妊孕性温存目的の精子凍結の有効性について
女性の妊孕性温存では、卵子・受精卵・卵巣凍結と選択肢がありますが、男性は現実的には精子凍結一択の状況です。
今回は以下の論文を参考にしつつ、精子凍結の有効性について考えてみたいと思います。
男性については、射精障害等がなければ、いつでも精子を体外に出すことができるのが特徴の一つです。
簡単に言えば、今すぐにでもできる、ということです。
ですから、緊急性を伴う場合でも最も早く確実に精子を凍結できますので、
この点は精子凍結の最大の長所と考えられます。
妊孕性温存における精子凍結の実際
この論文は、オランダで1983年から898名のがん患者の精液を凍結保存して、その後に生殖補助医療(ART)にどのくらい使用され、その結果はどうだったかと言う論文です。
患者は精巣腫瘍 393名、ホジキンリンパ腫139名、白血病 89名、非ホジキンリンパ腫80名、
骨軟骨腫瘍 37名、中枢神経腫瘍 34名、消化器疾患 33名の順で、平均年齢は29±8歳でした。
精液を凍結保存していた898名の内、10.7%(96名)の精液がARTで使われ、
34%(304名)の精液はARTに使用されることなく廃棄され(理由は死亡、回復、自然妊娠、挙児希望無し)、55%(498名)が凍結保存継続中です。
96名の内78名がユトレヒト大学で治療を受け、77%(60)が子供をもうけ、23%(18)が子供をもてませんでした。
人工授精、体外受精、顕微授精での生産は各々13, 19、28でした。
ARTが行われた時点での女性の年齢は31.2±4.6(21-43)歳、
精液凍結からART使用までの期間は4.8(0.5-13.3)年でした。
女性の年齢も妊娠結果には様々な影響があることはいうまでもありません。
結論としてARTに用いられる確率は10.7%と低いが、ARTに使用された場合の成功率は満足のいくものでした。
これは私が所属している医療機関でも全く同じ傾向が確認されています。
注意点として、使用率は低いことがありますが、この指標は時間の経過とともに上がる指標なので解釈には注意が必要です。
一方で利用した場合の妊娠率は極めて高い傾向があります。
身体の負担が少ないことと、この確率、また最近では助成金も出るようになったことを考えると、可能であればがん治療前(化学療法前)に精子を凍結保存しておきたいものです。
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