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PPOS法(黄体ホルモンを用いた卵巣刺激法)について

体外受精の成否を分ける大きな点に卵巣刺激があります。
以前、卵巣刺激全体については以下で書きましたので、
卵巣刺激ってなんだい、っていう人は以下から読んでもらうと良いかと思います。

採卵までの卵巣刺激を行う際に想定よりも早くLHサージが発生すると、採卵前に排卵したり卵の質が低下するため、採卵をキャンセルせざるを得ないことがあります。

この状態を「早発LHサージ」と言います。

早発LHサージの発生を抑えるための卵巣刺激法としてアンタゴニスト法が知られていますが、アンタゴニスト法でも早発LHサージが発生する場合があることから、より有効な方法が求められていました。

患者さんの立場からすれば、その周期を万全に整えていたわけですから、費用の有無に関わらず、時間も含めて、大きな徒労感があるのは想像に難くありません。

そのような中で、近年、黄体ホルモンを使用する卵巣刺激法、PPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)法の有用性が報告されています。

決してPPAPとは関係ありません(古い)

黄体ホルモンって

黄体ホルモンは排卵後の黄体から分泌されるホルモンであり、子宮内膜の着床環境を調整する妊娠成立に必要不可欠なホルモンであると同時に、排卵抑制効果があります。

つまり、簡単に言えば、PPOS法というのは、
黄体ホルモンを卵巣刺激に併用することによって、卵を育てつつ、早発LHサージを防ぐことができるのではないか、という方法です。

黄体ホルモン薬の中に、ルトラールというお薬があり、このPPOS法によく用いられます。

僕の所属している医療機関での研究結果を共有したいと思います。

【研究デザイン】

2018年8月~2019年12月までに、ルトラールを使用したPPOS法を行った113周期のP群と、GnRHアンタゴニスト法を行った118周期のA群で比較しました。

(採卵時年齢が40歳以上の方、高度乏精子症、無精子症の症例は除外しました。)

両群ともに採卵周期の月経3日目よりhMG、FSH製剤の連日投与を開始。P群は投与開始と同時に、ルトラール 1日12mg/6mg/4mg/2mgを連日、採卵決定日まで内服してもらいました。A群は、経腟超音波で測定した主席卵胞径が14mmを超えたところから、GnRH アンタゴニスト製剤 を24時間ごとに採卵決定日まで投与しました。

【解説】
研究の時には、年齢による影響を一定化するために、このように年齢を制限することがあります。よくあるのは42歳以下とか37歳以下とかがありますね。
また男性不妊因子があると、基本的な妊娠成績が変わってしまうので、研究解析を行う際には除外しているケースが多いです。
研究を参考にする時は、こうした参加者のバックグラウンドが自分と近いかどうかも重要なポイントです。

【結果】

年齢、BMI、不妊期間、AMHに関して、有意な差は見られませんでした。(表1)

また、採卵数、卵子成熟率、受精率、胚盤胞凍結率などについて有意差を認めなかったことから、PPOS法がアンタゴニスト法と同等の成績を示していると言えます。(表2)

採卵時のLHはP群(12mg, 6mg, 4mg)においてA群よりも有意に抑制され、用量が多いほど抑制がより強いことがわかりました。P群(2mg)においては、A群との有意差は見られませんでした。

【まとめ】

ルトラールを使用したPPOS法は早発LHサージを抑制し、その治療成績はアンタゴニスト法と同等でした。ルトラールは経口投与が可能であり、注射製剤に対するストレス軽減という観点からも、有用な卵巣刺激法と考えられます。

こうしたことから、PPOSは排卵しやすい方、通常の方法では良好胚が確保できない方、PCOSの方等に有効とも考えられます。

ただし、採卵後、新鮮胚移植を行うことはできませんので、
採卵後は1周期おやすみになります。

治療開始から妊娠までの時間が通常の卵巣刺激よりもどうしても長くなるという点は注意が必要です。

自分の身体と価値観に適した卵巣刺激法を選択できると良いかと思います。

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