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『水曜スペシャルノンフィクションどうでしょう 第1回(初稿。オマケで初稿の初稿付き!)』

*注:なんかのオマケで、初稿の初稿をいきなりあげちゃう!


『水曜スペシャルノンフィクションどうでしょう 第1回(初稿の初稿)』


 スペシャルノンフィクションっていうくらいで、しかも水曜だけに水モノがいいだろうから、とっておきの野グソノンフィクションを出さざるを得ない。

 え、幻の類人猿チーターってナニ? ダレ? どうでしょう?

 まず落ち着いて、とりま高円寺から池袋まで深夜歩きするときは注意したほうがいいよ、野グソに! いや、踏むとかじゃなくてね。
 真夜中に高円寺から歩き出すと、高田馬場あたりでクソがしたくなるって噂聞いたことない? ヒント、「高田馬場」は「高田ババ」だよ!
 ハイ、正解はコチラ!

 むかしむかし、ある日のこと。
 もうさあ、終電もなくなっちゃって、でもタクシーに乗る金なんてないから、高円寺から当時住んでいた池袋まで歩いて帰ることにしたわけ。
 俺はそのうちジャングルを従軍する男だぜ、それくらい屁でもない、朝飯前である。

 高円寺から高田馬場までは順調な道のりだった。あまりに順調すぎて、屁の推進力でどれくらい早く進めるか実験とかやりはじめたあたりから、急にお腹が痛くなってきた。

 もちろんココがジャングルだったら、すぐさまそこいらで自由闊達に野グソができる。しかしアスファルトジャングルの東京さじゃ、深夜と言えども人がちらほら。
 例え、人っ子一人いないとしても、大都会東京上京野グソ物語なんて絶対ありえない。フリでもゲリでもありません。

 しかし、当時のコンビニはトイレを貸してくれなかった。うんこのために深夜料金発生中のファミレスに入る金ももったいない。ようやく見つけた公園のトイレはホームレスのおっさんたちの寝床と化していた。

 実は学生時代、よく人が死ぬ山岳部で運試し中にあちこちの山に登り、同時に野グソも学んだ。山岳用語で「野グソ」のことを「キジ撃ち」と申します。キジを鉄砲で撃つ姿勢と野グソの姿勢が似ているかららしい。

 ま、高田馬場にキジは一匹もいません。と余裕ぶってる間もなく、風雲急を告げ、青雲の志を吹き飛ばし、マジでキジ撃ちする5秒前です。ちょっと前からカレのこと好きにしたい! もう辛抱たまらん!

 もはやここまで。高田馬場を流れる神田川沿いの道路脇でキジ撃ちを決行することにする。

 ハイ、コチラ、現場で~す。

 画面向かって右手に見えておりますのが、かの有名な神田川。「貴方はもう忘れたかしら♪」、忘れない、忘れるわけがない!

 画面左上あたり、赤い逆三角形の「止まれ」の看板の真下、その手前寄り、路駐中の白い自転車があるあたり、ちょうど地面の「止まれ」の〝ま”の字の向かって左側が犯行現場、いや、高田馬場の決闘場跡地、古戦場だ。

 ハイライト、プレイバック!
 上から、横から、「止まれ」と言われようとも、俺のキジ撃ちロマンチックは止まらない! 大丈夫大丈夫、すぐに終わる。

 視線は橋の上あたりから、右から左へとキョロキョロ行ったり来たり。深夜3時近いからか幸い人通りは切れている。もちろん背後を突かれたら、一巻の終わりの背水の陣である。

 ええい、ままよ。尻を丸出しにし、キジ撃ちの姿勢を取る。

 そのとき歴史は動いた、ブリブリブリッコと。「若かったあの頃、怖いものは何もなかった♪」
 少なくとも「一緒に出ようねって♪」と悠長なことを言ってる場合ではなかったのだ。

 きっと傍目には、落ちた小銭をケツ丸出しにして、かがんで拾ったくらいの早打ちマックなタイムでキジ撃ちを終える。
 まさにここまでは100点満点の教科書通りのお手本野グソだった。時間・積極性・表現力・タイミング・リズム感・色・艶と非の打ち所がないチーターだった。誰が幻の類人猿やねん!

 しかし、この後、一世一代の大油断を!
 ジーパンの前ポケットからティッシュを取り出そうとキジ撃ちの姿勢から不自然な格好を取ってしまったのだ。そもそもティッシュなんか持っているわけないだろ、幻の類人猿が!

 バランスを崩し、フラフラしたと思ったら、尻ポケットに突っ込んであった手帳が、できたてホヤホヤの野グソの頂きに、オウンゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!

 痛恨の失点ミス! 家グソするときみたいに、ズボンもパンツも全部脱いでいれば、避けられた悲劇である。
 そもそも、せっかくフリーランスのペンペン草になったのに、手帳なんて代物を未練がましく持っているのが悪い。

 せっかくのいい機会なので、墓標代わりにこのまま手帳をオンしたまま捨てていこう。ある意味、とっても礼儀正しくて斬新な自己紹介する野グソみたいでいいじゃん。

 クソ真面目にもこんな手帳を交番に届け出てくれた親切な方に、「ついうっかり落としちゃって…。ありがとうの気持ちです」と俺がお礼がてら、2割分の野グソをあげられる画期的システムの構築もバッチグー整えた!

 ご立派な言い訳を各種揃えられたので、飼い主がチーターを持ち帰らず、その場を立ち去ろうとしたとき、とってもとっても大事なことを思い出す。
 ダイブした手帳には今日教えて貰ったばかりの現像のやり方等々のホカホカ情報が書いてあるんだった!

 あ、どうして高円寺にいたか話をまだしてませんでしっけ?
 でも、俺が中2のとき、「あ、俺はナチュラルボーン戦場特派員だった」と気づいてから約10年間、指1本カメラに触れようと思ったことすらなかったのは有名だよね? ま、まさか、かの名言「写真はカメラマンの仕事、俺は鉛筆1本あればいい」も? モグリめ! 
 ジャングルで従軍する件とかは2回目以降だ、忘れずに来いよ。

 だってさ、そんな話を「別にビデオカメラでいいじゃないですか、キャプチャーすれば静止画にもなるし。最悪、俺は使い捨てカメラでいいっすよ」などのクソ生意気を交えつつ、ジャーナリストのY大先輩に堂々と語ったところ、H先輩のワンツーマンカメラ教室に叩き込まれるハメハメに!

 もうね、平日の真昼間から、欲求不満の有閑マダムとクソガキしかいない高円寺の公園なんかで、大の大人ふたりがH先輩のカメラ1台で交互に撮り合いっこする青空カメラ教室ですよ。こんな羞恥プレイより、青姦したほうが全然マシですよ。

 もちろんカメラ童貞小僧の俺に、シャッタースピードや露出などが分かるわけもなく、まずはカメラの構え方、フイルム交換のやりかた、レンズの脱着方法から手とり足とりおんぶにだっこ(そういえば、カメラに装着してあるレンズ、レンズリングは52mmになっているけど、ホントは35mmで、代表のN大先輩に貰ったんだった)。
 撮影会が始まるとだんだんくんずほぐれつになり、ドアップドン引き、上から下から右から左から、笑って怒って、歩く走るジャンプ!

 で、このH先輩ちゅうんが、カシミール紛争を中心に取材している男フェロモンもひげもたっぷりなナイスガイで、まあ俺も似たようなナイスガイで、さながらナイスゲイの撮影会で、クソガキのひとりは「近寄っちゃいけません」ってママに叱られてましたから。

 撮影後はすぐさま、ボロアパートの一室に雪崩込み、フィルム現像教室だ。別に民間ラブホじゃないよ、高円寺にある、俺が当時出入りしていたフリージャーナリストの巣窟の倉庫兼宿泊所兼暗室だから。

 申し訳ない程度についている小さな台所スペースを黒い布で覆い、即席の暗室のできあがり。
 元々、陽当りが悪く薄暗い部屋中に、現像に使う定着液、停止液、現像液とすっぱい科学臭が充満する。後、誰かが泊まったときに変なことしたのかほのかにイカ臭い。違いますよ~。

 俺がデルモ写真はどんどん出来上がっていくが、H先輩がデルモ写真は露出不足で真っ暗、逆に露出過多で白飛び、たまに露出が合っていてもブレまくりと、「あれ、おかしいなあ、使い捨てカメラでこんな風になったことないっすよ。でも、技術はもう見て盗みましたから、明日からは大丈夫です」と言い終わる前に、また青空カメラ教室へ逆戻りなんて、上級青姦プレイを日が暮れるまで繰り返しましたとさ。

 これだけやって貰ってお値段は、カメラ教室も現像教室もH先輩の無料ボランティア。俺だってフリーのボランティアンさ。
 ま、フリージャーナリストの世界なんて、駆け出しのペーペーはもちろん、その世界のプロになっても食える業界ではない。
 そのご他聞に漏れないH先輩にメシとビールまでしっかり奢って貰いましたけどね。ゴチ!

 という経緯で、終電がなくなり、高円寺から池袋まで歩くハメになったわけ。
 いちいち説明させんなよ、面倒臭せえだろ。

 しかもコッチは今、忙しいんだ。手帳・オン・野グソで!
 どうやら試合はまだ終わっちゃいないぜ、始まったばかりみたいだ。

 自殺点を決めたボールのかろうじてまだ自殺してない部分を指でそっとつまむ。ボールは友達怖くない。臭ッ!

 クソボールを恐る恐るつまんだまま、センターラインへ。間髪おかずにキックオフしたら、サイドのラインギリギリをドリブルで一気に池袋の自宅まで駆け上がる。
 え、捨て子のチーター? トイレ神田川がそのうち氾濫するんじゃね。

 帰宅後すぐ風呂場に直行し、チーターの忘れ形見のついた手帳を、二重三重にした透明なビニール袋に放り込み、厳重に縛る。

 そして、チーターに穢された体をシャワーで洗い流しながら、俺は絶対カメラマンにはならないと誓うのであった。

 後日、カラッカラに乾いた頃合いを見て、風呂場で全裸ゴム手袋をし、ボールは友達を恐る恐る取り出す。

 ほのかに舞い上がる、クソ粉。乾いたクソの匂いがするよ。
 そして、クソで滲んだ手帳の文字を判読しながら、手帳を捨てて、代わりにゲットした家計簿ノートに全部書き写しましたとも。やるときゃ、トコトンやりまっせ。

 以下はちょっとした証拠だぜ。

「●現像液
・コダック、デベロッパーD76の3.8リットル用
・温度計
・計量カップ
・熱いお湯

手順
・お湯を沸かす。
・計量カップにお湯と水をいれて、52℃にする。
・徐々にいれてかき混ぜる。
・とけきったら、おわり。
・さます(20℃くらいまで)

●定着液
・フジフィクスの4リットル用
・温度計
・計量カップ
・30℃以下の水

手順
・4リットルの水にゆっくり徐々にとかしていく。
・とけきったら、おわり(30℃以下)

●現像
1、黒いかばん状の中に、カップ、フイルム巻くやつ、フィルムハサミを入れる。
2、出来上がったら取り出し、現像液(現像液と水を1:1で作る)をナミナミとそそぐ。
3まず10秒ほどゆっくりと振る…etc」

 とまあ、この後も企業秘密は続くわけですが、いや~、かすかに15年前のクソの匂いがするようなしないような家計簿ノートの模写はこのくらいで勘弁しといてやる。

 命懸け、いや、クソ懸けで救ってやった貴重な情報が、今こうして初めて何かの役にたった気がするようなしないような。もちろん用なしになったボールは友達なんか思いっきり捨ててやりましたとも、クソッタレが! お前がな。なんですって! 

 とにかく試合に負けて、勝負に勝ったんだ! クソを笑うモノはクソに泣き虫! 若い頃の野グソは買ってでもしろ!
 
 なぜなら、この野グソのおかげで今の俺があると言って過言ではない。
 野グソのおかげで、頭では俗世のアレコレはすべて吹っ切った気になっていたが、どこかに残っていたちょっとした甘さすら在庫一掃セールですべて吹き飛んだ、ブリブリブリッと謎の類人猿チーターの誕生、ときたもんだ。

 こういう一切しなくてもいい若い頃のクソ苦労が後からジワジワ効いてくる。こんな野グソ野郎に何言っても仕方ねえやってクソミソ扱いされて楽ちん楽ちんちん。

 こうなればしめたもんだ、後はもう腹をくくり、性根を据えてちょっとずつちょっとずつ、小さな根っこを張り伸ばせばいいだけさ。ゆっくり口笛のひとつも吹きながら俺が選んだ茨の道をたまに野グソしながら行くのみだ。

 ま、すべて、もう15年も前のクソ話、時効時効。笑って水に流してよ、あ、水は流れないか、野グソだけに。


 ハイ、なんかのオマケの初稿の初稿は以上です!


 以下から、ようやく本題の初稿です! 初稿の初稿と大差なし!

『水曜スペシャルノンフィクションどうでしょう 第1回(初稿)』

 東京は高円寺にあるボロアパートの一室。そこは、俺が当時出入りしていたフリージャーナリストの巣窟の倉庫兼宿泊所兼暗室だった。

 中2のときに、「あ、俺はナチュラルボーン戦場特派員だった」と気づいてから約10年間、俺はカメラに指1本触れようと思ったことすらなかった。

 写真はカメラマンの仕事、俺は鉛筆1本あればいい。

 そんな話を「別にビデオカメラでいいじゃないですか、キャプチャーすれば静止画にもなるし。最悪、俺は使い捨てカメラでいいっすよ」などのクソ生意気を交えつつ、ジャーナリストのY大先輩に堂々と語ったところ、H先輩のワンツーマンカメラ教室に叩き込まれた。

 平日の真昼間、高円寺の公園で大の大人ふたりがH先輩のカメラ1台で交互に撮り合いっこする青空カメラ教室だ。

 もちろんカメラ童貞小僧の俺に、シャッタースピードや露出などが分かるわけもなく、まずはカメラの構え方、フイルム交換のやりかた、レンズの脱着方法から手とり足とりおんぶにだっこ。撮影が始まるとだんだんくんずほぐれつになり、ドアップドン引き、上から下から右から左から、笑って怒って、歩く走るジャンプ!

 H先輩はカシミール紛争を中心に取材している男フェロモンもひげもたっぷりなナイスガイで、まあ俺も似たようなナイスガイで、さながらナイスゲイの撮影会と、あ、そろそろ限界みたい。じゃあ、残りはまた後でリライトしにくるよ!

(以下、下書き)

 撮影後はすぐさま、ボロアパートの一室に雪崩込み、フィルム現像教室だ。申し訳ない程度についている小さな台所スペースを黒い布で覆い、即席の暗室のできあがり。

 元々、陽当りが悪く薄暗い部屋中に、現像に使う定着液、停止液、現像液とすっぱい科学臭が鼻につく。

 モデル俺写真はどんどん出来上がっていくが、モデルH先輩写真は露出不足で真っ暗、逆に露出過多で白飛び、たまに露出が合っていてもブレまくりと、「あれ、おかしいなあ、使い捨てカメラでこんな風になったことないっすよ。でも、技術はもう見て盗みましたから、明日からは大丈夫です」と言い終わる前に、また青空カメラ教室へ逆戻りを日が暮れるまで繰り返す。

 これだけやって貰ってお値段は、カメラ教室も現像教室もH先輩の無料ボランティア。フリージャーナリストの世界なんて、駆け出しのペーペーはもちろん、その世界のプロになっても食える業界ではない。そのご他聞に漏れないH先輩にメシとビールまでしっかり奢って貰う。

 終電もなくなり、タクシーに乗る金なんてないので、高円寺から当時住んでいた池袋まで歩いて帰ることにする。そのうちジャングルを従軍するんだ、これくらい屁でもない、朝飯前である。

 高円寺から高田馬場までは順調な道のりだった。あまりに順調すぎて、屁の推進力で早く進めるかとかやりはじめたあたりから、急にお腹が痛くなってきた。

 ココがジャングルだったら、すぐさまそこいらで野グソができる。しかしアスファルトジャングルの東京さじゃ、深夜と言えども人がちらほら。例え、人っ子一人いないとしても、都会で野グソなんてありえない。

 しかし、当時のコンビニはトイレを貸してくれなかった。うんこのために深夜料金発生中のファミレスに入る金ももったいない。ようやく見つけた公園のトイレはホームレスのおっさんたちの寝床と化していた。

 実は学生時代、よく人が死ぬ山岳部で運試し中にあちこちの山に登り、同時に野グソも学んだ。山岳用語で「野グソ」のことを「キジ撃ち」と申します。キジを鉄砲で撃つ姿勢と野グソの姿勢が似ているかららしい。

 ま、高田馬場にキジはいません。とか言ってる間もなく、風雲急を告げ、青雲の志を吹き飛ばし、マジでキジ撃ちする5秒前です。ちょっと前からカレのこと好きにしたい! もう辛抱たまらん!

 もはやここまで。高田馬場を流れる神田川沿いの道路脇でキジ撃ちを決行することにする。

 ハイ、コチラ、現場で~す。

 画面向かって右手に見えておりますのが、かの有名な神田川。「貴方はもう忘れたかしら♪」、忘れない、忘れるわけがない!

 画面左上あたり、赤い逆三角形の「止まれ」の看板の真下、その手前寄り、路駐中の白い自転車があるあたり、ちょうど地面の「止まれ」の〝ま”の字の向かって左側が犯行現場、いや、高田馬場の決闘場跡地、古戦場だ。

 ハイライト、プレイバック!

 上から、横から、「止まれ」と言われようとも、俺はキジを撃ちたいんだ! 大丈夫大丈夫、すぐに終わる。

 視線は橋の上あたりから、右から左へとキョロキョロ行ったり来たり。深夜3時近いから幸い人通りは切れている。もちろん背後を突かれたら、一巻の終わりの背水の陣である。ええい、ままよ。尻を丸出しにし、キジ撃ちの姿勢を取る。

 そのとき歴史は動いた。ブリブリッと。「若かったあの頃、怖いものは何もなかった♪」

 少なくとも「一緒に出ようねって♪」と悠長なこと言ってる場合ではなかった。きっと傍目には、落ちた小銭をケツ丸出しにして、かがんで拾ったくらいの早打ちマックなタイムでキジ撃ちを終える。

 まさにここまでは100点満点の教科書通りのお手本野グソだった。時間・積極性・表現力・タイミング・リズム感・色・艶と非の打ち所がない。

 しかし、この後、一世一代の大油断を!

 ジーパンの前ポケットからティッシュを取り出そうとキジ撃ちの姿勢から不自然な格好を取ってしまったのだ。そもそもティッシュなんか持っているわけがない。

 バランスを崩し、フラフラしたと思ったら、尻ポケットに突っ込んであった手帳が、できたてホヤホヤの野グソの頂きに、オウンゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!

 痛恨の失点ミス! 家グソするときみたいに、ズボンもパンツも全部脱いでいれば、避けられた悲劇である。

 そもそも、せっかくフリーランスのペンペン草になったのに、手帳なんて代物を未練がましく持っているから悪い。

 せっかくのいい機会なので、墓標代わりにこのまま手帳をオンしたまま捨てていこう。ある意味、とっても礼儀正しくて斬新な自己紹介する野グソみたいでいいじゃん。

 真面目にもこんな手帳を交番に届け出てくれた親切な方に、「ついうっかり落としちゃって」と俺がお礼がてら、2割分の野グソをあげられる画期的システムの構築もバッチグー整えたみたいなもんだ!

 ご立派な言い訳を各種揃えれたので、飼い主が持ち帰らずにその場を立ち去ろうとしたとき、とってもとっても大事なことを思い出す。

 ダイブした手帳には今日教えて貰ったばかりの現像のやり方等々のホカホカ情報が書いてあるのだ!

 どうやら試合はまだ終わっちゃいないぜ、始まったばかりみたいだ。自殺点を決めたボールのかろうじてまだ自殺してない部分を指でそっとつまむ。ボールは友達怖くない。臭ッ!

 クソボールを恐る恐るつまんだまま、センターラインへ。間髪おかずにキックオフしたら、サイドのラインギリギリをドリブルで一気に池袋の自宅まで駆け上がる。
 え、捨て子のチーター? トイレ神田川がそのうち氾濫するんじゃね。

 帰宅後すぐ風呂場に直行し、チーターの忘れ形見のついた手帳を、二重三重にした透明なビニール袋に放り込み、厳重に縛る。

 そして、チーターに穢された体をシャワーで洗い流しながら、俺は絶対カメラマンにはならないと誓うのであった。

 後日、カラッカラに乾いた頃合いを見て、風呂場で全裸ゴム手袋をし、ボールは友達を恐る恐る取り出す。

 ほのかに舞い上がる、クソ粉。乾いたクソの匂いがするよ。
 そして、クソで滲んだ手帳の文字を判読しながら、手帳を捨てて、代わりにゲットした家計簿ノートに全部書き写しましたとも。やるときゃ、トコトンやりまっせ。

 以下はちょっとした証拠だぜ。

「●現像液
・コダック、デベロッパーD76の3.8リットル用
・温度計
・計量カップ
・熱いお湯

手順
・お湯を沸かす。
・計量カップにお湯と水をいれて、52℃にする。
・徐々にいれてかき混ぜる。
・とけきったら、おわり。
・さます(20℃くらいまで)

●定着液
・フジフィクスの4リットル用
・温度計
・計量カップ
・30℃以下の水

手順
・4リットルの水にゆっくり徐々にとかしていく。
・とけきったら、おわり(30℃以下)

●現像
1、黒いかばん状の中に、カップ、フイルム巻くやつ、フィルムハサミを入れる。
2、出来上がったら取り出し、現像液(現像液と水を1:1で作る)をナミナミとそそぐ。
3まず10秒ほどゆっくりと振る…etc」

 とまあ、この後も企業秘密は続くわけですが、いや~、かすかに15年前のクソの匂いがするようなしないような家計簿ノートの模写はこのくらいで勘弁しといてやる。

 命懸け、いや、クソ懸けで救ってやった貴重な情報が、今こうして初めて何かの役にたった気がするようなしないような。もちろん用なしになったボールは友達なんか思いっきり捨ててやりましたとも、クソッタレが! お前がな。なんですって!

 とにかく試合に負けて、勝負に勝ったんだ! クソを笑うモノはクソに泣き虫! 若い頃の野グソは買ってでもしろ!
 
 なぜなら、この野グソのおかげで今の俺があると言って過言ではない。
 野グソのおかげで、頭では俗世のアレコレはすべて吹っ切った気になっていたが、どこかに残っていたちょっとした甘さすら在庫一掃セールですべて吹き飛んだ、ブリブリブリッと謎の類人猿チーターの誕生、ときたもんだ。

 こういう一切しなくてもいい若い頃のクソ苦労が後からジワジワ効いてくる。こんな野グソ野郎に何言っても仕方ねえやってクソミソ扱いされて楽ちん楽ちんちん。

 こうなればしめたもんだ、後はもう腹をくくり、性根を据えてちょっとずつちょっとずつ、小さな根っこを張り伸ばせばいいだけさ。ゆっくり口笛のひとつも吹きながら俺が選んだ茨の道をたまに野グソしながら行くのみだ。

 ま、すべて、もう15年も前のクソ話、時効時効。笑って水に流してよ、あ、水は流れないか、野グソだけに。


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