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【挫折学】講義⑱「ある元高校球児の話」

ここで一つ、私の知人の話をさせてください。子どもの友人のパパ、いわゆるパパ友です。

彼は学生時代、かつて甲子園出場まであと一歩に迫ったような強豪高校で野球をしていましたが、努力の甲斐無く、レギュラーに定着することはできませんでした。中学まではそれなりに自分の力に自信を持っていたものの、レギュラーたちの実力はそれを遥かに上回っていました。

しかし、野球で上に上がることを諦めきれなかった彼は、その後、大学でも野球を続けました。

大学卒業を控え、プロからも企業チームからも声がかからなかった彼は、それでもまだ諦めきれずに、一旦就職しながらも地元のクラブで野球を続けることを決意します。しかも、趣味としてではなく、あくまでも上を目指してです。

その時点での彼の目標は、独立リーグのテストに挑戦し、合格することでした。

高校、大学と目立った成績をあげてこなかった上に、仕事を抱えながらの挑戦。周囲には無謀に見えたかもしれません。しかし、彼は本気でした。

平日は仕事終わりにバッティングセンターに通う毎日。週末は、クラブチームで練習や試合に明け暮れました。

都市対抗野球の予選で、実業団チームと対戦し、ゆくゆくプロ野球選手になるような有望株の凄さを目の当たりにしながらも、「自分は自分」とコツコツ努力を続けました。

「これで最後」と決めた独立リーグのトライアウト。結果は、あえなく不合格。しかし、このとき彼はようやく「自分がやれるところまでやりきった」という思いでバットを置くことができたそうです。

確かに目標には手が届かなかったかもしれない。でも、高校卒業や大学卒業といった与えられた節目で区切りをつけるのではなく、あくまでも自分自身がやりきったといえるところまで完全燃焼した経験は、自分にとって重要だったかもしれない、と後に彼は語っています。

25歳から本格的に仕事一本に絞って生活を始めた頃は苦労もしたそうですが、30代後半に一念発起し、難関と言われる社会保険労務士試験へのチャレンジを決意。3年目についに合格を勝ち取り、今は新たなキャリアを歩んでいます。

試験合格時に話を聞きましたが、やはり、「たとえ結果が出なくても、野球を納得するまでやりきった経験が、この試験挑戦にも活かされたかもしれない」と語っていました。

1年目、2年目とあと一歩で不合格となった。働きながらの勉強の日々に心が挫けそうになった。「でも、まだ納得するまでやりきっていない」と3年目も挑戦。試験が終わったあとは、「納得いくまでやりきったから、結果はどうあれ、これで最後にしよう」と思えたそうです。

もしこの試験に合格できなかったとしても、彼にはきっとこのチャレンジは財産として残ったのではないでしょうか。

彼のケースのように、一見挫折と思える出来事でも、本人が納得するまで取り組むことで、未練や後悔が少なくなるように思います。また、その経験が次のチャレンジにつながることもあるでしょう。

彼が3回目の社労士試験終了後に感じた「納得いくまでやりきったから、結果はどうあれ、これで最後にしよう」という心持ちを、ひとりでも多くの人が持つことができれば、と思い、このエピソードを紹介させてもらいました。

ちなみに、彼とは時々一緒にバッティングセンターに行くのですが、「いやー、昔はよくこんな速い球打ててたなーと思いますね」と笑う彼は、今、心から野球を楽しんでいるようでした。

(【挫折学】講義⑲につづく)

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