッチできるようにしたいと思います。

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