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AIDについて

AIDとは提供精子を用いた人工授精を指します。

この方法は諸外国でも実施されており、古くは英国において18世紀後半から、アメリカでは1884年にはすでに行われていたという記録が残っています。

日本においては、1948年に慶應義塾大学の安藤画一教授らが実施し始め、1949年に初の出産が報告されており、現在までに1万人以上のお子さまが誕生しています。

諸外国と比べると、日本は精子や卵子の提供を受ける時の被提供者に求める条件が比較的厳しいので、医療機関で治療を受ける難易度が高くなります。

提供者に求める要件についても、出自を知る権利との関係性もあり、匿名のドナーが認められないことから提供者が集めづらい状況であることもあり現在多くの医療期間で深刻なドナー不足となり、AIDを実施している施設は限られています。

こうしたこともあり、医療機関外での治療や渡航して外国で治療を受けるような方々もいるというのが実態ではないかと思います。

AIDの適応


AIDの適応となる方は無精子症などによりAID以外の方法では女性が妊娠する可能性がないと判断され、かつこの方法によって挙児を希望する夫婦が対象となります。また、夫婦は心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状態にあることとしています。

スクリーニング検査

この治療を受けられる女性は、スクリーニング検査(血液型および感染症などの採血検査と心電図)を受けていただく必要があります。

具体的な方法


AIDは基礎体温や頸管粘膜検査、超音波検査などから排卵日を推定し、排卵直前にあたる日に実施します。AID当日にすでに排卵直後であった場合も十分妊娠が期待できるため、医師の判断により実施することがあります。
患者さまの卵巣予備能などの状況によっては、排卵誘発剤による卵巣刺激を行う場合もあります。

治療成績

日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会報告によると、AIDによる妊娠率は3.79%(1204名の患者さんに3790周期実施して144名の妊娠)としています。

主な身体的合併症と副作用


AID当日は少量の出血をすることがありますが、子宮のびらんや操作の刺激によるものであり、危険性はありません。ただし、量が多かったり、38℃程度以上の高熱が出たり、強い下腹部痛続くようなときは、お電話でご相談ください。
また、AIDは、自然周期で行う場合と排卵誘発剤を用いて行う場合があり、後者の場合の副作用として卵巣過剰刺激症候群と多胎妊娠があります。先天異常、子宮外妊娠となる可能性は、自然妊娠と同程度です。

多胎妊娠

クロミフェンやFSH(hMG)による卵巣刺激を用いた場合、副作用として多胎妊娠の可能性があります。多胎妊娠は妊娠中のリスクが単胎妊娠よりも高く、母体や胎児のその後の健康にも大きな影響を与えます。また、産婦人科医や小児科医の減少により、多胎妊娠の妊婦を受け入れる施設も減少しています。

卵巣過剰刺激症候群

卵巣刺激を用いた場合の副作用として卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。OHSSは年齢や卵巣の状態、ホルモンの状態により生じることがあります(発症頻度:1~6%)。OHSSは排卵誘発剤の投与により卵胞が過剰に発育し、黄体期に卵巣腫大、腹水貯留等による多彩な病状を呈する症候群をいいます。その中でも頻度はまれですが血栓症がもっとも重篤で生命に関わる場合もあります。OHSSが重症化する要因は明確ではなく、そのためすべての危険性を回避することは不可能です。OHSSの予防としてHMGを適量投与することや、薬剤の変更などの他に適した治療によって対応します。

精子提供者(以下、提供者)について


提供者は健康であり、かつ血液検査により血液型と感染症をチェックされます。初回に血液検査を実施した後、感染の時期などの影響により感染症が検知されなかった場合の危険性を排除するため、精子をいったん凍結保存します。凍結後6ヶ月に再度血液検査を実施し、この時に感染していないことが確認されたところで、精子はAIDに使用可能となります。
また、問診により提供者自身の知る限りにおいて、血縁(自分の2親等以内の家族:祖父母・父母・子・兄弟姉妹・孫)および提供者自身に遺伝性疾患のないことを確認された方が提供者となっています。提供者の記録は医療機関で厳重に保管されます。

提供精子について

  1. 使用される精子は、事前の精液検査により精液所見が正常であることが確認されます。

  2. 提供者は夫と血液型のみを一致させ、容姿など外的条件に関しては選択することはできません。

  3. 精子提供を受けるにあたり、提供を受ける夫婦には提供者に関する情報は一切与えられません。これは学会の会告で規定されており、生まれた子どもの将来の病気や事故などにより遺伝情報が必要となった場合でも情報は一切提供されることはありません。このことは精子提供者にも説明されており、提供者は匿名性の保持を条件として提供に同意しています。

  4. 精子の提供に際しては、同じ提供者から生まれた子どもの近親婚の確率を下げるため、例えば一人の提供者が精子提供をする夫婦の数を3組まで、および生まれる子どもの人数を5名以内に制限するなどの対応をしています。

AIDによって生まれた子どもの出自を知る権利について


現在、1989年に国連総会において批准された児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)第7条「子はできる限りその父母を知り、かつ父母によって養育される権利を有する」という条文を受けて、AIDによって誕生した子どもの出自を知る権利が指摘されています。諸外国を見ると、既にこの条約に基づいて子どもの知る権利を認める法律を制定している国もあります。
出自を知る権利とはAIDによってこの世に生を受けたこと、遺伝的父も存在することを子ども自身が知る権利があり、アイデンティティの形成において必要な場合には提供者の情報も得る権利があるとするものです。日本においてはこの出自を知る権利は法的に規定されてはいませんが、今後の社会情勢や生殖医療に関する法整備の流れの中で、法制化される可能性もあり得ます。
また、AIDによって生まれたことを知った方々が、提供精子を用いた人工授精で生まれた人の自助グループ(DI Offspring Group、略称DOG)を設立して活動しており、実際にAIDで生まれた人の考えや思いなどの情報を発信しています。

出自を知る権利の関連もあり、私の所属する医療機関も含め現在多くの医療機関では深刻なドナー不足となっています。

 提供精子を用いた人工授精がどうかということに関して、個人的な意見は持ち合わせておりませんが、治療成績だけを見れば些か低い印象があり、実際に医療機関の提示している費用などを調べると1回あたりの治療は高額になります。

つまり、累計でかかる治療費用と治療期間は極めて莫大になるということが予想されます。

現在、法制度も含めて過渡期にあるようにも思いますが、今後の展開がますます注目されます。

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