中医協の資料を読んでみた 2/1時点
中医協で現在、不妊治療の保険適用化に向けた議論が進んでいます。
その中で当事者として気になるポイントについて列挙していきたいと思います。点数自体はすべて不明なので、枠組みについての個人的な感想です。
書き出す前に
まずはじめに僕自身は賛成でも反対でもないというのが正直なところです。
強いて言えば、保険適用になるという号令がかかったことで、いろんな方がこの領域に興味を向け、真剣に考えてくれたという点がよかったなと思うという感じでしょうか。
費用負担は下がればいいし、成績も開示すれば良い。
でも品質が下がるようでは意味がないし、医療関係者のケアも重要。
世界的に見ても、オーダーメードの治療に注目が集まっている中で、
全員横一直線のレディメイドな方向にいくというのは「?」という点もあります。
法律的なしばりが日本にはないので、その点がそもそもアンダーグラウンドな施設が生まれてしまう要因でもあると思うので、保険にしても、助成金にしても限りなく真っ白にはならないような気がしているというのが本音です。
一般不妊治療の患者ケアについて
一般不妊治療管理料という名目で3ヶ月に1度算定が認められるとのこと。
一般不妊治療というと、タイミングや人工授精を指しますが、この場合3ヶ月に1度しか医療機関が管理しない、ということになるものと思います。
タイミングは従来保険の範囲で行っていたと思いますが、これまで人工授精は全部自費でしたね。その場合に医療機関がどの程度のケアができるかが気になります。
また、人工授精の治療費用と助成回数が不明な点が何より気がかりです。
人工授精が悪いというわけではありませんが、不妊症の患者さんを対象にした場合、妊娠率は決して高くはありません。
治療費用が下がり、回数制限が入らないとなると、いたずらに人工授精の件数が上がってしまう可能性も出てきます。
患者さんとの丁寧な話し合いが必要ですが、そのリソースをしっかり確保できるか。そこが懸念点だなと感じます。
体外受精以上の治療について
体外受精のところは現時点では正直未整備な印象です。
意見は多く聞いているのだろうけど、おそらくガチガチの生殖補助医療施設の人が制度設計に関わっていないような気がしますね。
まず、卵子凍結が含まれない、という点。
キャリアとの両立のための卵子凍結は不妊症の原因がないので、確かに保険での適用が難しいのはよくわかりますが、無精子症などのように医学的な要因があって、体外受精ができず、一時的に卵子凍結を行うという場合は少なからずあります。
その場合、全て自費になってしまうとなると、男性不妊のOPEはかなりしづらい印象です。
ただ、研究からも分かっていることで、無精子症の患者さんの治療で最も成功率が高いのは、新鮮な精子(手術で得た取り立ての精子)と新鮮な卵子(その日採卵した卵子)の掛け合わせであることが指摘されているので、無精子症の人の治療成績がシビアになる怖さを感じました。
このあたりは確かに助成金の方が柔軟さはあったろうなと思います。
採卵料と培養料の変動
採卵費用については、個数によって変動するということなので、患者さんにとってフレンドリーになるような気がします。
患者さんが悩むであろうポイントの1つは培養料ですね。
胚盤胞まで育てたいけど、育たなければ身も蓋もないですし、
かといって初期胚で凍結するとそれはそれでコストもかさむと思います。
初期胚も胚盤胞も、なんてことになる可能性もありますね。
初期胚と胚盤胞ではおそらく培養料が違うということになります。
培養状況を見ながら、臨機応変に治療計画というわけにはなかなかいかないので、治療に入る前の想定をもっと深める必要が出そうです。
殆どの医療機関がこれまでの凍結保存物を抱えており、治療実施日ごとに凍結物を管理して、毎年なのか、毎月で更新しています。
既存のものと新しい保険のもの、そしてまた自費のもの、と尺度が揃わないと、凍結物の管理がおろそかにならないかという心配があります。
こういう点にDXのしっかりと盛り込まれないと、めちゃくちゃマンパワーでどうにかするみたいな状態になってしまう可能性があります。
こんな感じでかくと軽く見えてしまう気がしますが、
患者さんからすればお支払い、医療機関からすれば凍結の管理が少しでもおざなりになるというのは本当にリスクで、
「凍結時の規定に則り、支払いがないので廃棄します」
なんてことがありえちゃうわけですね。DX、大事ですね。
見えないところではあると思うのですが、おそらく第一線で頑張っている医療機関のほとんどがこの点にはものすごい神経を使っているものと思います。
ここが見えてこないのが、僕にとって生殖医療の専門家(特に開業医)が入って設計したのではないんじゃないかなと思った根拠です。
凍結保存は3年まで
不妊治療のゴールは言うまでもなく妊娠出産なので、確かにあまり長期に保存することは本質的ではないのですが、3年でばっさり切っているように見えますね。そこから先はまぁ自費ってことになるでしょう。
第二子の治療などをされる方は結構このあたり長期化している人もいるので、その点も不安です。
年齢の定義が…
現行の助成金よりも厳しくなるように見受けられます。
治療開始時の年齢が38歳であれば、6回分が助成されました。
今回の案をベースに考えると、仮に1回採卵して胚移植、余った胚を凍結しておいたとしましょう。
初めの採卵-胚移植でうまくいかなかった場合、次は余剰胚を用いた胚移植を計画しますが、例えばこの時誕生日を迎え39歳になったとします。
そうすると、この胚移植からは39歳での適応になるので、助成回数が3回になる可能性があります。
年齢による不妊症を防ぐためかどうかはわかりませんが、従来のものよりも治療計画を短期かつ具体的に考えないといけなくなりそうですね。
先日noteにも書いたのですが、不妊治療の保険適用後を想像すると、
相当医療者と患者さんが密に話し合い、治療計画を考える必要があります。
ていうか、あと2ヶ月か・・・ここから大変そうです。
医者は医療機関の中で最も人数が少ない職種ですので、医者だけでなく、看護師やカウンセラーなどの方々ともよく話し合い、お互いに協力的な関係を作ることが妊娠への近道だと思います。
僕自身はSDM(Shared Decision Making)という枠組みで患者さんの意思決定をささえる仕事をしていますけれど、自分なりに努力していますが、何より患者さんに支えていただいている面もたくさんあります。
本当、一方向では成立しないなって思います。
治療相談等があればお気軽にコメントください。
また、僕の所属している医療機関でこうした内容のセミナーを実施します。
ご興味ある方はぜひご参加下さい。
※昨日から募集を開始して、今朝見たら100名上限になっていました。
めちゃくちゃ関心があるということにほかならないですね。
よろしければサポートをお願いします! 主に、不妊治療や若年がん患者の方の妊孕性温存に関する情報収集の書籍代や活動費用に充てさせていただきます。