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データの危うさ 

妊孕性温存の情報提供をしていると、

「データって危ういなぁ」

という事態によく直面する。

これはおそらく、不妊治療も同じことだろうと思います。

データは単なる符号に過ぎない?

不妊治療や妊孕性温存がブラッシュアップされていくにつれて、
否が応でもデータを積み上がっていき、統計的な有意差なども出てきます。

今は誰でもこうした統計的なデータにアクセスできる時代です。

不安に感じたことをインターネットで自分で調べて、
こうしたデータに直面することは避けられません。

例えば、抗がん剤治療による妊孕性への影響を測るとして、
高リスク・中リスク・低リスクとあります。(ASCOのガイドライン)

ここで中リスクに該当するとして、どのような解釈ができるでしょうか。

多くの患者さんのデータから積み上げられたデータですから信頼性や再現性があるのは事実です。
それでも、単なる符号に過ぎない、とも言えるのです。

思考の好み

まず、30-70%程度という中リスクをそもそも高いと捉えるのか、低いと捉えるのか、という問題もあります。これはどのような解釈を好むかという「思考の好み」的なものも出るでしょう。
60%で残ると捉えるのか、40%でなくなると捉えるのか。
どちら側のフレーミングをするかによっても異なります。
医療者の伝え方も重要ですが、恣意的になりすぎてもいけないので難しいところです。

自分の事実を知らない

何より僕が危険だなと思うのは、こうした情報ばかりを見ていて、自分自身のデータをほとんどの人が知らないことです。
女性の場合であれば、AMH検査。男性の場合であれば精液検査で、自分の妊孕性の大きな部分はわかります。
いずれも即日実施し、結果が出ます(AMHは医療機関によっては時間がかかります)。
いくらリスクが高いものでも、もともとの能力がとても高ければ、相対的にはリスクは低くなりますし、低リスクといっても、
もともと持っている能力が低ければ、高リスクになりえます。

妊孕性温存の場合、CED Calculatorといって、化学療法に使う薬剤名と量を入力するとどれほどのリスクがあるかを計算してくれるサイトもあるようですが、僕はこれは推奨しません。正直意味があまりないのです。

自分はどうしたいのか、どう思いたいのか

データをいくら眺めても答えが出ないのは、「自分がどうしたいか」という意志が明確にない状態だからです。
20%しかチャンスがない、とわかったとして、20%を掴みきるんだ!と思えば、80%のリスクは怖いけれど、結局は20%のチャンスを掴むために何ができるかを考えていくだけのこととも言えます。

最終的に問いはシンプルに、○○したいのか、したくないのか、というところに落ち着くことが多いと思います。

提示されたデータがいかに自分に有利であれ、不利であれ、
最終的にはどうしたいのか、という意志が一番大切だと思います。

そんな中で、僕自身がいちばん大切にしているのは、

「知らない」ことによる喪失をいかに防ぐか

ということです。

決めるのは主役である患者さん。

でも知らないことは決められない。

ついつい情報を身に着けていくと、カウンセリング的というか、コンサルティング的というか、相手の意志決定に関わるようになりがちだけど、
常にここの距離感を間違えないことを心がけ、僕の役割は知らせること、と意識して情報を届けていきます。

データは扱い方を間違えると、行動を遅らせる要因になりえます。
そうした点をよく理解して、データを前にした時には、

・自分はどうしたいのか
・自分にはどういう事実があるのか
・自分はどう捉えがちなのか

このような点をなんとなく頭に浮かべて、取り扱うようにしていってもいいのではないかなと思います。

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