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卵巣凍結のエビデンス構築の難しさ

卵巣凍結は、ガイドライン上もC1というエビデンスレベルです。
卵子凍結もこのC1ではありますが、個人的にはここには開きがあるように感じています。
そして、このC1から、エビデンスレベルを上げていくのは相当困難なことになるだろうと思います。

僕なりの根拠と意見を書いてみます。

適応の少なさ

卵巣凍結は、あくまでも妊孕性温存目的の方にしか行われませんが、卵子凍結は不妊治療の方や、社会的卵子凍結などもあり、実施数の桁が違います。
悪性腫瘍に罹患している最中の卵子凍結ということに絞らずに、見ていけば、実施数は0何個分も桁が違いますから、卵子凍結の方が圧倒的に数が多いのです。

闘病期間の長さ

卵巣凍結は主に小児がんや緊急性の高い治療を伴う悪性腫瘍の患者さんに適応されますので、多くの患者さんが未婚の状態です。
そのため、闘病期間も長いことや、闘病後も結婚するかどうかとか、パートナーとの間の妊娠に対するコンセンサスなどを得るのに時間がかかります。
なので、凍結数は多くても、移植数は極端に少なくなります。

これはある意味では時間をかけて、100年後くらいから見ればかなり解消されていく問題と思います(いますぐ医療者の意志でどうにかできる問題じゃない)。

移植後の成績

妊孕性温存のゴールは温存すること、そして、それらを使用して将来妊娠することなわけですが、卵巣凍結はその管理が極めて難しいです。

移植後の成績が出るまでの期間

移植後に移植した卵巣が機能するまでには通常4-5ヶ月ほどかかるということです。
凍結卵子を使用する場合には、顕微授精を行って、すぐに移植し、妊娠判定しますので、数週間の間に妊娠結果までがわかるのです。
これは大きな違いです。

国内で凍結卵巣の融解移植後に妊娠しているという報告をされている内容も拝見しましたが、この時間が短すぎるという指摘も受けています。

要は、

「本当にその卵巣からの卵子由来で妊娠したの?」

という疑問を呈されているということです。

移植後の指標

そして、凍結卵子は先述のように妊娠結果までがすぐにわかりますが、
卵巣を移植したあとは、まずはその卵巣が機能するかどうか?で判断します。

そのため、血中ホルモン値の変化であったり、超音波での卵胞発育の確認をします。

なので、まず最終ゴールである妊娠判定がはじめの指標ではありません。

そして、多くの患者さんが自然妊娠されるという報告をされているのも卵巣凍結の特徴の一つです。

この場合、妊娠判定をいつ確認できるのか、という時間軸の設定も非常に困難です。

指標が一つではないこと、そして、胚移植のように明確なスケジュールをもって確認することができないこともあり、管理が困難な点があります。


個人的な考え

個人的には、そもそも卵巣凍結と凍結卵巣融解移植は全く異なる医療行為であり、それぞれ別々のグレードが付加されるべきだと思います。

実際に卵巣凍結が最も実施されている欧州生殖医学会においても、卵巣凍結は確立された技術だが、凍結卵巣融解移植はまだチャレンジング(試験的)という表現をされています。

卵巣凍結がうまくできたかどうかについては、移植後にしっかりと生着し、ホルモン生成したり、卵胞発育をするのか、その期間の長さも含めてされるべきではないかと思います。

凍結卵巣融解移植については、上記の卵巣凍結の部分ともかぶりつつ、その後の妊娠成績を含めて検討されるべきではないかと思います。

最後に

エビデンスレベルが低い=悪い、ということでは必ずしもありません。
僕は「安定した、効果のある治療」とはっきりと言えない、ということだと思っています。

統計的有意差みたいなもので証明するわけですが、それで全ての人が救えるというわけでもないです。
あくまで一般的な符号だと思いながら、接していきたいと思います。

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