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ばぁばのピーマン

ばぁばとピーマン

 「わぁ、ピーマン8個で120円?うわ、やっす!」

 物価高に異常気象まで重なって、どんな野菜も100円じゃ買えなくなってもう1年。久しぶりに出会ったお財布に優しすぎるお値段のピーマンを見つけて、頬ずりしたくなる気持ちを抑えて買い物かごに放り込んだ。
ピーマン、久しぶりに買うな。たまにめちゃくちゃ食べたくなるんだよな。晩ご飯、何にしよう?肉詰めもいいし、酢豚もおいしい。ツナとあえて無限ピーマン?シチューに入れてもおいしいだろうけど……ううん、やっぱりいつものアレにしよう。
そう決めた私は、ささみとカシューナッツとその他日用品を買ってスーパーを後にした。

 家に帰ってピーマンをあらう。料理している間はしずかに色んな事に思いを巡らせるのが好きだ。
つやつやしてハリのあるピーマンをざるに転がしながら、私は自分の中の記憶を辿る。
私、小さいときピーマン苦手だったよなぁ。なんで食べれるようになったんだっけ。
あぁ、そうそう。これのおかげだった。幼稚園の頃に横浜のばぁばが作ってくれて、すっごくおいしかったからピーマンも食べれるようになったんだよね。これをおいしく作るコツ、ばぁばはなんて言ってたっけな。

………

 「じぃじ、ばぁばーー!!あそびにきたよーー!」

 幼稚園年中さんのなつやすみ、ひよこ組の証であるお気に入りのきいろの帽子を被って、わたしはじぃじとばぁばの家の前の坂をかけのぼった。
ちょうど、妹が生まれたばっかりで、ママもパパも妹にかかりきりだったから寂しかったんだと思う。ばぁばとじぃじに会えるのがいつもの何倍も嬉しくてたまらなかったのを覚えている。

じぃじとばぁばの家のドアに続く道は、真ん中にかわいい色のレンガが敷かれていて、両脇には茄子とかトマトとか、ピーマンなんかが植えてあった。じぃじとばぁばの家にお泊りするときは、毎朝散歩したあと、お野菜をどれかひとつ収穫させてもらうのが楽しみだった。

 あの日も変わらず、ばぁばと朝のお散歩をして、家に帰りがてらお野菜の収穫をしようとしていた時だった。

「さぁちゃん、今日はどのお野菜を朝ごはんに使おうか?」

ばぁばとわたしは、すくすく育っている野菜たちを眺めながら、どれを収穫しようか相談していた。
本当は茄子がよかったけど、もう少し待てば私のお顔くらい大きくなるって聞いて、ほんとにそんなに大きくなるのか確かめたくなったのを覚えている。茄子はダメ、でも、トマトも、キュウリもきのう食べちゃったから、ピーマンしかなくて。えぇ、ピーマンかぁって。やきそばのピーマン残して、ママに叱られたばっかりだったな。それで、ばぁばにも怒られる覚悟でお話したんだっけ。

「あの、あのね、ばぁば。さぁちゃん、ぴーまん、やなの。」

「へぇ、なんでやなのか、ばぁばに教えてくれる?」

「なんかね、にがくて。でも、たべないと、ままおこるから、やなの。」

「そぉかぁ。そういえばね、ばぁばはピーマンを苦くなくする魔法を覚えたんだよ。きょうはその魔法を使ってみるから、ちゃんと魔法が使えてるか、確かめてくれないかなぁ?」

「たべれなくても、ばぁば怒んない?」

「怒らないよぉ。苦いまんまだったら、それはばぁばの魔法が失敗したってことだからね。もし失敗してたら、朝ごはんはバターと砂糖を乗せたパンにしようか。」

「うん!」

食べれなくても怒られないって聞いて、安心してピーマンをもいだ。ばぁばの魔法がどんなものなのか気になって、一緒にお台所でお料理をさせてもらって。

 あぁ、そう。そうだった。アレをおいしく作るコツは。

「ピーマンを苦くなくする魔法はね、ささみをこんがり、そしてカシューナッツと、塩三振りに、お砂糖をちょこっと、だよ。」

おさんぽ帰りのぺこぺこのお腹は、ささみがこんがり焼ける匂いにたまらずぐうとなって、わたしはピーマンが鍋肌に当たるじゅうという音に、ごくりとつばを飲み込んだ。
そして、緊張の瞬間。本当にピーマン、にがくないかなぁ?やっぱりバター砂糖のパンがいいってお願いすればよかったかなぁ?なんて不安は、ピーマンをぱくりと一口食べたら、すぐに飛んで行った。

「ばぁば!まほう、せいこうしてるね!!!」

ばぁばの作ってくれたささみとピーマンのカシューナッツ炒めはとってもおいしくて、それから、どんなピーマン料理も食べれるようになったのだった。

………

「そうそう、ささみをこんがり、カシューナッツに、塩三振りと、お砂糖をちょこっと。ふふふ。」

ばぁばの魔法の通りに具材を入れて、フライパンを振る。ピーマンの焼ける音とこんがりと焼けたささみの匂いが、食欲をそそる。

「あー、おいしかった。ごちそうさま!そういえば最近、ばぁばとお話してないな。」

ご飯を食べ終わった私は、いそいで片付けを済ませて電話をかけた。そして、二時間もの間、ばぁばと一緒に昔話に花を咲かせたのだった。



ばぁばのピーマン

レシピ(2人分)

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