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走方向転換のバイオメカニクス

球技スポーツにおいて走る方向を素早く変換できる能力は、スポーツパフォーマンスに大きく影響します。一方で方向転換動作は、外傷が発生しやすい動作でもあります。

以上のような背景から走方向転換のバイオメカニクスは身体運動パフォーマンスの向上「目的方向に向けたいかに素早く方向転換するか」という観点と、スポーツ外傷の予防「方向転換に伴う外傷発生をいかに防ぐか」という観点から研究が進められてきました。

走方向転換の種類

スポーツにおける走方向転換はいかに分類されます。

カッティング(cutting):走方向の変換動作

サイドステップカット(side step cut):目的方向と反対側に足を外側に踏み出す動作

クロスオーバーカット(cross over cut):目的方向と同側の足を支持脚の前で交差させて反対側へ踏む出す動作

サイドステップカットはオープンステップ
クロスオーバーカットはクロスステップともいわれます。

また、多くの球技スポーツ競技で攻撃局面は能動的状況(アクション)
守備局面では受動的局面(リアクション)で成り立っているため、トレーニングでもその使い分けが重要となります。

スポーツ外傷予防の観点

特に女性選手では方向転換動作に伴う非接触型の膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)の発生頻度が多く、注意が必要です。

直線走と比べ、方向転転換動作では膝関節における内外反および回旋モーメントが増大するため、前十字靭帯の損傷リスクが向上します。

また、スポーツ中の方向転換動作では男性よりも女性が圧倒的に多いという背景から女性アスリートによる方向転換の研究も盛んに行われています。
これらの研究によると、女性は男性と比べて、股関節、膝関節ともに矢状面(屈曲/伸展)モーメントが小さい一方で前額面(内転/外転)モーメントが大きいことなどが報告されています。
こうした動作メカニズムの相違が、女性における前十字靭帯損傷リスクの向上の一因になっていると推察できます。

女性は横方向に不安定になりやすく、ACL損傷のリスクが高い
→アスレチックリハビリテーションでは動作中の側方動揺コントロールが重要となる

スポーツ中の非接触型ACL損傷が不測のタイミングで生じることから事前準備条件と不測条件での方向変換動作を比較検討した研究では、不測条件の内外反および回旋モーメントは事前準備条件の2倍にも達することが報告されています。

さらに、筋電図による検討の結果、事前準備条件では膝外反に対して内転筋群が活動するなど下肢筋群が選択的に収縮しているのに対して、不測条件では選択的な収縮はなく、膝の負荷に対する全体的な共縮がみられることが報告されています。

ACL再受傷予防の観点からは能動的な方向転換よりも受動的な方向転換の方が受傷リスクが高いことからリアクションドリルなどの不測のタイミングへの対応力を高めるトレーニングも必要

身体運動パフォーマンス向上の観点から

全身移動を伴うターゲットキャッチング場面を設定した研究によると、オープンステップとクロスステップの「歩数指数」「速度低下指数」「方向変換指数」の3つを求めたところ受動的な方向転換動作においてオープンステップがクロスステップよりも有効であると示されています。

また、筋活動の観点からみても、オープンステップの方が外側広筋や腓腹筋外側頭の活動が大きく、走速度と方向転換角度も大きかったとの報告がされています。



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